第17話
それからまた数日して決勝の日。あれから進展がないのは残念だけど、応援はちゃんとしないと。ずっと留守番してもらってたアーちゃんにも、最後くらい見せてあげたい。
「ねぇルイス。アーちゃんも連れてっちゃダメかな?」
「まぁ、そうだな。リズ。そろそろ良いだろ」
「はぁ。まぁ今日は知らない人間とガーダンが戦うだけだし、大丈夫なんじゃない。ちゃんと抑えなさいよ?」
「は、はい」
私とドワーフの戦いを見せるのが一番ダメだと思われていたみたい。試合ってわかっていても目の前で私が傷ついていたら、なにをするかわからないってこと。でも一緒なら大丈夫。
手の中で怖がりながらも楽しそうなアーちゃんと一緒に、ヴィンダーさんとルイスとリズさんって、今日はティーブ以外みんな揃ってる。でもちょっと気になるのは、他のドワーフが試合をどう思っているのかっていうこと。
「あの、ヴィンダーさん。ドワーフの人達って、今日の試合をどう思ってるんですか?」
「んぁ?どうって?」
「えっと。ドワーフの大会なんですよね。違う種族の人に賞品を盗られちゃいますよ?」
「かまわねぇ。俺らは人間みてぇに欲深くはねぇ。それくれぇ誰も気にしねぇよ」
決まりごとを破っていないなら気にしない。そういうことらしいけど、そんなに割り切れちゃうものなのか。
「んなことより。あいつ何者だ?」
「ヴィンダーさんも知らないんですか?」
「おう。まぁ客人はいねぇこともねぇからな」
ティーブの決勝の相手は、白い甲冑の女の人。予選の時から目立っていたけれど、色々あって一度も試合を見れなかった。
決勝が始まる。
剣を一本。武器は互いに同じもの。開始と同時に踏み込む白い人と、その場で迎え撃つティーブ。
鋭く突き出された白の剣は、ティーブの剣をすり抜けて顔をかすめる。洗練された攻撃は、一瞬だけ花弁が舞い散っているように見えた。
ギリギリで避けたティーブは、足下へと剣を振り抜く振り抜く。まるで地面に咲く花を刈り取るように。
白が跳び、回る。
一瞬の出来事。ティーブの剣を跳んで避けただけじゃなくて、足場にしながら空中で回転している。
剣がぶつかり合う。
着地を狙ったティーブの剣を、白の剣が切っ先で受け止める。気付けば試合開始前と同じ場所に立っている。闘技場を周りながら互いに間合いを計っているかのよう。
ティーブが剣を突き出す。
さっきまでの叩き切るような攻撃ではなく、突き刺すような攻撃。対して、白い人も真正面から剣で突いている。切っ先同士が、鋭い音を響かせる。
ティーブの足元には砂煙。白い甲冑の女の人の足元には花弁。
そう見えたのは、私だけじゃないはず。武骨で力強い剣と、優雅に舞う剣。同じ剣のはずなのに、対照的な剣筋。
白い剣が振り上げられ、ティーブの上半身が浮かされてる。首元を狙う白い剣と、それを防ぐ剣。止められたとしても舞い踊ることを止めない白い剣と、全てを受け止める無骨な剣。
花弁のように舞い踊る白い剣を止めたのは、剣じゃなかった。
ティーブの蹴りで、花弁は散って闘技場の隅に落ちる。地面に串刺ししようとする剣と、また舞おうとする白い剣が交差する。はかなく散ってしまった花弁は立ち上がることができない。
あとは摘み取られるだけ。
一度でも散り落ちてしまった花弁は、自分の力で蘇ることはない。そのはずだった。白い閃光とともに鳴り響いたのは無数の剣がぶつかり合う音。
返り咲くのは、花弁ではなく剣の花。
まるで花弁のようだった白い剣が、現実になってしまった。咲き乱れた剣の花は、まぎれもなく本物の剣。
夢中になっちゃってたけど、これってどういうこと?見間違い、なわけないよね。白い甲冑の女の人の手に剣が集まっていて、花みたいに並んでいる。
さっきまで優勢だったはずで、あと少しで勝てるはずだったのに、逆に追い詰められちゃってる。あんなにたくさんの剣が、白い人の思い通りに動いているみたい。
「ね、ねぇルイス。あれってなに?」
「なにって、まぁ剣の魔法だな」
「あの白い女の人って賢者なの?」
甲冑だったから顔は見えなかったし、だから気付けなかったのかな。花みたいな剣は、ティーブの剣を盾みたいに全部受けとめている。それだけじゃない。たくさんの白い剣を巧みに操っていて、反撃が激しい。
「あのバカ」
「リズ。なんか知ってるのか?」
「はぁ。あとで教える。それより決着するんじゃない?」
闘技場ではティーブが壁際まで追い込まれちゃってる。剣の花は見とれちゃいそうになりそうなくらい綺麗なんだけど、血しぶきをあげながら真っ赤になっていくのは見てられない。
ティーブが床に膝をついて、決着がついてしまう。
白い甲冑の女の人の勝利と、ティーブの敗北。聞いたこともないくらい大きな歓声になると思っていたけれど、静まり返ってしまった闘技場。
「ヴィンダーさん?」
黙りこくって闘技場を睨みつけているのは、ヴィンダーさんだけじゃない。全てのドワーフが同じようになっていて、いつも優しいドワーフの人達とは思えなかった。




