第7話-まだ私にも、出来ることがあるはずだから-
「あぁ、それは無理だと思うよ」
「そ、そうなんですか?」
「残念ながらね。世界樹の力を感じ取れる種族は限られているんだ。ついでに言うと使える魔法の強さとか種類も違う」
そしてルイスさんは片手で鏡の盾を作ってくれた。それはゴブリンと戦ったときの魔法。
「本調子だったら、こんなことにはならなかったんだ。ずっと封印されていたから、どうにも調子が出なくてね。防ぐことはできても、攻めることができない」
「いえ、そんな」
あんなに簡単にゴブリンを倒していたのに、まだ本調子じゃないんだ。本当はどれだけ強いんだろう。
「その鏡って、色んなことができるんですね。私の怪我もその鏡で治してくれたんですか?」
「ん~、それは違くって。実はエルフの詠唱魔法も少しだけ使えるんだ。生活に役に立つ程度だけどね」
それで小声で呪文を唱えて、ルイスさんの指先に小さな炎が灯った。窓からの冷たい風で寒くなった部屋をちょうどよく温めてくれるくらいの炎。
「便利だけど、これで魔物と戦うのは無理だね」
「えっと、それでも十分だと思います」
これが、魔法。本物の賢者の力。私だけじゃできなかったことも、ルイスさんとならできるかもしれない。
「あの、お願いがあるんです」
「うん。どうした?」
「隣国のリーフ王国の王都に行くのを手伝ってくれませんか?私とティーブだけじゃ、この国をゴブリンから守りきれないんで、助けを求めに行きたいんです」
「ん?」
やっぱり、こんな頼みは聞いてくれないかもしれない。ルイスさんがそこまでする必要なんてないんだよね。でも私は、それでもこの国に生きる人を救いたい。そのためには隣国の助けが必要だし、それができるのは王族の唯一の生き残りの私だけ。ゴブリンとまた戦うことになるかもしれない。戦うのは怖いけれど、でもあと3年しか生きられない私より助かるべき命がたくさんある。
「ソギジャスってことは王族なんだろうけど、そこまでする必要があるのかい?危険だし、まぁ立派なことだとは思うけど」
「それは、その」
お義姉ちゃんにもずっと同じようなことを言われてきた。ティーブに戦い方を教えてもらうようになったときから、ずっと言われ続けてきた。王族である私が戦う必要なんてないってこと。
ルイスさんは、危険だからと心配してくれているんだと思う。それでも、私は自分の手で戦いたい。それが、3年しか生きられない私のやるべきことだから。そう信じているから。だから私は、誰にどう言われても、戦い方を教わることをやめなかった。
「迷惑ですか?他にやりたいことがあるなら、諦めます」
「いや迷惑というか、俺は別にいいよ。どっちにしてもゴブリンに苦しむ人達を放っておきたくないからね」
「本当ですか!?あっ」
思わず椅子から身を乗り出して、危うく落ちそうになってしまう。とっさにルイスさんが受け止めてくれなかったら、床に激突していたかもしれない。それに、思ったよりも力強い手。
「大丈夫?」
「ご、ごめんなさい」
ゆっくりと元に戻してもらう。危なかったな、あのまま転んでいたらって思うと顔が熱くなっちゃう。
「よし。じゃぁ準備して行こうか」
「あ、ありがとうございます。私、ちゃんと戦えるんで任せて下さい」
「うん。よろしくね」
良かった。まだ私にも出来ることがあるんだ。もし賢者として本調子だとしたら、ただの足手まといの、隣国に連れて行ってもらうだけになったかもしれない。でもまだ十分に戦えないんだとしたら、魔法を使えないんだとしたら、私にも手伝えることがあるかもしれない。ううん、きっと出来ることがある。
今度こそ、ちゃんと役に立つんだ。
「ティーブ。ということなんだけど、手伝ってくれない?」
「はい。もちろんでございます」
ずっと立たせてしまっていたティーブに声をかける。勝手に決めてしまって良かったのかな。それに国がこんなになっちゃったってことは、もう私の従者ってわけじゃないよね。
「ほ、本当に良いの?ツイグ王国はもうないんだよ?私は、友達としてお願いしてるだけ」
「問題ありません」
態度が全然変わんない。ちょっと安心できるけど、でも距離を感じちゃうかも。もう従者じゃないんだから、そんな話し方しなくたっていいのに。