表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/90

第3話

 「なぁおぃ、ティーブ。俺等って忘れられてねぇか?」

 「申し訳ありません。私にはわかりません」

 「そうかい」


 2人が消えた夜の闇をぼーっと見ていたみたいで、ヴィンダーさんの声で目の前に焚き火の光が広がった。忘れていたわけじゃないんだけど、ちょっと放っておいちゃったかも。


 「あっ、すみません」

 「いいっていいって。嬢ちゃんも大変だな」

 「え、えっと、なんのことですか?」


 ヴィンダーさんはなんの話をしているんだろう。いきなりでビックリしたけど、初めに出会った賢者が味方で良かった。きっとルイスを助けてくれるから。私より、ずっと役に立つだろうから。


 「まっ、そういうことにしとくか。にしても驚いたな。青の賢者か」

 「は、はぁ」


 青の賢者リズ。黒の賢者ルイスと同じ魔法を使える人間。ルイスと同じように鏡の盾で戦うのかな。


 「ファニーちゃん」

 「うん。どうしたの?」

 「あいつイヤ」

 「イ、イヤ?」


 アーちゃんの様子が変。いつも元気な羽を閉じちゃって、手の中で震えているみたい。こんな姿、今までみたことないし青の賢者が原因なんだろうけど、どうしてこうなっているんだろう。


 「なにか見つけたの?」

 「わからないの?青の賢者の魔力、黒の賢者と比べ物にならない。イモムシみたい」

 「イ、イモムシ?」

 「青の賢者に比べたら、黒の賢者なんてイモムシ」


 そ、そんなに差があるの?ルイスはずっと封印されていたから、まだ本調子じゃないって言っていたけれど、そこまで違うだなんて。イモムシはちょっとヒドい気もするけど、魔法を使えない私と違って、使えるアーちゃんから見るとそんな風に見えるのかな。


 「俺にはよくわかんねぇけどな」

 「ドワーフにわかるわけないじゃん。トンマなんだから」

 「もう、そういう言い方しちゃダメでしょ?それに私もよくわかんないし」

 「ファニーちゃんはいいの」


 なんでいっつもそんな言い方しちゃうんだろう。ヴィンダーさんは慣れてきたみたいであんまり怒らないでくれているけど、アーちゃんはずっと変わらないまま。


 焚き火が少しずつ小さくなっていく。ティーブが木を足して消えないようにしてくれているのを見ながら、ルイスとリズさんが戻るのを待つ。その間アーちゃんは手の中に入ったままで、隠れるようにしていて離れようとしない。


 「お待たせ」


 やっと戻ってきた2人。ルイスはいつもと変わらない様子だったけれど、リズさんは納得いっていないような顔に見える。


 「予定通りドワーフの国に入るよ。魔物に苦労しているみたいだしね」

 「どうなっても知らないわよ?」


 2人の様子も気になるけれど、もっと気になるのはルイスの一言。魔物という言葉が頭に残る。だけど反射的に反応したのは、私じゃなくてヴィンダーさんだった。


 「お、おい待ってくれ。魔物に苦労?俺等の国が?どういうことだ」

 「あら?ご存じないのかしら?」

 「俺はずっと人間の国で仕事してたんだ。国に帰るのは久しぶりだ。それよりどういうことか教えてくれ」

 「私も詳しくはないわ。最近ガーゴイルの被害が多いって耳にしただけ」


 ガーゴイル。ここまで来る前にルイスに教えてもらった。ドワーフの国に出る魔物はゴブリンとは違うって。ガーゴイルと呼ばれていて、普段は石造みたいに建っているだけだけど、突然動き出して襲いかかってくる。石のように硬い皮膚と翼を持った魔物。


 「聞いてねぇぞ。悪いが急がせてくれねぇか?」

 「それは良いですよ?でもその前に、やっておかないといけないことがありますね」

 「なぁリズ、本当にやるのか?」

 「ルイス。南じゃなくて北に行くことにしてあげたんだから、黙って見てなさい」

 「でもなぁ」


 リズさんがこっちに来る。手の中のアーちゃんの震えが止まらないし、一緒になって私の手まで震えてきている。思わず一歩下がってしまったけれど、青い目に釘付けにされてそれ以上動けない。


 「あ、あの」

 「怖がっているの?なにもしないわよ。その妖精をちょっと貸してちょうだい」

 「え、えっと」


 アーちゃんが私の指にしがみついている。私も渡したくない。なにをするつもりなのかわからないからだけど、ルイスを見ても手振りで渡すように伝えてくるだけ。


 「ダ、ダメです。アーちゃんは悪い子じゃないんです」

 「ファニーちゃん。助けて、この人ぃや〜」

 「だから、なにもしないって。ドワーフの国に入るなら、妖精には大人しくしていてもらわないと。騒ぎになって目立つのは良くないでしょ?」


 それはわかるけど、騒ぎを起こさないか私も気になっていたけれど、だからってこんなに震えているアーちゃんを渡したくはない。


 「だ、大丈夫です。ちゃんと私が見ておくんで、ね?」

 「ファニーちゃんが良いの。この人はイヤなの」


 また一歩下がる。リズさんも一度離れてくれたけれど、諦めたようには見えない。振り返ってルイスを見ている。


 「ルイス、なにもしないで見てなさいよ」

 「だから、そこまでする必要はないって」

 「ダメよ。これが条件だって、ちゃんと言ったでしょ?」


 その瞬間に、足に冷たいものが触れる。


 「え?」


 水。雨が降ったわけでもなく、水たまりがあったわけでもない。こんな岩山に無かったはずの水。どんどん増水してきて、下半身全てを、そして上半身全てが浸水してしまう。首から上には上がってこないから息はできる。アーちゃんが溺れないように手の平を上げて、差し上げるような格好になってしまう。


 「ファニーちゃん!」


 リズさんから必死に逃れようとして、私の頭に飛んでくる。そんなアーちゃんは、生き物みたいに動く水に絡め取られていく。


 「ぃや〜〜」

 「や、やめて。ヒドいことしないで」

 「だから、なにもしないわよ」


 リズさんの手の平に乗せられたアーちゃんは、それでも逃れようとしている。だけど水が邪魔して許していない。


 「ねぇ、妖精さん?」

 「ぅう〜、ぃゃ〜ぁ」

 「イタズラはダメよ?」

 「ぅう〜」


 本当になにもしていない。していないけど可愛そう。ルイスは目を背けちゃっているし、いつも仲が悪いヴィンダーさんも口を開けたまま戸惑っているみたい。


 そんな状態がしばらく続いた。


 「リズ。もういいだろ?」

 「そうね」


 私は、やっと水から解放された。リズさんの手の上で動かなくなってしまったアーちゃんに駆け寄ると、すぐに手渡してくれる。歯を鳴らしながら震えていて、私の顔を一目見ると胸の中に飛び込んでくる。


 「私だってこんなことしたくないわ。でもこうでもしないと、妖精は大人しくならないのよ。わかってちょうだい」

 「は、はい」


 ルイスが魔法で乾かしてくれる。だけど震えが止まらない。胸の中で同じように震えるアーちゃんを手で優しく包みながら、暖かい焚き火の前を離れられなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ