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第57話-決着-

 「うぉぉぉぉ」


 鏡の盾を構えたルイスが、黒いゴブリンのいた場所へ突撃していく。あらゆる攻撃をはね返しているけれど、それでも攻撃されるたびに速度が落ちる。魔法の矢の余波でボロボロでまばらだからこそなんとか進めている。


 だから私は、なるべく手強そうで傷が少ないゴブリンを狙って矢を射る。走りながら頭に当てるのは難しいから、胴体を狙って射る。


 矢だけで命を奪うことは出来ないけれど、それだけでルイスには十分。ひるんだり弱ったりしたゴブリンは、鏡の盾の障害にはなりえないから。


 「ルイス!ちょっと待って」


 黒いゴブリンがいるところに近づいたから、集中して探したい。大声で呼びかけると、すぐに立ち止まって待ってくれる。


 「この辺だったか?」

 「そう」


 神経を研ぎ澄ませて周りを見る。司令官は周りに指示を出していたから、しっかり聞き分ければ居場所くらいつかめるはず。


 聞こえてくるのは、鏡の盾が投石をはね返す音、はね返った投石が肉をえぐる音、ルイスの叫び声、ゴブリンが威嚇する声、そして小さく会話するような声。喉を焼かれたようにカスれた声。


 「いた」

 「どこだ?」


 答えの代わりに矢を放って気づかれないうちに攻撃する。狙い通りだったんだけど、周りのゴブリンを盾にされて矢は届かない。


 ルイスは矢を飛ばした方に全力で走っていく。ここまで来たときと違って、ゴブリンが密集して行く手を阻む。妨害が激しすぎて、ルイスの足が止まってしまった。


 「ルイス!」


 止まってしまったルイスと背中合わせになり、群がるゴブリンへ矢を放つ。ボロボロでフラフラなのに囲みを解こうとしないゴブリン達。逃げ場がゆっくりと狭まっていく。


 「ねぇ。盾を地面に置いて。上向きで」

 「はぁ?なんで?」

 「いいから」


 こんなことになっているのに意味がわからないとは思う。だけど説明している時間はない。それでも言われた通りにしてくれた。


 地面に置かれた鏡の盾。思い切り踏みしめて、空高く跳び上がる。


 「高っか」


 想像より遥かに高く。見下ろすのは黒いゴブリンの姿。体勢を維持しづらい。それでも弓を前へ。矢を敵に向けて。落下し始めたとき。矢羽が空を斬る。鏃が敵の額を穿つ。


 倒れる黒いゴブリンを見届けながら、私は落ちていく。だけどしたから人影が上がってくる。


 「全く、無茶をする」

 「私にできるなら、ルイスにもできるでしょ?」

 「そりゃそうだが、そういうことじゃなくてだな」


 ルイスが迎えにきてくれた。きっと同じ様に跳び上がったはず。その体に掴まって落ちていく。でも全然怖くない。だって崖から落ちたときは、もっと高いところからだったから。


 2人で頭から落ちていき、鏡の盾が衝突から守ってくれる。ゴブリンは、着地の衝撃で吹き飛んでしまい、司令官を失ったからなのかバラバラに散っていく。


 「ファニー。もう1体いるから、油断しちゃダメだよ」

 「あっ、うん。そうだね」


 まだ暗殺者が残っている。どこにいるのかもわからない。だから全部終わったわけじゃない。


 「なぁ、あの辺じゃないか?」


 指差している方には、比較的落ち着いているゴブリンの集団。ほとんどがバラバラに動き回っている中で、そこだけが際立っている。


 「そうかも。行こ」


 もはや戦うそぶりすら見せないゴブリンの群れを無視して集団を目指す。近づいて、先ずは本当に黒いゴブリンがいるのか確かめる。


 集団の真ん中から聞こえるのは、苦しそうに支持する声。痛みに耐えている声は、きっとあの暗殺者で間違いない。もう他に、指示するゴブリンはいないはずだから。


 「どう?」

 「間違いない」


 立て直される前に倒さなきゃ。ルイスを置いて走る。走りながら矢を放ち、逃げる黒いゴブリンを追う。矢は届くけど当たってはいない。数体が反撃に来る。


 「ルイス!?」

 「任せろ」


 突撃してきた数体は鏡の盾にはね返され、逆に弾のように集団を襲っている。周囲を蹴散らされて姿がハッキリ見えるようになった黒いゴブリンは、切り落とされた片腕をかばいながら座り込んでいる。


 もう近づかなくても十分狙える。立ち止まって弓を引き絞るけど、周りに残っているゴブリンが邪魔。


 「上を狙え!!」


 後ろからなにかが投げられる。宙を舞うのはルイスの鏡の盾。回転することなく真っすぐ飛んでいく鏡の盾を狙いながら、黒いゴブリンの位置を集中してしっかりと見定める。


 1歩下がって位置を調整しながら矢を放つ。いつもより遅い速度。でも確実に鏡の盾に当たる。当たった直後、矢の速度が上がった。その行く末を静かに見守り、そして頭部を貫通した。


 ゆっくりと崩れ落ちる黒いゴブリンを、その場の全員がただ見ていた。張り詰めた空気を破ったのは、最後まで残っていたゴブリンの集団。武器を捨てて全力で逃げていって、だけどそれが何を意味するのかわからなくって眺めるだけ。


 「やったな」


 ルイスに肩を叩かれた。私、どうしてただ立ち尽くしちゃってるんだろう。勝てた、んだよね。


 「これで、終わり?」

 「ん?まぁゴブリンとの戦いは終わりだね」


 なんだか肩の力が抜けちゃって、肩どころか全身に力が入らない。


 「お、おい。大丈夫か?」

 「うん。なんだか、ホッとしちゃって」


 地面に座っちゃった私をルイスは心配してくれる。もう、大丈夫。ちゃんと周りを確かめても、戦っているところは全然ない。逃げていくゴブリンを、みんなで追いかけているだけ。


 「ならいい。ふ〜」

 「ルイス、ありがとう」

 「お互い様だよ。ありがとう」


 ルイスも同じように座って休んでいる。勝利の歓声に、敗北の悲鳴。追いかける武器の音に、逃げ惑う足音。だけど一番よく聞こえるのは、ルイスの笑い声。


 「あははははは」

 「ふふふ」


 隣り合って、同じように座って、私はルイスとしばらく2人で笑っていた。


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