第5話-黒の賢者ルイス-
申し訳ありません。
挿絵は近々に更新します。
「あ、ああー。こんなときに悪いんだけど、手当していいかな?」
話しかけてきたのは、黒い髪の男の人。そういえばもう、戦いの音が全然聞こえない。あんなにいたゴブリンは、一体残らず死体になっている。
「えっと」
「う、うーん。お姉さんのことは、残念だったね。だけど、ここはちょっと空気が悪いし傷に触る」
「あっ、はい」
そうか。この人は私がどういう人か知らないから。いや、そうじゃなくて、心配してくれているんだ。痛み止めも切れてきちゃってるみたい。
「ありがとうございます。ティーブ、お義姉ちゃんを運んでもらって良い?」
「かしこまりました」
お義姉ちゃんの遺体をティーブが持ち上げてくれる。疲れているのに悪いなって思うけど、でもどうしてもこんなところに置いてきぼりにはしたくない。
「あの、えっと」
「話は落ち着いてからにしよう。早く治療した方が良い。ツライでしょ?」
「そう、ですね」
地下からの階段へ向かう足が重い。怪我をして、消耗して、でもそれだけじゃない。全て終わってしまって、しかも誰1人助けられなかった。お義姉ちゃんを、あと一歩のところで助けられなかった。
もう、限界。
◇
「あれ?」
ここは、私の部屋?それに私のベッド。どうして?たしか、ゴブリンと戦うために飛び出して、城が燃えたから戻って、玉座の間でお父さんが殺されていて、お義姉ちゃんを助けるために地下に行って。
「お義姉ちゃん!!」
思わず飛び起きる。もしかして、ただの夢?横になっていたのは自分のベッド。だけど狩りに行くときの服のまま寝ている。本当に夢なら良かったのに、違う。だって、こんな格好で寝てるわけないから。
「あれ?」
なんでだろう、血がついてない。あんなに真っ赤になってたはずなのに、でも服は私のだよね。そういえば怪我してた右肩も、痛くない。
「ああ、起きた?悪いね、勝手に治療させてもらったよ。それと、そこのガーダンも使わせてもらった」
「えっ、あっ、その、義姉は?ゴブリンは?」
「うーん。その話は後にしようか。それより着替えでもしながら気持ちを落ち着かせたら?綺麗にはしたけど、ボロボロだからね。外で待ってるよ」
どういう意味だろう?治療って言ったよね。そういえば右肩は、治ってる。噓でしょ、あんな怪我すぐに治るわけないのに。
「あっ、あの。怪我」
「まぁ話せば長くなるから。もう危険はないから、いつもの格好で大丈夫だよ。着替え終わったら呼んでね」
黒い髪の男の人は扉を閉めていく。ベッドに座ったままの私と、傷だらけになった鎧を着ているティーブが残る。着替えって言われても、これからどうなるんだろう。危険はないっていうのも、よくわかんない。
「ねぇ、お義姉ちゃんは?それに、ゴブリンは?」
「義姉上様のご遺体は別室にございます。地下のゴブリンについては全て追い払っております」
やっぱり、夢じゃないんだ。お義姉ちゃんも、お父さんも、城のみんなも、全員死んでしまった。いつもの自分の部屋が、いつもと違って見える。もう扉を開けて遊びに来る人はいない。
「追い払って、それでどうなったの?」
「それにつきましてはあの方が調べてくださいました。私は内容を聞いておりません」
調べたって、どこまで?危険はないって言われたけど、やっぱり狩り用の服にしよう。動きやすくて楽だし、城の中でどんな格好をしても文句を言ってくる人はもういない。
服を選ぶ手が止まる。あんなにたくさんの人が死んでしまったというのに、私は生き残っている。生き延びても一番意味がない私だけが、こんなところでいつもどおり着替えている。
「ティーブ。着替えるから、ちょっと待ってて」
「かしこまりました」
とても広い私の部屋。広すぎてさみしいなって思うことが多かったけれど、今日はそのさみしさが増している。いつも通り隣の衣装室で着替え始める。防具までは整えなくて大丈夫かな。
「終わったよ。じゃぁ、あの人を呼ぼっか」
「はい」
扉を開けようとして、ドアノブを回せなくて立ち尽くしてしまう。扉の先がどうなっているのか知るのが怖い。なんとか部屋を出ると、そこには黒い髪の男の人が立っていた。よく見ると綺麗な青い目と整った顔立ちで、お義姉ちゃんだったら顔を赤らめていたんだろうなと思う。それに、地下で着てたのとは違う服。
「あ、あの。終わりました」
「そうか?どこから話そうか」
「えっと、良ければ中で」
「これはどうも」
お客さん1人を入れても全然問題ないくらい広い部屋。来客用の椅子をティーブに出してもらって、みんなで座る。黒い髪の男の人は腰掛けると早速話し始めてくれた。
「さて、そもそもまだ名乗ってなかったね。俺はルイスだ。今はどうか知らないけど、黒の賢者と呼ばれていた」
「け、賢者!?あっ、失礼しました。私はファニー。ファニー・ソギジャス・ツイグです。ほら、挨拶して」
「はい。ファニー様の従者のティーブです。よろしくお願いします」
賢者って、あの賢者?小さい頃にお母さんに話してもらったおとぎ話に出てきた。世界樹の下に辿り着いたことがある8人の人達。ううん、きっと本物だ。
だって右肩が治ってるのって、魔法を使ってもらったとかじゃないとありえないし、魔法が使える人間なんて賢者しかいない。それに扉の前で見た言い争いも、世界樹の下に行ったことのある8人の賢者の会話だったんだ。
「おっ、どうやら通じたみたいだね。良かった良かった。長い間、閉じ込められていたみたいだからね」
「あの、えっと」
「ん?まぁ聞きにくいだろうから答えるけど、ちょっと喧嘩しちゃってね。閉じ込められていたんだ。出してくれて助かったよ」
そんなに軽く言うことなのかな。だってあの扉って、何年閉じられていたんだろう。私が生まれる前の、ずっと前から閉じられていたはず。でも今は、それより先に聞かなきゃいけないことがある。
「それで、ゴブリンはどうしたんですか?」
「うーん、まぁ。気をしっかり持って欲しいんだけど、この街の人間を全員狩り尽くしてどこかへ行ったよ。残っているのはここにいる俺達だけだ」
「え?」