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第二話 運命の出会い

 第一王女のアリア姉さまが言う。

「これは王家に百年は残る黒歴史よ。なにか質問があったら撮影担当の影に直接聞いてちょうだい」


 再び部屋の灯りがすうっと暗くなり、抜けるような青空とピンク色の桜並木。春らんまんの学園が映し出された。画面上にテロップが流れる。


『入学式での出会い☆』 


——そうか、俺とフランの出会いから婚約に至るまでの経緯をみんなに見せようということか。俺たちの真実の愛を知れば、父上も婚約に納得してくれるはずだ。ちょうどいいじゃないか。


 映像は入学直後の初々しい生徒たちを映しだしている。俺は真新しい制服をまとったマリエルをエスコートしていた。


 婚約者のマリエルは明るく輝くような笑顔で言った。


『エド、これからよろしくね』

『同じクラスだといいな。マリエル』


(マリエルに対して恋人のような愛情は感じなかったが、幼なじみとしての友情はあった。なぜ、マリエルはあれほど意地悪な女に変わってしまったんだろう……)


「まあ、マリエルの制服姿を初めて見たわ。初々しいわね~。これで十六歳でしょう。これからどんどん美しくなるわね」母上がひとりごちた。




 映像のBGMが変わって……俺がひとりで歩いている場面になった。淡いピンクの花で彩られた並木道。はらはらと散った花びらがじゅうたんのように石畳に広がって、どこもかしこも春の色だ。


 突然、前からピンク髪の少女が走ってきて、すれちがいざまに俺の横で何かにつまづいた。俺のほうへよろけた彼女を、映像のなかの俺が格好よく瞬時に抱きとめる。


(よっしゃあ。よくやった、俺!)


『あ、あの! すみませんでした。助けて頂いてありがとうございます。私は男爵家のフランといいます。あ、あの、お名前をお伺いしてもいいですか?』

 俺の胸に両手で縋りついた恰好で、ピンク髪の少女は可愛らしく首をかしげる。


——フランが目を輝かせて頬を上気させているのが見える。


(フランは、あの時、俺が王子だと知らずに一目ぼれしたと言っていたな……運命の出会いってあるんだなぁ……)


 俺はフランに名乗った。

『エドワード・エンバラスだ』


『あ、え、エンバラスって、第一王子様!? きゃあ、申し訳ありません。私、平民から養女になったばかりで貴族のこととかくわしくないんです。こんな素敵な男性が王子様だなんて知らなくて。やだ。どうしよう……』

 顔を真っ赤に染めて涙目でオロオロしている。


 あまりに恐縮してうろたえる姿が可笑しくなって

『学園内で身分は関係ない。不敬には問われないから気にするな』と笑いながら伝えると、フランはぱあっと顔を輝かせた。


『学園では平等って本当なんですねっ!安心しました。エドワード様はお優しいのですね。もし良かったら、同じ学び舎の生徒として、これから仲良くして頂けると嬉しいですっ』

 平等というのはあくまで建前だ。だが、俺の言葉をそのまま信じたフランの純真さが眩しかった。


 フランはぺこっとお辞儀をすると、スカートをひるがえしてぱたぱたと駆けていった。



 俺が王族とは知らずにフランは恋に落ちたんだ。ふたりの運命の出会いの場面をもう一度みられるとは思わなかった。俺が美しい思い出に浸っていると、イブ姉さまの声がした。


「まさか、エドワードはこれが運命の出会いなんて思っていないでしょうね」

(え? いや、これは運命だろ……)

「さすがにそこまでバカでは無いでしょう」と母上。

(ええっ、母上まで何を言ってるんだ)


 すると、アリア姉さまがイブ姉さまに向かって言った。

「イブ、エドワードは入学式で挨拶したのよ。エドワードの顔を知らない生徒がいるわけがないじゃない。身分が低いものこそ粗相がないよう必死で顔を覚えるものだわ」

「そうよねぇ……」


(た、たしかに……どうしてフランは俺を知らないなんて言ったんだ)


 俺の脳裏に疑問が浮かんだが、次のシーンが流れはじめると俺の疑問も一緒に流れていった。



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