第2話
いつの間にか立っていたのは、青い長髪の綺麗な女の人。すごくスタイルが良くて、それに大人っぽい。岩山では場違いな青いドレスが風に揺られて、静かな水面の波紋を見ている気分。
思わず見とれちゃっていると、その女の人は真っ直ぐに歩き出す。その先にいたのは、目を丸くしているルイス。
「ルイス、良かった。やっと解放されたのね」
抱きついていた。
青い長髪の綺麗な女の人がルイスに、抱きついていた。ルイスはなにもしていない。静かな青い水面に、黒い石が投じられたみたいに、波紋が1つ広がってくる。その波紋を感じたときに、声にならない声がこみ上げる。
「えっ、?」
水面にまた1つ波紋が浮かぶ。私の声で、止まっていた人がまた動き出す。
「お、おいリズ。みんな驚いているじゃないか」
「もうちょっと」
そ、そんなに強く抱きつくものなの?ルイスも抵抗していないみたいだし、どういう関係なんだろう。
「む〜」
「アーちゃん?」
「同じだ。ファニーちゃん、あの人も賢者だよ」
「け、賢者?あの女の人が?」
黒の賢者のルイスと同じ、賢者。むかしむかし、世界の麓に辿り着いた8人の1人。だとしたら、ずっと昔からルイスと知り合いで、私よりずっとルイスのことを知っていて、ルイスと世界を旅したことのある女の人。そんな人が、ルイスに抱きついている。
「あら?珍しいわね。こんなに良い子の妖精は久しぶりに見るわ」
「え、えっと、本当に賢者なんですか?」
「そうよ?青の賢者、なんて言われてるわ」
いつまでルイスに抱きついているつもりなんだろう。ルイスも抱き返しているわけじゃないけど、抵抗もしていない。嫌がっているわけじゃなさそう、というよりこんな綺麗な人に抱きつかれて嫌がる人なんていないだろうな。
「もういいだろ?」
「なんでよ?いいじゃない。また話せる日が来るなんて」
「このままじゃ、みんな勘違いするだろ?」
勘違いって、なにを?わ、私は別になんとも思っていないし、久しぶりの再会なんだったら気がすむまで抱きついていれば良い。辺りがどんどん暗くなってきて、冷たい風が吹き始めてきている。
「まぁ良いわ。それよりルイス、ちょっと呑気すぎるんじゃない?」
「そうか?」
「世界の麓に行くつもりなんでしょ?こんなところでゆっくりしてていいの?」
結局抱きついたまま話し始めている。もしかして、私って邪魔者?まだ知り合ったばかりで、ルイスにはお世話になっているだけで、世界の麓への旅も多分途中までしか私は行けない。辺りは完全に暗くなって、青い髪だけが輝いて見える。
「まだ世界の麓に行くには早い。ゆっくり準備した方が良い」
「準備は必要ね。でも急いだ方が良いわ。それに順番が変。先に南へ行くべきよ」
「いや、南は最後だ」
「いいえ。南が最初よ」
ちょっと様子が変。2人とも声が荒くなっていく。焚き火が突然作られて、辺りが明るくなる。いつも通りティーブがやってくれたみたい。
「はぁ。ねぇルイス、どうするつもりだったの?」
「ドワーフの国で魔物を倒しながら力を取り戻す」
「ダメよ」
焚き火が大きくなっていく。完全に夜の暗さになったから、その赤い光が際立つ。
「なんで?」
「他の賢者に見つかったらどうするの?なるべく人目にはつかないようにするべきよ」
「どうせそのうち見つかるさ。それより人里にいた方が良い。派手なことはできなくなるだろうしね」
どっちが正しいんだろう。私にはどっちも正しいように聞こえる。だけど2人は一歩も引く気はないみたいで、荒くなっていく声はだんだん口喧嘩に代わっていく。
「あ、あの」
思わず声をかけてしまって、2人の目がこっちに向けられる。そんな2人になんて言ったらいいか、言葉が思い浮かばない。
「気にしないでくれ。リズとはいつもこうなるんだ」
「本当に、ルイスとは気が合わないわ」
「そんなの今更だろ。子供の頃からずっとこうだった」
やっと抱きつくのをやめてくれた。仲が良いのか悪いのかよくわからないけれど、世界の麓へ行くことには賛成してくれている味方ってことは間違っていなさそう。
「向こうで話すか」
「なんでよ。これからのことなんだから、みんな一緒に話すべきよ」
「人に聞かせるような話にはならないだろ?いいから向こうに行くぞ。ファニーすまない、ちょっと待っていてくれ」
そして2人は、夜の闇の中に消えていく。残ったのはパチパチと音を鳴らして燃える焚き火と、残された私達だけ。




