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第11話

 広場を埋め尽くしているドワーフ達。きっと人間は私だけって、そう思っていた。


 「あれ?」

 「どうかされましたか?」

 「ねぇティーブ、あの人どう思う?」

 「そうですね。強い人、ということしかわかりません」

 「へ〜」


 1人だけ、とても目立つ白い甲冑に身を包んだ人。顔は見えないけど、体格とか歩き方を見ていると多分女の人。せっかくだから話しかけてみようかなって思ったところで予選の最終説明が始まった。お話してみたかったけど、予選が終わった後に会えたらにしよう。


 予選は障害物競走。地下都市から伸びるいくつもの洞窟の1つに罠がたくさん仕掛けられていて、速く駆け抜ければ勝ちっていう単純なもの。参加者が多いから4つのグループに別れていて、それぞれ先着3名まで本選に進める。


 12人のトーナメント。先着3名だけど、1位だったらシード権をもらえて、2回戦からの参加になれる。だからなるべく1位通過したい。


 「始まっちゃった。じゃぁまたね」

 「はい」

 「おう」


 ヴィンダーさん、緊張してるのかな。口数がとっても少ない。組み分けはエントリーの時に終わっていて、ティーブとヴィンダーさんとは別の組。割り振られた洞窟に向かって歩きながら白い甲冑の女の人がどこに行くのか気になる。とても目立つから、私達3人とは別の洞窟に行くのが見える。


 目立っているのは私とティーブも同じ。周りのドワーフが小声でどうして人間が、とかガーダンを出してどうするんだって話しているのがよく聞こえる。


 こういう大会って力試しが好きな人間が参加しそうだけど、そんな理由で地下都市に滞在はできない。だから白い甲冑の女の人の事情に興味が沸くんだけど、あんまり聞いちゃいけないことの気もする。


 スタートの洞窟前。


 競うように先頭に位置どりしようって争っている人もいれば、後ろの方で静かにしている人もいる。私は1番後ろ。毎年出ている人も多いみたいで、洞窟の構造を知っていることで有利なこともある。でも不利なこともある。


 スタートの合図。


 一斉に飛び出す先頭と、ゆっくりと走り出す後ろ。1番後ろの私は周りに歩幅を合わせるように洞窟へと入る。先頭の人達は洞窟の構造を熟知していて逃げ切り狙い。後ろの人達は洞窟をよく知らないか、もしくは体力に自信がある逆転狙い。


 離れ過ぎないように洞窟を走る。


 走りながら狩りのときのように前のドワーフの様子を伺う。これはただ洞窟を走るだけではない障害物競争。先頭になればなるほど、罠の危険が多い。それでも鍛冶師のヴィンダーさんみたいに体力がない人は、追いつかれないことを祈って先に行くしかない。


 罠にかかって倒れたドワーフの横を走る。


 アミとかナワとかトリモチとか。とにかく動きを止めるような罠ばかり。良かった、誰も大きな怪我はしていないみたい。この人達には悪いけど、おかげで私は罠のことを気にしないで走れる。


 周りのドワーフ達のペースが速くなる。


 先頭がどこまで行っているのか。罠で動けなくなっている人達の様子を見れば予想できる。私はそんなことしなくても大体わかるけど、そろそろ急いだ方が良さそう。


 進むほど罠が増える。


 天井からアミが発射され、壁からはまとわりつくようにナワが出て、床にはところどころトリモチが仕掛けられている。1人、また1人と捕えられて動けなくなっていって、その中をかいくぐっていく。


 気づけばほぼ先頭。


 ここまでくると罠にかかったわけじゃないのに息を切らして歩きだすドワーフが増える。後ろからずっと走ってきた私達の中にそんな人はいないけど、前を行っていた人達にとってはここが限界。


 全力で走り出す。


 ゴールが近づいてきて、もう少しでラストスパート。ただ全力で走るなんてことになるわけがない。ラストスパートというのはつまり、参加者同士の潰しあい。息を切らしながら先頭を走っていたドワーフを追い抜き、それが合図。


 全力で走りながらの殴り合い。


 武器の持ち込みは禁止されている。それでも腕自慢のドワーフ達の殴り合いは壮絶。後ろから掴まれて投げ飛ばされることもあれば、どこかで拾っていた石で攻撃されることもある。


 避けながら、一番前へ。


 弓を持っていない私は、攻撃しようとしても大したことができない。それより避けることに集中しながら先を急いだ方がいい。先頭を走っているせいで、罠も全部残っている。


 容赦のない潰しあい。


 洞窟に響く怒号。


 片腕を掴まれ、後ろに引っ張られ、身をひるがえし、片足で壁の罠をあえて踏み抜き、出てきた罠から逃れ、残ったのはナワで縛られたドワーフ。なんとかなったけど、この間に先頭と差が開いちゃった。


 前では殴り合い。横からは罠の応酬。後ろには倒れたドワーフ達。


 もうゴールが見えてきている。そこまでの罠の位置を、集中して全て探し出す。走りを止めることはできない。それでも見つけなきゃ。このまま走っていても、前の殴り合いをすり抜けられない。


 洞窟の天井と壁と床。かすかな異変を感じ取って、ゴールまでの道が見えた。一番早く、殴り合いに巻き込まれず、罠を抜けられる道。


 床を蹴り、壁を蹴り、天井を蹴り。


 狭い洞窟だからできる、立体的な道。


 床を走り、ドワーフの手から天井へ逃げれ、罠を避けるように壁へと移り、大きな石を投げられたから床に戻り、石が当たって発動した罠に襲われるドワーフの声が聞こえてくる。


 もうすぐゴール。


 前には誰もいない。罠の場所はわかっている。後ろを見る余裕はない。洞窟の中を駆け抜ける。まるで宙を舞っているみたいで、ちょっとだけ楽しくなってきた。


 大歓声に包まれた。


 ゴールは広い場所になっていて、埋め尽くしているのはスタートよりもっとたくさんのドワーフ達。1番に洞窟を駆け抜けて、そしてゴールに立つ。振り返れば、殴り合いでボロボロになりながら必死に走るたくさんのドワーフ。


 4つの洞窟の4つの予選。スタートは違うけれど、ゴールは同じ。1位になったのは、私とティーブと知らないドワーフと、そしてあの白い甲冑の女の人。2位3位の人達も予選を突破できるけれど、その中にヴィンダーさんはいない。


 そして予選は終わった。12人の本戦出場者が決まる。その1人になれた私のことを、他のドワーフがねぎらってくれる。特に同じ洞窟のドワーフ達から声をかけられた。大歓声に包まれながら表彰台に案内される。


 まだ優勝したわけじゃない。なのに私は、思いっきり手を振っちゃった。


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