第40話-勝つための方法-
「あれは、まさか」
黒いゴブリンは大量のゴブリンを従えている。それだけじゃない。装備も木製だけど立派だし、明らかに指示を出している。
「ファニー様!!」
「ティ、ティーブ!?」
つい黒いゴブリンに気をとられ過ぎていたのかも。だから気付かなかったけど、ティーブがもうすぐそこまで走って来ている。左側を任せていたはずなのに、どうしてこっちに?
「失礼します」
「えっ、えぇ!?」
どうしたのかと思ったら、なんで私はティーブに担がれて、それで野営地からすごい速さで遠ざけられちゃっているの?まだみんな残って戦っているのに、これじゃ私だけ逃げだしちゃったみたい。
「ちょ、ちょっとティーブ、降ろして」
「ダメです」
「な、なんで!?みんなまだ残っているのに」
そんなことを話している間にも、野営地がドンドン小さくなっちゃう。戦っているみんなの一際大きな声があがって、きっとあの黒いゴブリンとの戦いが始まっちゃったんだ。なのに、どうして。ティーブはどうして全力で逃げ出しちゃったの。
「もういいでしょ!?降ろして」
「承知しました」
かなり遠ざかっちゃった。集中すれば野営地で何が起きているのかなんとかわかる。やっぱり黒いゴブリンとの戦いが始まっているし、それにみんなの必死な声しか聞こえない。
「戻りましょ」
「ダメです」
「だから、どうして?」
こんなこと初めて。敵から逃げるようなことなんて無かったのに、どうしてこんな大事な時に限って言うことを聞いてくれないの。
「申し訳ありません。私ではあのゴブリンからファニー様を守り切れません」
「え?」
「残りますと、大きな怪我をすると思います。最悪の場合は死んでしまいますので、戻るわけにはいきません」
それって、私が前にお願いしていたことのためってことなの。一度目を閉じて、深呼吸して、多分冷静にならなきゃいけないのは私の方だ。
ギリギリの戦いだったのに、黒いゴブリンが大量の仲間を引き連れてきた。それだけじゃない。装備も今までより強かったし、それに統率もされている。残って戦い続けていたとしても勝てないし、ティーブの言う通り大きな怪我もする。ちゃんと考えれば、全滅するだけってことは目に見えている。
大怪我をしないようにっていうお願いを取り消して戻ることは簡単かもしれないけど、それじゃ結果は変わらない。残してきたルイスやリーダーさんには良く思われてないと思うけど、だからって戻るだけじゃ意味がない。
私は、まだ自分のやりたいことを見つけられていない。ツイグ王国を救いたいけど、そのために自分を犠牲にするようなことはもうやらないって決めたから。
「ルイスは大丈夫なの?」
「はい。ルイス様であれば耐えられます。ファニー様を安全なところまで逃がしてからお迎えすれば良いかと」
「そう。じゃぁ攻撃を防ぐことはできるのね」
「え、えぇ。ですがあの数のゴブリンを倒しきることはできません。守ることはできても攻めることができません」
良かった。それならまだ勝てるかもしれない。ゴブリンを倒しきれるって納得してもらえれば、ティーブだって戻って戦ってくれるはず。だからそのために、頭の上に手を伸ばす。
「ア~ちゃん、ア~ちゃん、お願い。起きて」
「ん、ん〜。ねむ〜い」
「そ、そうだよね。でもお願いしたいことがあるの。ね?」
「ん〜。ふぁ〜ぁ〜。な〜に〜?」
起きてくれた。聞いてくれるかわからないけど、でもこれしか思いつかない。
「あのね。この間の魔法って、今使えるかな?」
「このあいだって?」
「ほら、ヴィンダーさんの工房で私が矢の試しうちをしてたときにね。的を全部壊しちゃったやつ」
「ドッカ〜ン?」
「そう、それ」
あの威力なら、ゴブリンのほとんどを焼き払えるはず。魔法を使ったあとのア~ちゃんは疲れ切っちゃっていたから、多分1発しか発動出来ないと思うんだけど、私がちゃんと当てられさえすれば良いだけ。
「ん〜。良いけど?」
「ほ、本当?ありがと〜」
「ん〜。うへへぇ〜」
あっ、思わずほっぺたをスリスリしちゃったけど、でも嬉しそうだし良いのかな。ってそんなことをしてる場合じゃない。
「ねぇ、ティーブもア~ちゃんの魔法を見てたよね?アレならなんとかならない?」
「し、しかし。外した場合どうするのですか?アレは連発できないはずですし、もうほとんど弓を引けないですよね」
「そ、そうだけど」
なんだかんだで、よく見ているんだな。だから無理だって判断したんだと思うけど、でもあと少しだけなら私も戦える。
「あと1回ならなんとかできるよ。外しちゃったら、その時は全力で逃げるから。ね?」
「ファニー様が戻られるより、ア~ちゃん様に魔法だけ撃ってもらえればよろしいのでは?」
「や〜」
「あ、あのね。ア~ちゃんの魔法は射程が短いの。だから私の矢に乗せないと自分まで巻き込んじゃうから、だから一緒じゃないとダメなの」
私もまだ良く知らないんだけど、ア~ちゃんの使える魔法はまだそんなに多くないみたいだし使い勝手が悪いものばかり。だから一緒に行くしかない。
「当たらなかったら、逃げてもらえるのですね」
「うん。約束する」
「では参りましょう」
「いいの?ありがとう」
ティーブが納得してくれたってことは、勝算もあるってことだよね。だからっていうのもあるけれど、でも理由はそれだけじゃない。
「どうかされましたか?」
「うん。だってティーブとこんなに言い争ったのって初めてだったから。普段からこんな風に言いたいこと言ってくれると嬉しいんだけどな」
「ぜ、善処します」
コレもきっと、ガーダンだから大怪我させないようにっていう言いつけを守っているだけなんだろうな。だから、それだけじゃないって信じたいのは私が都合よく考えているだけなんだってわかってる。わかってるけど、でもいつの日か、ティーブの本心を聞きたいな。
またティーブに担いでもらって野営地に戻る。叫び声が飛び交い、武器のぶつかり合う金属音が鳴り響く戦場に帰っていく。




