第7話
押して勢いをつけないといけないみたいで、私だけ先にトロッコに座る。一緒にやるって言ったけど、飛び乗るときに引っ張って欲しいことだったから後ろ向きになっている。
「そんじゃ行くか」
ルイスがトロッコを押す。どんどん速度が上がっていく。押されているからってだけじゃなくて、坂道になっているから。
「ねぇ、そろそろじゃない」
「だな」
トロッコにへばりつくルイスの腕を掴むと、逆に握り返されて登ってくる。そのまま私を跨いで前に座った。狭いトロッコの中で、背中合わせ。
「せっかくだしスピード上げていくかな」
「そ、そうだね」
「ん?前向いたほうが良いんじゃない?」
それは、わかっているんだけど、なんとなくこのままの方が良い気がすると言うか。これならトロッコの後ろに掴まれるけど、前を向いたら掴まるものがない。
「このままじゃダメ?」
「んっと、ダメっていうか、これから坂がキツくなるから」
「そ、そうだね」
話している間も速度が上がっている。後ろ向きに乗るものじゃないみたいだし、ちゃんと前を向いたほうが良いのはルイスの言う通り。
「む〜」
「アーちゃん?」
「黒の賢者が悪いんだ。ファニーちゃんを困らせたりして」
小声でホッペを膨らませながら話すアーちゃん。少しずつ元気を取り戻してくれているけれど、前だったらもっとはしゃいでいたのかな。リズさんも、ここまでしなくても良かったのに。
「なにか言った?」
「ううん。なんでもない」
目に浮かぶのは、リズさんがルイスに抱きついているところ。2人って、本当にどういう関係なんだろう。背中にしがみつかないといけないなら、せっかくだから問い詰めちゃおうかな。
「ねぇルイス」
「ん?もうちょっとすると坂がキツくなるから、もっと掴まった方がいいよ」
「そのまえにさ、リズさんとはどういう関係なの?」
両肩に手を置いて、寄りかかるみたいな恰好。速度が速くなっていって、受ける風も強くなってくる。そのせいで声が聞こえずらいけど、顔を近づければまだ聞こえる。
「どうって、同じ賢者だな」
「そうじゃなくって。だって抱き合ってたじゃん」
「あれは。リズはいつも抱きついてくるんだよ。困ったことにね」
「えぇ?」
それはちょっと、信じられないな。リズさんってそういうタイプには見えない。お義姉ちゃんは兄にも抱きついたりしてたけど、そういう人って女の人にはもっと積極的なはず。
私に抱きついてこないのは、まだいいかもしれないけど、アーちゃんにあんなことしない。お義姉ちゃんなんて可愛がりすぎて大変なことになりそうだから。
「ウソでしょ」
「い、いやぁ」
「本当はどうなの?」
言えないことでもあるのかな。しつこく聞かない方がいいのかもしれないけど、ちゃんと確かめたいこと。
「正直よくわからないんだ。長い付き合いなんだけど、いつの間にか会うたびに抱きつくようになってた」
「ふ~ん」
「俺の方が本当の理由を知りたいくらいだ。ファニーから聞いてくれないか?」
「ふ~~~ん」
本当になにも知らないのかな?そこまでいうなら本当なのかもしれないけど、リズさんって理由もなく抱きつくような人には見えない。むしろ人を寄せ付けないタイプ。だけどまだ、そんなに仲良くないから聞きたくても聞けない。
「ファニー、そろそろ掴まらないと危ないよ」
「うん、まぁ、いいけど。アーちゃんもおいで」
「は~い」
なんだか頭に引っかかることが多いけど、トロッコがまた速くなってるし、そろそろ危ないかも。アーちゃんにはしっかりとポケットの中に入ってもらって、ルイスの腰にしがみつく。
「よしよし。ここからが楽しいところなんだ」
「来たことあるの?」
「まぁな。ファニーも気に入ると思うよ」
声を張り上げないといけないくらい風が強くなっていって、だけどその余裕はすぐになくなる。
落ちる感覚。
突然、底が抜けたみたいに下へ下へと吸い込まれていく。激しく鳴る車輪の音と、嵐のような風の音、場違いなくらい楽しそうなルイスの笑い声。落ちているトロッコと、トロッコから落ちそうになる私。
「ははははは。これこれ」
「いゃーーーーー。ルイス、落ちる、落ちてる」
「わ~いわ~い。はや~~い」
アーちゃん、両手を挙げたりしたらダメだって、落ちちゃうから。
「ねぇ、落ちてるって」
「あはははは。まだまだ~」
「やめて~~~!!」
目が回りそう。これがトロッコ?
「いけいけ~~~」
「よ~~し」
「だめーーー!!」
なにも考えないで、しがみついているだけ。楽しむ余裕なんてない。終わるまで、トロッコの中でしゃがんでいるだけ。




