第14話
「おう、見事だったな。んぁ、どうした?浮かねぇ顔だな」
「は、はい」
ここに来るまでにもたくさんのドワーフに歓迎されたけど、あんまり納得のいく内容じゃなかった。最初の最後の一射になるんだから、本当なら確実に勝てる頭を狙うべきだった。なのにギリギリで足を狙っちゃった。
会場に来ていたヴィンダーさんに話しかけられる。意外だったのはリズさんも来ていたこと。席はちゃんと空いているんだから、ずっと立ってないで座ればいいのにな。
「ずいぶんと優しい戦いをするのね」
「その、本当は頭を狙うつもりだったんです」
「ははは。嬢ちゃんらしくていいじゃねぇか」
「そういうことじゃないんだけど」
ヴィンダーさんの横に座ったら、リズさんが目の前に立つ。真っすぐ見つめられて、なにを言われるのかって思っていたら弓を引き絞るポーズをとられる。見えない矢の先は私の額に向けられている。
「え、えっと」
「こんな風に、始まる前から狙えば良かったじゃない。飛び道具の方が速いんだから、確実に当てられるわ」
次の試合の歓声があがる。戦っているのは、あの白い甲冑の女の人。気になっていたし見たかったんだけど、それどころじゃない。リズさんが目の前に立っているから見えないっていうのもある。でもそれ以上に、言われていることを受け止めきれない。
「おいおい。なんてこと言い出すんだ」
「どうして?」
「どうしてって、おい。そんなん戦士の戦い方じゃねぇだろ。なんつうか、卑怯じゃねぇか」
「そんなの知らないわよ。私は戦士じゃないし、あなたもでしょ?」
私は戦士じゃない。それでもリズさんに言われたようなことは、思いついても出来ない。だってそんなの、喉元に剣を突き付けながら試合を始めるようなものだから。
大きな歓声があがる。白い甲冑の女の人が勝ったみたいで、みんなそのひとのことを叫んでいる。リズさんは弓のポーズをやめて腕組みしているけれど、試合の事なんて興味ないみたいにずっと私を見ている。
「言わせてもらうけど、賢者は戦士じゃない。これから戦わないといけないのは戦士じゃなくて賢者なのよ。それも容赦なく襲ってくるわ」
「は、はい」
「なんでぇ。心配してんのか?」
「この子じゃなくて、ルイスのことを心配してるの」
言いたいことはわかるし、必要だっていうのもわかる。賢者はドワーフと同じで魔物じゃない。敵として襲ってくる人間を相手にするときに、さっきの試合みたいに迷っていたら命取りになる。もしかしたら、ルイスに迷惑かけちゃうかもしれない。
「リズさんって、その、ルイスのためにどこまでできるんですか?」
なんでこんなこと聞いちゃったんだろう。生き方を探したい。そんな自分のことのためにルイスと世界を旅しているのが私。だけどリズさんは、なにかが根本的に違う気がする。
「どこまでって聞いた?ルイスが世界の麓に辿り着くためなら、世界の全てを敵にしたって良い。どんな卑怯なことでもするわ」
「そ、そんなに」
「お願いだから、邪魔だけはしないで」
くやしいけど、今の私にそこまでの覚悟なんてない。ルイスからは危ない旅になるって、ずっと言われていたけれど、心のどこかで一緒に旅をしていることを楽しんでしまっていた。
「あ、あの、私」
「なぁ嬢ちゃん。あんまし話が見えねぇんだけどよ。どこに行くつもりなんだ?」
「そ、それは」
「世界の麓よ。アキシギルで最も尊くて、アキシギルの始まりの地、そしてアキシギルで最も辿り着くのが困難な場所」
代わりに答えてくれたリズさんの声は、いつもより力強い。まるで覚悟を自分に言い聞かせているみたいで、ルイスのためにという決意を感じる。
「お、おう」
「ドワーフさん。このことはくれぐれも内密にね」
「あ、ああ。別にいいけどよ。そんなところに一緒に行って、嬢ちゃんは大丈夫なのか?」
どうなんだろう。ルイスは問題ないって思ってくれてるはずだけど、同じ賢者のリズさんはそうでもないみたい。少なくとも、リズさんは私よりたくさんのことを知っているし、私と違ってルイスが世界の麓へ行くことを全力で応援している。
なんだか考えがまとまらない。
「いいんじゃない?どうせ途中までなんだから。それより、あなたのガーダンの試合が始まるわよ」
大きな歓声に包まれて登場したティーブ。その剣は相手のドワーフを翻弄し、ハンマーの軌道を逸らしていく。
それをただ見ているだけ。どうせ途中まで。リズさんの声が頭にずっと残っていて、周りの歓声も、ティーブが戦う音も、ただ聞こえてくるだけ。
「ねぇ、余計なお世話かもしれないけど、トーナメントだと次はガーダンと戦うのよね。どうするつもり?無傷だってわかっていたとしても、ガーダンが主人を攻撃できるわけないじゃない」
「いや、それは俺も思ってたけどよ。そこは試合に出る嬢ちゃんに決めてもらうしかねぇだろ」
「それもそうね。じゃぁ私は戻ってるわ」
試合に勝ったティーブが闘技場から出ていくのを見つめる。たくさんのドワーフに埋め尽くされた会場の中で、私は独りで座っているみたい。これからどうしたらいいの?って、自分のことしか考えられなかった。




