第51話-そして故郷へ-
次の日。雨は止んだけど、まだ曇り空。
急いで支度を始める。狩りのことで悪目立ちしちゃったから、あんまりしっかり準備しちゃうと怪しまれちゃう。だから最低限のものだけ買い集めて、残りは別の場所で揃えることにした。
あの獲物の毛皮とかが高く売れてよかったな。お金のことは全然心配いらない。民兵を募集してくれているみたいだから、応募して紛れ込むつもりなんだけど変装の仕方には困った。
私は男装すれば小柄な男ってことでなんとかなるし、ア~ちゃんには隠れてもらえばいい。だけどティーブの角とか褐色の肌を誤魔化すのは一苦労。ガーダンが珍しい種族っていうことは忘れちゃいけない。
それでどうなったかっていうと、オオカミの毛皮の装備を頭から被ってもらうというワイルドな恰好。フードだとどうしても隙間から角が見えちゃうし、全身甲冑だと民兵がそんな装備を持っているわけないから無理。これならあの獲物の毛皮を残しておけばよかったって最初は思ったけど、それはそれでバレちゃいそうだから難しい。
ティーブにだけそんな恰好をさせるわけにはいかないから、私もシカの毛皮を頭から被ることになる。そんな2人組が民兵の募集に突然現れたもんだから目立つなんてどころじゃない。
「ねぇ、ティーブ。ちゃんと誤魔化してよ?」
「お任せください」
「ファニーちゃ~ん」
「しゃ、しゃべっちゃダメ」
すごく不安。私が話すと声で女だってバレちゃうから、会話はティーブに任せるしかないんだけど大丈夫かな。ア~ちゃんもちゃんと大人しくしてくれるかわからない。
不安だけど、これで行くしかない。民兵の募集もずっとやってくれているわけじゃないから、もう応募に来るしかなかった。特に見張りがいるわけじゃないから、宿から出るのは簡単だったけど、人影のないところで毛皮を被ってここに来るまでは周りの視線が痛かった。
「次!ってなんだ!?」
「なにか問題でも?」
「い、いや。そういうわけではないが、なんだその恰好は?」
まぁそうなるよね。こんな恰好をしている人なんて他にいないし、怪しまれるのは無理もない。意外だったのはティーブがしっかりと受け答えしてくれていること。
「その毛皮はどうした?」
「自分で狩った。文句あるか?」
「お、おう。そうか」
ぶっきらぼうだけど、これはこれで良い感じかもしらない。私がしゃべるとどうしても丁寧な話し方になっちゃうだろうし、田舎者っていう雰囲気はティーブみたいな話し方の方が良いはず。本人はそこまで考えてないかもしれないけど。
「それで?」
「いや、ああ。そっちは連れ合いか?」
「弟だ」
私は何もしゃべらない。というか口を開く前にティーブに頭を押さえつけられる。そういう打ち合わせをしたからで、なるべく声を出さないですむようにするため。
「おいおい、大丈夫なのか?」
「問題ない。それで?」
「あ、ああ。まぁ戦えそうではあるな。行ってよし」
そんな感じで拍子抜けくらい簡単に民兵として受け入れてくれた。理由は色々あるみたいなんだけど、ゴブリンとの戦いになるべく兵士を使いたくないのと、かといって応募してくる人が少ないことと、行くところがもう国としては滅んでいるから身分が怪しくても問題ないこと。少しくらい悪さをしても問題ないって思われてるのは嫌だったけど、どっちにしてもゴブリンに滅茶苦茶にされているわけだからって自分に言い聞かせて我慢する。
ツイグへはその後すぐに出発することになった。リーフ王都で買い揃えられなかったあれやこれやを道中で買いながら進んでいく。
ルイスと最後に通った街道を歩き、ヴィンダーさんや代表さんのいる街を通り、山越えした山を遠くに見ながら国境の関所へと向かう。来た時とは違って、山頂の村ではなくて街道を通る。大回りにはなるけれど、山越えをするには人数が多すぎたから。
ほんの少し前のはずなのに、もう懐かしく見える景色。ツイグ王都からリーフ王都までの道のりの中で出会った人の顔や起きたことを思い出す。
あの時、自分のやりたいことなんてわからなかったし、なんで戦うのかもわかっていなかった。私がやるしかなかった意味のある旅。なんにも気づけていなくって、ただ無我夢中で、だけど楽しかった旅。
今でもやりたいことはまだ見つけられていない。だけど今は、戦う理由に気づけている。もう2度と取り戻せないもののための戦い。私が戦わなくてもリーフ王国が助けてくれるから、本当は戦う必要なんてない。ただの当てつけで、私のワガママ。これで最後の、終わって欲しくない寂しい旅。
だからこそ最後まで全力で戦おう。勝ってもなにも手に入らない。勝った後に待っているのは決められた人生。だからせめて、今だけは、後悔のないように戦おう。




