第6話-余命3年の私が生き延びても意味ないのに-
どうして、こんなことに。城の人達だけじゃなくって、城下町の人達まで死んでしまったなんて。私、どれだけ眠ってしまったんだろう。
「そんなに自分を責めない方がいい」
「ち、違うんです。私が生き延びたって意味がないんです」
「い、いや、まぁショックだろうけど、気を強く持った方がいいよ」
「だ、だから、そうじゃなくて。私、私はあと3年しか生きられないのに、こんなの、他の人が生き延びたほうが絶対良かったじゃないですか」
こみ上げてくるものを必死に抑える。それでも視界がぼやけていく。ルイスさんに当たったって同仕様もないのに、声を荒げる自分が嫌になる。でも誰が見たって同じように思うはずのことだから。
「3年か。いいじゃないか。短い方が良いこともある」
「な、なにを言っているんですか!?そんなこと、死んでいった人の前でも言えるんですか!?」
短い方が良いって、なんでそうなるの?長生きしたいっていう人はたくさんいるけれど、逆な人なんていない。みんな私の余命のことで心配してくれるけれど、羨ましがってくる人なんていなかった。
「すまない。気配りが足りなかった」
「い、いえ。私も言い過ぎました」
もしかして、励まそうとしてくれたのかな。だとしたら悪いことしちゃったかも。静かになった広い部屋には、わずかに空いた窓から冷たい風が入ってくる。どうして、こんなことになっちゃったんだろう。
「なんで」
「ん?」
「あ、いえ。なんでゴブリンがって」
昔からゴブリンはいた。田畑を荒らして、隙あれば人をさらっていく。そんな魔物にはずっと前から迷惑していたけれど、迷惑ってだけだった。
それなのに今回は、こんなところにまで来て、しかもやるだけやってどこかに行っちゃった。突然過ぎてわけがわからない。
「まぁ、魔物が増えているのはずっと前から知られていたことだ。なんとかしようとは思ったんだけど、賢者のみんなを説得できなかったのは俺の落ち度だ」
ルイスさんは目をふせている。ずっと地下の扉の向こうに閉じ込められていて、なにもできなかったんだから、悪いのは封印した7人の賢者のはずなのに。でも魔物が増えているって、じゃぁゴブリンはどこに行ったんだろう。
「ルイスさんが悪いんじゃないと思います。あの、それで、ゴブリンはどうしたんですか?それに私達だけ助かったのって」
「ん〜どこだろう。とりあえずこの街には1体もいないよ。魔法で調べたから間違いない。俺達が無事だったのは、魔物除けの魔法を使ったからだね」
部屋を見渡すけれど、特に変わりはない。いつもどおりティーブが立っているだけ。おとぎ話でしか聞いたことなかったけど、魔法ってそんなこともできるんだ。怪我を治療したり、ゴブリンが残っているか調べたり、ゴブリンから守ったり。
「あの、それでこの国は、ツイグ王国はどうなっているんですか?」
「どうって、そうだなぁ。どこまでが王国なのかわからないけど、ゴブリンは別の街に移動したんだろうね。うーん。言いにくいんだけど、国としては機能していないね」
「そう、ですよね」
思わず服を強く掴む。ゴブリンたちには逃げられてしまって、ツイグ王国の別の街を襲っているかもしれない。まだ襲われていなかったとしても、このままどこかに消えてくれるわけない。だとしたら私にはまだやらないといけないことがある。この街に、ううん、この国で王族として育てられたんだから。まだやるべきことがある。
ルイスさんは何を考えているんだろう、これからどうするんだろう、どこに行くつもりなんだろう。まだ起きたばかりで決めていないのかもしれない。でも出会ったばかりなのに聞くようなことじゃないし、そういえば魔法ってどういうことなのかな。
「魔法って、なんでもできるんですか?」
「いや、まぁ。なんでもってわけじゃないんだよね。そうだなぁ。世界樹ってわかる?」
「あっ、はい。母から聞いたことがあります。世界の麓にある世界樹。その枝は大気を、葉は大地に、根は魂を創っているって」
幼いころ、お母さんに教えてもらったこと。アキシギルの世界の麓にある世界樹が、この世界を創っているということ。それだけなら、私だけじゃなくてみんな知っている。
「なら話が早いんだけど、魔法っていうのはね、つまるところ世界樹の力を使っているんだよ」
「世界樹の力?」
「そうそう。まぁエネルギー源みたいなものかな」
「へ、へ~」
じゃぁもしかして、実は私も魔法を使えたりするのかな。もし使えるなら、ツイグ王国の人達のために出来ることを増やせるかも。なにか感じ取れないかなって試してみるけど、なにかありそうでなにもない。