第15話
そんな調子でずっと考え込んだまま、次の試合の日が来てしまう。相手はティーブ。ちゃんと作戦を考えなきゃいけなかったのに、あれからなにもできていない。
目の前でティーブが、ゆっくりと剣を構えている。私も弓を取り出すんだけど、どう戦おう。ドワーフと戦ったときみたいに弓を投げても、きっと通じない。狙いを知っているからとかいうんじゃなくて、ティーブから距離をとろうとしても追いつかれるだろうから。
頭に浮かぶのはリズさんの言葉。始まる前に弓を引き絞ればいいというもの。これからの旅に必要なこと。でも今は必要のないこと。これからの旅でやらなきゃいけないこと。でも今はやってはいけないこと。
試合が始まる。
矢を番えようとして、その前に後ろへ跳ぶ。振り上げられた剣の切っ先が鼻をかすめる。そのまま踏み込まれたティーブの足に、番えそこねた矢を突き刺す。
そのまま後ろに跳んで、壁にぶつかる。
もっと距離が欲しいけど、下がれない。ティーブはもう目の前で、剣は大きく振り上げられていて、逃げ場はない。剣を振り下ろされたら、避けきれない。
ティーブが止まった。
振り上げられたままの剣と、歯を食いしばるティーブ。昨日リズさんに言われた言葉がまた頭に浮かんだ。ガーダンが主人を攻撃できるわけない。
「こ、降参します」
大きな歓声は鳴り止まない。勝てないだろうなって、なんとなく思っていた。それでもこんな負け方、悔しい。
係の人に励まされながら闘技場をあとにする。私の良くないところは、自分がどうしたいのかしか決めていないこと。生き方を探したい。そんな自分のことしか決められていないこと。
控室に戻ってからも、色んなドワーフに称えられた。ここまでこれただけスゴイって言ってくれたことにお礼をしながら、心が晴れない。
私にだって言いたいことはある。だって、ついこの前まで結婚して人生も終わりなんだって、そう思っていた。ルイスと一緒に世界を旅するなんて、行けたらいいなって思っていたけれど、本当に行けるなんて思えなかった。
でもそれは昔のこと。世界樹の下へ行く。私は生き方を探すため、ルイスは魔物が増え続けるのを止めるため。ティーブがどう思っているかはわからないけど、ガーダンの呪いを解く手掛かりがあれば良いなって思ってる。
目的地は同じだけど、目的はそれぞれ違う。
じゃぁ私は、どこまで一緒に行けるんだろう。ルイスは途中までって言っていた。リズさんみたいに最後まで行くって言い切りたいけど、それはできない。私は賢者のリズさんほど強くはないから。
それでも私は、いつまでも連れ出してもらっているだけはよくない。
「ファニー様、お待ちください。お怪我はありませんか?」
「あっ、うん。大丈夫」
気づいたら闘技場の外に出ちゃってた。ティーブが追いかけてくれたみたいで、後から出てきたはずなのに、もう後ろにいる。
「ティーブは痛くなかった?つい刺しちゃって」
「問題ありません」
いきなり切り付けられたから持っていた矢を足に突き立てちゃった。治ってはいるんだろうけど、でも痛かっただろうな。
「そうだ、おめでとう。明日は決勝だね」
「はい」
「勝てそう?」
「申し訳ありません。お約束はできません」
もう1つの準決勝を見逃しちゃった。ちゃんと見てなきゃいけなかったのに、これじゃどっちが勝ったのかもわからない。ティーブは自由に動けないところがあるから、私がしっかりしなきゃいけないこと。
「ヴィンダーさんが見てくれてると思うから、あとで教えてもらわなきゃね」
「はい」
自分のことで精一杯になってたのかな。もっとティーブのことも考えないと。ずっと助けてもらっているのに、なにも返せていないから。
「ねぇ、ティーブってさ。なにかやりたいこととかないの?」
「いえ。ファニー様のお供ですので」
「でもさ。私って、あと3年しか生きられないんだよ?そのあとはどうするの?」
「考えていません」
迷いが全然ない。きっと心の底から思っていること。本来だったらツイグ王国の他の人の従者になったりしたんだけど、生き残りは私だけ。
もうツイグ王国に戻るつもりはない。だけどティーブのこれからのことは、私がちゃんとしておかないといけないこと。
「ルイスに頼んでさ。ガーダンの国に行けないか話してみましょ。ちょっと先に鳴るかもしれないけど」
「はい」
決めるにしたって、ちゃんとティーブと同じ種族のガーダンと話した方が良いから。
やっぱりこうなっちゃうよね。これは私の生き方じゃない。ティーブとか、ルイスとか、ヴィンダーさんとか、誰かの役に立つ生き方は私の探しているものじゃない。ツイグ王国から出るときには気づいていたことのはずなのに、生き方を探すって難しいんだな。




