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第60話-逃走-

 ずっと静かに聞いていてくれていたア〜ちゃんが暴れ出してる。ティーブが押さえてくれているけど、完全には無理みたい。ずっと文句をいいながら騒いでいる。


 「あのね、ア〜ちゃん。別に怒ってないから」

 「なんで〜。嫌なことされたんじゃないの」

 「それは」


 嫌だったけど、だからって怒る気分にはなれない。そういえば、なんでなんだろう。きっと、嫌なこと以上に良いことがあったからなのかな。


 「ファニー様、本当によろしいのですか?話を聞く限り交換条件として結婚を求められたとか。しかも生まれ故郷の民を救ってほしいという要求に対してです」

 「う〜ん。だって、同じことしませんか?」

 「私はそこまで落ちぶれてはおりません」


 今のはちょっと失礼だったかな。いくら打算的な人でもやらないようなことってことか。代表さんに一言謝りながら、それでも気持ちが変わることはない。


 「いいんです。そんなことより早く世界樹の下に行ってみたい。世界を旅するのが楽しみだから、そんな、悪いことを考える気分にはなれなくて」

 「わ、悪いことでは。いえ、わかりました。そういうことでしたら、なるべく早く決着するようにいたしましょう」

 「ありがとう。よろしくね」


 部屋を出る代表さんを見送ってから、また部屋で待つだけの日々が始まる。ア〜ちゃんの限界が近そうだったから、何度かお城から抜け出して森に遊びに行く。


 いよいよ結婚式の日取りが決まってしまいそうってなったときに、急にお城の中が騒がしくなった。もちろん結婚の準備のためとかじゃなくて、今まで見かけなかった人達がたくさん出入りするようになったから。そしてその人達が、みんな血相を変えていたから。


 「ファニー様。少しよろしいでしょうか?」

 「良いですよ」


 久しぶりに会ったけど、代表さんはなんだかとても嬉しそう。いつもならちゃんと隠している不敵な笑みを、今日は隠しきれていない。でも他の人達はそれどころじゃないみたいで、気づかれる心配はなさそう。


 「なんだか嬉しそうですね」

 「いえいえ。あのときの王の顔をお見せしたかったです。ふっふっふ」

 「そ、そう?」


 言いたいことはわかるけど、あんまり見たくないような。それよりどうなったんだろう。うまくいったんだろうなってことはわかるんだけど。


 「あの、それで」

 「えぇ、ご心配には及びません。お部屋までよろしいでしょうか?詳しく話しますので」


 断る理由もないから、代表さんに部屋に来てもらう。それで説明してもらったけど、ほとんど期待通り。


 代表さんの怖いところは、自分ではなにもしていないってこと。やったことといえば、王国の書庫をしらみつぶしにして、ルイスが話していたことを裏付ける本を見つけたってだけ。


 あとは人づてに王様まで話が伝わるようにして、頃合いをみて側近に正確な情報がいくように手配してたらしい。手際が良いというかなんというか。この人を敵に回したくないっていうのが正直な感想。


 「えっと、ルイスはどうしてるんですか?」

 「あぁ、それについてはですね」


 ここまでうまくいったけど、だからって婚約の話が消えたわけじゃない。どうやって、どこに逃げるのかっていうのはちゃんと計画しないといけない。ルイスはその計画を作ってくれていて、先に行って待っているってことだった。


 「私が務めている街で合流する。とのことです」

 「ふ〜ん」


 話はわかるんだけど、迎えに来てくれるわけじゃないんだ。ルイスも遊んでいるわけじゃないからしょうがないとは思うんだけど、なんだか納得いかない。城から出て代表さんの街までなんとかしろだなんて、そりゃティーブとア〜ちゃんがいればなんとかなるけど、そういう問題じゃないような。


 「私はお迎えにあがるべきだといいましたよ?」

 「なんのことですか?」

 「いえ、失礼しました」


 まぁいいけど。隣を歩きたいって言ったのは私なんだし。


 「じゃぁ、今夜出発しますね」

 「今夜ですか?それですと馬車の手配が間に合いませんが」

 「街道を通れるんですか?私はともかく、ティーブは目立ちますよ?」

 「そこは私が同行して誤魔化す予定でした。こういうのはいかがでしょうか。ファニー様には関所でお待ちいただき、明日の午後に私が伺うというのは」


 代表さんが提案するのには理由があって、元々トイグ王国だった関所まではまだ混乱しているから問題ないけど、そのまま関所を抜けることは難しいだろうってことみたい。だから代表さんの馬車に隠れて通り抜けようという考え。


 またなにか企んでいるのかなって思っちゃったけど、今回は違いそう。だってとても嬉しそうで、裏があるとは思えない。ただ親切にしてくれているだけなはず。


 だから私も代表さんに甘えることにした。関所の前で合流して、馬車に乗せてもらって、あとはルイスがいる街に着くのを待つだけ。考えなきゃいけないことがなにもなくて、思わず馬車に揺られて眠っちゃった。


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