表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/90

第4話-生きのびたのは、私だけ-

 「お、お義姉ちゃん!?」


 扉の前には、数え切れないほどのゴブリンが群れている。その中心で倒れている義姉のドレスはズタズタに切り裂かれ、血だらけになっている。そんな義姉に、なぜか睨みつけられる。


 「ファニー!どうして来たの!?」

 「ど、どうしてって。今助けるから」

 「なんてことを」


 助けたい、けどこの数は。右腕は動かないけど、左腕の細剣で戦える。戦えるけど、この数はキツいかも。痛み止めのおかげで動けはするけれど、それも時間の問題。効き目があるうちに助け出さないと。


 「ティーブ。義姉さんを助けられる?」

 「申し訳ありません。お約束はできません」


 難しいのはわかってる。ゴブリンが何体いるのかわからない。ただ扉があるだけなのに、なんでこんなに広くしちゃったんだろう。そのせいで、こんなにたくさんのゴブリンに入られちゃってる。 


 「お願い、力を貸して。助け出すだけでいいから」

 「かしこまりました」


 ティーブが前に出てゴブリンを倒し、義姉の所へ向かってくれる。数が多すぎて、倒しても倒しても先に進めていない。弓さえ使えれば一緒に戦えるのに、細剣だけだと自分の身を守るのに精一杯。


 このままじゃダメだ。痛み止めが切れたら戦うどころじゃなくなっちゃうし、ティーブだってずっと戦えるわけじゃない。たった1人助け出すことすらできない。


 「えっ?誰?」


 なんだろう。扉の向こうから呼ばれている。自然と足が動いていて、声は聞こえないけれど、言いたいことは伝わってくる。伝えたいことが、見えてくる。


 8人の男女が言い争っている。魔物が増え続ける世界を、どうにかしないといけないと話している。

 1人だけ、世界樹の下へまた行くべきだと言う。世界樹の下で助けを乞うべきだと言う。

 7人は、反対した。世界樹を訪れた後に魔物が生まれたのだから、また世界樹を訪れることで事態が悪化するかもしれないと主張した。

 言い争いはやがて、闘争に発展する。1対7の結果が見えていた闘争は、やはり7人の勝利、1人の敗北という形で決着する。

 1人は敗れて封印された。目の前にある扉の向こうに封印された。


 「あっ」


 気づいたら扉の目の前。開けてはいけないと言われている扉の前。


 「これって、本当のことなの?」


 魔物が増え続けているって、じゃぁゴブリンも増え続けていたってことで、だからこの国は、ツイグ王国はこんなことに。


 開けちゃいけないって、7人の言うことを聞いていたってこと?きっとそうだ。言いたいことが、ちゃんと伝わってくる。扉の向こうの人も、魔物をどうにかしたいんだ。


 ゴブリンだけじゃない。アキシギルの魔物を全てどうにかしたいと思っている。今度こそ、魔物が増え続ける世界を救いたいと思っている。


 扉の取っ手を掴む。後ろから義姉の叫び声が聞こえる。なんて言っているのか、よく聞き取れない。でも、大丈夫。すぐに助けられるから。扉の向こうに封印されている人が、きっと力になってくれるから。


 思い切り取っ手を引っ張る。扉の向こうにあったのは、思ったよりも狭い部屋。中にいたのは、眠っている1人の黒髪の男の人。立派な服を着ていて、ゆっくりと、目を覚ます。


 義姉の絶叫が聞こえて、すぐに振り返る。そうだ、見とれてる場合じゃない。まだ助け出せたわけじゃないから。


 「えっ」


 心臓が止まりそうになる。振り返るとそこには、床を真っ赤に染めながら動かなくなった義姉の姿。まるで時が止まったみたいで、息まで止まりそう。


 「そ、そんな。わ、私、私は」


 誰1人、助けられなかった。ううん、そうじゃない。最後の最後で私は、義姉より扉なんかに夢中になっちゃってた。義姉さんは最後に叫んで何を言っていたんだろう。扉の前の私に見捨てられたって思われたのかな。聞こえなかったはずの憎しみの言葉が、耳を塞いでも聞こえてくる。


 「あまり、自分を責めないほうがいい」

 「え?」

 「こんな怪我でよく戦ったね。あとは任せて」


 後ろから声をかけて、そのまま歩いていき、そしてゴブリンに挑んでくれたのは、扉の向こうに封印されていた黒い髪の男の人。


 嘘みたい。ゴブリンが、あんなに簡単に。


 黒い髪の男の人は、武器も持たずにゴブリンと戦っている。短剣を片手で防いでいて、しかも防いだ瞬間に攻撃を反射しているかのよう。襲いかかっているゴブリンは、反射された短剣に切り裂かれていく。


 視界の隅で、義姉が動くのが見えた。もしかして、まだ生きているのかも。じゃなきゃ急いで駆け寄る。ひどい。綺麗だったドレスが血で赤く染まりきっちゃってる。


 血だらけの手を握ると、とても強く握り返してくれる。


 「お義姉ちゃん!!お義姉ちゃん、ゴメンね」


 虚ろな目の義姉は、吐血していてとても苦しそう。それでも最後に、何かを言おうとしているのがわかる。


 「お義姉ちゃん、何?どうかした?」

 「はや、そい、から、にげ、、、、、」


 義姉は事切れた。


 お義姉ちゃんも、死んじゃった。どうして、なんで、私が生き残っても意味ない。あと3年しか生きられないんだから。私はただ、お義姉ちゃんにも、お父さんにも、城のみんなにも、死んでほしくなかっただけなのに。


 視界がぼやける。お義姉ちゃんの顔が濡れていく。みんな死んじゃった。私と違って、やりたいことがたくさんあって、やり残したこともいっぱいあったはずなのに。


 私って、自分のやるべきこともできなかったのかな。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ