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第53話-生きるのを諦めることと、死ぬ覚悟をすること-

 どうしてここに?それにここで野営してるってことは抜け道を知っていたのかな。王族しか知らないはずなんだけど。


 「なんで?」

 「ファニー?」


 そして訪れた沈黙。あんな別れ方をして、追い出すようなことをした。だから心臓が張り裂けそう。ルイスがなにを考えているのかわからない。


 「その、この間は悪かったよ」

 「え?」


 なんで私が謝られているんだろう。ルイスはただ私のことを気遣ってくれただけで悪くない。なのに私は、踏ん切りがつかないからなんて自分勝手な理由であんなことしちゃった。


 「あの、えっと」

 「ん~、まぁ。どうしてもファニーの本心だとは思えなかったんだ。でもよく考えれば俺が口を出すようなことじゃないからね」

 「いえ、そんな、違いますよ」


 ルイスは間違っていない。だって私は、本当は一緒に世界の麓へ行きたかった。それに謝らないといけないのはやっぱり私。


 「違った?」

 「えっと、その」


 なんて答えればいいんだろう。正直に自分の気持ちは言いたくないし、上手く言葉にできない。でもそうしないとまた誤解されちゃいそう。


 「うりぁぁぁぁぁ」

 「おっ」


 ア~ちゃんがルイスに突撃するけど、上手く避けている。何度も同じことをされたからだろうけど、ア~ちゃんは悔しそう。って、そうじゃなくて、なんて答えるのか考えないと。


 「ファニーちゃんをイジメるな~。ぜ~んぶ黒の賢者が悪いんだ~」

 「いや、だからそう言ってるじゃないか」

 「ば~か」


 なんか口喧嘩みたいになってて割り込みにくい。ティーブは黙って見ているだけだし、まぁ答えは私が考えないといけないことなんだけど。


 「ア~ちゃん、ありがとう。でね、ルイス。結婚したくないのが本心なのは言う通りだよ。でも、怒っていたわけじゃないの。これ以上ルイスを巻き込みたくないって思って、でも気持ちの整理ができなくってあんなことしちゃったの。ごめんなさい」


 これでいいのかな。でもこれ以上のことを伝える勇気なんてない。


 「そ、そうか?謝られてもなぁ」

 「ば〜か、ば〜か。ファニーちゃんは悪くないんだから。こんなところでなにしてるのよ」

 「なにって、ゴブリンを追い払おうかなって。まだ世界の麓に行く力はないからね。放っておくのも気分が良くないし」


 力がまだ戻っていないって、本当だったんだ。世界の麓に今すぐは行けないって、もしかしたら私に気をつかってくれているのかもって思っていたけど違うみたい。でも、だとしたら1人でどうするつもりだったんだろう。


 「鏡の盾だけで戦うつもりだったの?」

 「まぁ、そうなんだけど。無理だったよ。騒がしくなってきたから様子を見にきたんだけど、まさかファニーがいるとは思わなかったよ。なかなか愉快な恰好だね」

 「いや、これは違うの」


 誰にも見られていないことをちゃんと確認してから毛皮を脱ぐ。中に着ていたいつもの狩り用の服は毛だらけになっている。


 「た、ただの変装だから。ティーブももう脱いでいいよ。そんなことより、よくここまで来れたね」

 「ああ、たまたま良い抜け道を見つけたからね」

 「そ、そう」


 自分の髪を整えていると遠くから破壊音と歓声が聞こえてくる。よく聞いてみると、門を突破することに成功したみたい。


 「すごいことになってるな」

 「うん。ねぇ、これからどうするの?」

 「どうって言われてもな。ファニーはどうしたいの?」


 私のやりたいこと。最後に自分の国を救いたいってここまできたけど、気づいたらこんなところにいる。門では兵士も民兵も命懸けで戦っているのに、結局安全なところでしゃべっているだけ。


 「ここに来たのは、自分の手でこの国を助けたいって思ったから。でも、わかんなくなっちゃった。やっぱり死ぬ覚悟がないと、戦えないみたい」

 「え〜!?ファニーちゃん死んじゃや〜ぁ」

 「あ〜、うん。ありがとね〜、よしよし」


 手の中でジタバタするア~ちゃんを慰めながら、ここになにしに来たのかって考える。考えるけど、考えれば考えるほど後ろめたい気持ちが強くなっちゃう。


 「死ぬ覚悟か。そんなのできなくて当然だよ」

 「そ、そうかな?」

 「やりたいことをやりきれば、死にたくなるものだ。やりたいことをやるためには、死ぬことも受け入れられる。やりたいことを見つけられてもいないのに、死ぬ覚悟なんてできるはずない」


 私のやりたいこと。まだ見つけられていない私の生きかた。見つけられていないから、肝心なときになにもできない。あの山頂の村の頃の方が、死を受け入れられたかもしれない。


 「崖から落ちたときの方が、みんなの役に立てたのかな」

 「ファニー。冗談でもそんなこと言っちゃいけないよ」


 ルイスと出会ってから、こんなに真剣な目をしているのを初めて見た。どんなに危なくてもみんなのために戦えた昔と、あんなに戦いたいってワガママを言ってここまで来たのに戦っていない今。比べたら、やっぱり昔の方が役に立っていたなっていうには間違いなのかな。


 「崖のときは、死ぬ覚悟をしたんじゃなくて、生きるのを諦めただけだよ。一緒にしちゃいけない」

 「そう、かな」

 「ここにいるのは、ファニーがやりたいことを探しているからだよ」


 私のやりたいこと。もう見つけることはできないって諦めて、だから結婚することも受け入れた。それでも私はまだ、探すのをやめられていない。


 「門で戦っている人たちって、やりたいことがあるのかな。だから死ぬかもしれないのに戦えるのかな」

 「だろうね」

 「じゃぁ、ルイスのやりたいことってなに?あるから戦えるんでしょ?」


 つい聞いてしまった質問。ルイスの目は遠くを見ていて、時が止まったみたいに佇んでいる。遠くから聞こえる戦いの音が気にならなくなるくらいルイスの次の言葉に耳を澄ましてしまう。


 「俺は賢者だ。もう人間じゃない。だから人間のような生きかたはできない」

 「それって」


 もっとルイスのことを知りたい。でもそれは、王城から響くけたたましいゴブリンの叫び声にかき消される。出てきたのは、あの黒いゴブリンが3体。王都の空気が様変わりして、それまでバラバラに戦っていただけのゴブリン達が1つの生き物のように整然となった。


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