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第41話-これじゃ足りない-

 急いで野営地に戻ると、黒いゴブリンのせいで乱戦になっている。何人か地面に倒れていてピクリとも動かない。思わず唇を噛みしめながら、奮闘しているリーダーさんのところへと向かう。


 「ファ、ファニー様!?なんで戻られたんですか!?」

 「な、なんでって、ちょっと作戦会議してたんです」

 「さ、作戦?無理です。勝てません。我々が時間を稼ぐので、逃げて下さい。ロバート様はルイス様に任せています」


 そういえば先頭でゴブリンを食い止めているのはルイスじゃない。じゃぁどこにって見渡すと、こっちに駆け寄っているところで後ろにはロバート様がついてきている。


 「おいおい。どうしたって」

 「ア~ちゃん。ちょっとお願い」

 「ん~?」


 悪いけど余計なことを話している時じゃない。今も先頭のみんなが次々に倒れちゃっている。だからア~ちゃんを見せて大人しくしてもらおう。


 「ルイス」

 「あ、あぁ。どうするんだ?」

 「この間のア~ちゃんの魔法を打ち込むから手伝って」


 ルイスは少し目を見開いてから黒いゴブリンを一瞥して、またこっちを向いてくる。どんな返事をされるんだろうって、少しドキドキする。


 「なら足止めしないといけないな。俺のことは気にしないで撃ってくれ」

 「えっ、でも」

 「あれくらいなら耐えられる。やるなら早い方がいい。ティーブも来てくれ」

 「そ、そう?ティーブ、お願い」


 本当に大丈夫なのかな?って心配にはなるけれど、ティーブは何も言わずに行ってくれる。それなら問題ないはず。それより先頭で戦ってくれている人の断末魔が聞こえてきていて、もう時間がない。


 「ア~ちゃん、戻って」

 「えぇ~?もぉ~」


 不満みたいだけど、素直に頭の上に乗ってくれる。近くに止めてある馬車の上まで急いで登って、弓矢を構えた。肩が痛い。次が最後の一射になるけれど、外すわけにはいかない。


 馬車の上から見えるのは、ルイスが黒いゴブリンと対峙しているところ。全ての攻撃を跳ね返しながら前進していた。その近くでティーブは残っている人達に指示を出しながら黒いゴブリンから遠ざけるように逃がしてくれる。


 「ねぇ、準備とか要る?」

 「ちょっと待って」


 まだ人が残っているから放てないんだけど、でもすぐに放てないのは少し心配。ルイスは攻撃を反射し続けているけど、ゴブリンも無駄だってわかってきたみたいで囲むように動き始めちゃっている。


 「いつでもいいよ」

 「ありがとう。あとでちゃんとお礼するからね」

 「ほんと?約束だよ」


 最後の矢を番える。残っている人はもうほとんどいない。ティーブが周りのゴブリンを蹴散らしてくれていて、動ける人も怪我している人も全員逃れてくれた。


 もしかしたらこのまま、もう動けない人は巻き込まないといけないかもしれない。それくらいの覚悟が必要なんだって思った。でも次の瞬間、ルイスが黒いゴブリンに向かって前進していく。


 何をするつもりなの。そう思った時にはもう黒いゴブリンの目の前まで迫っていて、鏡の盾を下から上に振り上げた。大きく弧を描きながら吹き飛んでいく黒いゴブリン。周りのゴブリンも一緒に飛ばされていてまるで大きな矢が飛んでいくみたい。それくらいの速度。


 そんなルイスが作ってくれたチャンスを逃すわけにはいかない。しっかりと着地点を見定めながら、最後の矢を引き絞る。鏃がほのかに赤く、前にア~ちゃんの魔法を灯した時と同じように光り輝く。


 狙うのは着地直後。放った最後の矢と、黒いゴブリンは全く同じ地点に向かって飛んでいく。


 ドーン。


 前よりも重く響く爆発音。爆風でバランスを崩して、馬車の上から落ちそうになる。何とか耐えてから、また馬車の上に立つ。地面が大きく窪んでいて、その中心で黒焦げの死体がいくつも転がっている。


 ルイスのおかげで離れたところに放てたから、ティーブも含めてみんな無事。そしてルイス自身は、警戒しているのかな?鏡の盾を構えて様子を見に行ってくれている。あの爆発もちゃんと防げていたみたいで、怪我をしている様子は全然ない。


 「ふぇ~。もうだめぇ」

 「あっ、ありがとね」


 フラフラになっちゃったア~ちゃんを手の中に入れて、でもこれじゃもう戦えない。どっちにしてももう矢を射ることは出来なさそうだけど、両手が塞がっちゃった。


 「ファニー様。残りはお任せ下さい。行くぞ」


 残っているのはルイスが吹き飛ばせなかったゴブリン達。でも黒いゴブリンが倒されちゃったからなのか、バラバラなっているし、それにほとんどは逃げ出しちゃっている。


 それでも残っているゴブリンたちを、リーダーさんとティーブが協力して倒してくれて、特に問題なく次々に切り伏せている。


 これなら心配いらないかな。それよりルイスは大丈夫かな。ずっと黒いゴブリンの死体を見ているみたいだけど、まだ生きているって感じでもない。ゆっくりとルイスのところに歩いていくと、小さな声で何かを呟いている。


 「これじゃ足りないな」


 どういう意味だろう?ルイスの足元にあるのはグチャグチャになって、しかも黒焦げなゴブリンの死体。まさか黒いゴブリンの死体を探しているとか?あの中から見つけるのは無理だと思うけどな。


 「ルイス?」

 「ん?あぁ、やったな。生き残りはいないみたいだ」

 「う、うん。それより足りないってなんのこと?」

 「あぁ、まぁ」


 聞いちゃいけなかったのかな?こんなに歯切れが悪いルイスは初めてみる。向こうでは歓声が上がった。ゴブリンを全て退けられたみたい。


 「賢者の力が戻っていれば、こんなに苦戦しないですんだかなって。だからまぁ、力不足だよな。なんて」

 「えぇ!?そんなことないって、そんなこと言ったら私だってほとんど何もしてないし」

 「ははは。ファニーが言う方が変な感じだけどね。みんなが助かったのはファニーの機転のおかげなわけだし」


 なんだろう、これ。ゴブリンの攻撃を防ぎ切ったのはルイス。それに最後の最後で黒いゴブリンを吹き飛ばしてくれたから、みんなを巻き込まなかったんだ。それで力不足って言われても説得力がないんだけどな。


 「まぁ、帰ろうか。功労者をみんな待っているよ」

 「だから、それは私じゃなくてルイスだってば」


 野営地はもうボロボロになっちゃったけど、でも歓声で満たされている。みんなのところに戻るにつれて声がドンドン大きくなる。なんだか恥ずかしいな。だから最初は足が重かったけど、みんなの喜んでいる顔を見ていると一歩一歩が軽くなっていくな。


挿絵(By みてみん)

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