第8話-呪われた種族ガーダン-
「1つ聞いていい?」
「えっ、あっはい。どうぞ」
「そのガーダンは君のものではないのか?」
ルイスさんに突然質問されて、最初はどういう意味かわからなかった。ものって、私の従者かどうか聞いているのかな。あんまり好きな言い方じゃないな。
「その、私の従者ってことでいただきました。でも、こんなことになっちゃったから、今はただの友達です」
「ん〜?」
眉間にとても深い皺が寄っていた。腕組みして、首を傾げて、遠くを見ている。そんなに変なこと言ったかな。ずっと一緒にいてくれている友達なんだけど。
「ファニーさんは、ガーダンという種族をどれだけ知っているの?」
「ガーダン、ですか?要人警護を仕事にしている種族だって」
「まぁそうなんだけど。うーん、ちゃんと教えられていないんだね。ガーダンは、他人の言うことに絶対服従するんだ」
「絶対、服従?」
「その通り。とてつもなく従順な種族と思ったほうが良い。その上戦闘力が高いから、ファニーさんの言う通り要人警護として重宝されている」
どんな顔しているのか気になってティーブを見たけど、いつもと変わらない表情。何とも思っていないの?だって、これじゃまるで、ティーブ自身が認めているみたい。
「ちょ、ちょっと待って下さい。奴隷じゃないんですから、そんなわけないじゃないですか。それに、私の言うこと聞いてくれないこともあったんですよ?」
「言うことを聞かない?それって、例えばどんなこと?」
「どんなって、私を置いて先に城に行ってって言っても聞いてくれないんです。そうだよね?」
「はい。私はファニー様から離れないようにと言付けられておりました」
いつものように淡々と答えるティーブが、いつもと違うように見える。言付けられてって、誰かに命令されていたみたいな言い方じゃん。
「なるほど。それはきっと、これはファニーさんのものではなかったんだ。誰かから側にいるように言われていて、破らない範囲で言うことを聞いていてくれたんだな」
「こ、これとか言わないで下さい。そんな言い方、ヒドいですよ」
「ああ、すまない。つい」
こんなに声を荒げるつもりなんてなかったのに。とても真剣な顔のルイスさんと、いつもと変わらないティーブ。他人の言うことしか聞かない生き方なんて、本当にそれで良いの?
「ファニーさんは、良い人なんだね」
「え?」
「ガーダンのことをそんなふうに言う人を久しぶりに見たよ。人間にとっては便利な種族とも言えるからね。奴隷のように虐げなくても、何も反抗しないから」
「だからそれは」
「待って。1つわかって欲しいことがある。ガーダンも、賢者も、それに人間も、アキシギルという世界に呪われているんだ。だから、これは仕方がないことなんだ」
そんなこと言われても、わかるわけないし、わかりたくない。呪いなんだとしたら、解いてあげないと。
「納得できないのはわかる。でもわかって欲しい。これは、とても難しい問題なんだ。ちゃんと説明してあげたいんだけど、俺にもわかっていないことが多すぎる。魔物もアキシギルの呪いの産物かもしれないと考えているくらいだ」
魔物まで呪いの産物。そうだとしたら、魔物といくら戦ったところで無駄ってことになる。魔物が増え続けているのが、アキシギルの呪いのせいなんだったら、解かないとなんにもならない。
「わかりました」
「そうか、ありがとう。まぁすぐには、」
「呪いを解きましょう、全部。それで魔物が生まれない世界にして、ティーブのガーダンの呪いを解いて、私にどんな人間の呪いがあるのかわからないけど。もちろん、ルイスさんの賢者の呪いも全部」
「ん?」
ルイスさんは口をパクパクさせているけれど、そんなに変なことは言っていない。呪いを全部解くことができれば、もう誰も悲しまないですむ。魔物に苦しめられる人がいなくなるし、ティーブが自分のやりたいことを出来るようになるし、ルイスさんが封印されることだってない。
「いやまぁ、呪いっていうのは言葉の綾というか。うーん」
「大丈夫ですよ。きっと方法はあります」
「う、うん。そうだね」
あきれられたかな。まぁ余命3年でできることじゃないかもしれない。それに賢者のルイスさんの方がアキシギルに詳しいのはわかっている。だって世界の麓に辿り着いたことがある人だから。でも、こういうのはやっぱり、誰かがやらないといけないことだから。
「思ったのとは、ちょっと違うけど。まぁいいか。でもね、ファニーさん。これだけは覚えておいて欲しい。ガーダンの、いやティーブくんの正式な主人としての自覚はしておいて欲しい」
「主人とかじゃないです。友達です」
「わかってる。ファニーさんがそう思っているのはわかっている。でもね、これは呪いなんだ。どんなに友達だと思ったとしても、ティーブくんにとってファニーさんは主人だ」
「でも」
ティーブをまた見る。ずっと一緒の見慣れた顔、ゴブリンと一緒に戦ってくれた従者の顔、表情一つ変えない友達の顔。従者ってことになっていたけど、今は友達になりたい。なのにこのまま、言うことを聞いているだけなんて悲しい。
「言いたいことはわかるんだけどね。でもこれはファニーさんとティーブくんのためでもあるんだ。何かを頼むときは、注意しないといけない。でないと大変なことになるよ」
強めの口調と真剣な表情。それってつまり、私が気をつけないとティーブは死ぬまで戦い続けちゃうってことだよね。
「すまない、少し口調が強かった。それだけ大事なことなんだ。慣れるのは大変かもしれないけれど、気を付けてくれ」
「あっ、はい。わかりました」
ティーブは全く動じていない。その生死の手綱を握っている自分の手を見つめる。私って、今まで、どれだけ危ないことをお願いしちゃってたんだろう。