第52話-故郷の惨状と再会-
関所の先には、見慣れた景色が広がっているはずだった。ルイスに出会った後に、最初に歩いた道。途中で狩りをしながら一緒に歩いた道。
「どうして?」
広がっていたのは、前に通った時よりもはるかに酷い光景。多くの死体が転がり、どれも腐敗が激しくて、骨まで見えているものまである。死臭で空気が汚れ、死肉で足元が悪い。私と違って仕事で出来ただけの兵士と、便乗して略奪することの方がむしろ目的だった民兵達。その士気を下げるには十分すぎる光景。
「ティーブ、進んで」
「はい」
私は他の人達とはちがう。この国をゴブリンから助けるためにここにいる。だから、こんな光景を見せられて、怒りに奮える肩を止められない。
先へ進む私達。聞こえてくるのは利己的な民兵の声と、打算的な兵士の声。どれもこれもツイグのためじゃなくて、自分のためだったり、リーフのためだったりする。しかたがないのはわかっている。これが現実だってわかっている。
「ファニーちゃん?どうしたの?」
「うん、ちょっとね。人に任せきりにしたら、こうなっちゃうんだなって」
「ん~?」
毛皮の中に隠れてもらっているア~ちゃんはわからないよね。今の私の気持ちがわかる人なんているはずがない。でもそれは、昔からずっとそうで、昔に戻っただけ。お母さんを殺されてから、私の気持ちを汲んでくれる人なんていなかった。初めて汲んでくれたのがルイス。
「そうか。だから私は、」
「なになに~?」
「えっ、あっ、なんでもない。そ、それより、ア~ちゃんはちゃんと隠れててね」
いつの間にか上半身まで出しちゃっている。他の人達はけっこう後ろを歩いているから見られてはいないと思うけど、気を付けないといけない。
「ぶ~」
「ご、ごめんね」
「だって~」
毛皮の中に戻ってくれたけど、どうしたんだろう。騒がないでいてくれるのは嬉しいんだけど、それだけじゃない感じがする。後ろを見てみると、ちょっと近づいては来ているけど、まだ声が聞こえるような距離じゃない。
「どうしたの?」
「む~」
「聞かせて、ね?」
「む~。だって、ご褒美もらえないじゃん」
そ、そういうこと。黒いゴブリンと戦った時に魔法で助けてもらって、だからお礼に街で遊んだ。私も楽しかったけど、ア~ちゃんはそんなに喜んでくれてたんだ。
「大丈夫だよ」
「なんで?」
「これが終わったらね、私の部屋に着いたら、お願いしたいことがあるの。聞いてくれたらお礼しなきゃね」
「ほんと!?」
すごい目を輝かせている。お願いなんて本当は考えてなかったから、なんだか胸が痛む。お礼なんて、あの時に弓を持って来てくれただけで十分したい気持ちになっている。でも今は先にやらなきゃいけないことがあるから、全部終わったあとにね。
目の前に広がる凄惨な光景に目を背けてしまいそうになりながら、王都に向かって真っすぐ進んでいく。私が関所を通ってからなにがあったのか。ゴブリンたちはどこに行ったのか。わからないことだらけで押し寄せてくる不安を感じながら、遠くにツイグ王城が見えてきた。
◇
「なにこれ?」
王都から聞こえてくるのは、ゴブリンのけたたましい声と奇怪なリズムを刻む太鼓の音。時折聞こえる歓声と、かすかに聞こえる悲鳴。
そんな音をかき消すように兵士の号令が飛ぶ。正面から門を突破するつもりで、全身鎧を装備している兵士を先頭にして門の前に整列していく。私も民兵の一番前に向かって移動しようとしたけれど、後ろから引っ張られてしまう。
「ティーブ、どうしたの?」
「危険です」
「え、でも」
門へと前進する隊列と逆走する私達は兵士に詰め寄られてしまう。ティーブが止めるってことは本当に危険だってことだから何とか誤魔化したい。こちらに気づいて門の上に上がってきたゴブリンがちょうど見えたから、射抜いて後ろから攻撃することを納得させる。
「ねぇ、このまま門が壊れるのを待つの?」
「いえ。あの門から入るのは危険です」
「うーん」
矢を放って門の上のゴブリンを射抜きながら話すんだけど、門から入るのがダメみたいだから他の方法を考えないといけない。考えながらだったから適当に射っているはずなのに、兵士がすごく驚いていて、ちょっと目立ちすぎちゃったかもしれない。
「ねぇ。城のすぐそばまで行ける抜け道があったよね。そこはどう?」
「そこならば、まぁ」
バレないようにコッソリ話しながら、王族だけが知っている抜け道を目指すことにした。そこを通れば、王城のすぐ近くまで一気に移動できる。
ちょっと目立っちゃったけど、門での戦いが始まって、武器がぶつかり合う音のおかげで何とか誤魔化して抜け出せた。
「ねぇ、ティーブ。みんなにも教えた方が良いかな?」
「いえ。やめたほうがいいでしょう。狭いので大勢は通れませんし、教える必要もないです」
「そっか」
狭い抜け道は1人ずつしか通れない。ティーブが頑なに最初に行くって言うから、私は後ろから追いかける。無事に王城のすぐそこまで抜けることができた。
子供の頃からずっと見てきた王都の姿。見る影もないほどに変わり果てた街には、少し前まで人が住んでいたってことが信じられないほどになっている。実際に住んでいた私自身でさえ信じられないほどに。
屋根の上には人間の死体が串刺しにされていて、綺麗に舗装されていたはずの道には物が散乱、鼻を押さえずにはいられないほどの悪臭が漂っている。生きている人の姿は見れない。
「ひどい」
「ねぇねぇ。誰か来てるのかな?」
「え?」
ア~ちゃんの指さす先にあるのは野営用の道具一式。王城の横にある庭に並べられていて、誰かが泊っていたみたい。
「誰?」
こんなところに一体誰がいるのって思っていたら、王城の中から出てくる人影が見えてきた。矢をいつでも射れるように身構えていると、出てきたのは見慣れた人。
「ル、ルイス?」




