第37話-森の異変-
「なんとかなったな。ファニー、見つかるかもしれないけど火は作るよ」
野営のためのテントを張り、食事のために火を熾す。ゴブリンに見つかってしまうかもしれないのは怖いけれど、柔らかい食事を作るためには仕方がない。持ってきた食料のいくつかと水を使ってスープを作る。
「ルイス、魔法でなんとかできないの?」
「う~ん、そこまで万能じゃないんだよね。それより早く合流した方がいいかもしれない。俺らはまだなんとかなるけど、彼にはもっと水が必要だろうし」
作り終わったスープを食べさせるようにティーブにお願いするけれど、ロバート様はかなり弱っていてなかなか喉を通らないみたい。ジッとしていればここまではならないらしいんだけど、なにをしたらこんな風になっちゃうんだろう。
「ゴブリンは大丈夫かな?」
「どうだろう。というよりあの様子は気になるね」
小さい手でロバート様を殴っているア~ちゃんを手の中に入れる。ルイスはなにを気にしているんだろう。いつも通りのゴブリンにしか見えなかったんだけど。
「なにかあるの?」
「いや、あれだけ殺したらもっと血眼になって追ってくるはずなんだけど、それがない。他の指示に従っているみたいだ」
それは、ちょっと思っていたけど、どうなんだろう。近くにいたゴブリンは襲い掛かってきたし、遠くのゴブリンは寄ってくることもなかったけど気付いていなかっただけかもしれない。
「う~ん、ちょっとわかんないかも」
「まぁな。どっちにしても合流してから考えた方が良いだろうね」
そんなこと言われたら気になっちゃうけど、調べる余裕なんてないしどうしようもない。さっきは気付かれなかっただけで、これからどうなるかはわからないし、ゆっくりはできないよね。
「どうやって合流しよう?ここまで来てもらうわけにはいかないから、戻るしかないんだけど」
「そうだなぁ。ここまで弱っているとは思わなかったけど、怪我はしていないみたいだし明日の様子しだいだな」
なんとかスープを食べさせたロバート様は眠っている。歩けるかはわからないし、歩けたとしてもかなり遅いと思うけど、少なくとももっと掴まっていられるようにはなっているはず。それなら今日より運びやすそうだし、交代で抱えていけばなんとか合流できるかも。
決めるのは明日になってからってことにして、今日は休むことにした。ゴブリンに襲われるかもしれない夜。気付けるように警戒しながら、いつでも戦えるようにしながら、一晩を過ごす。
◇
「なぁ、これなんとかならないのか?」
「文句言わないで下さい」
翌朝、ロバート様はそれなりに元気にはなってくれたけど、足場の悪い森の中を歩いてもらうには怪しい様子。仕方がないから交代で抱えて合流することになったんだけど、なんで私に抱えられるのをそんなに嫌がるんだろう。
「女性に抱きかかえるだなんて、屈辱だ」
「じゃぁ自分で歩きなさい」
「それができないから困っているんだろう」
ああ、もう。ずっと文句ばっかり言って嫌になっちゃう。ルイスとかティーブのときはこんなことにならないのに、ゴブリンが見つかるかもしれないから静かにしてっていっているのに聞いてくれないし、どうしたらいいかわからないよ。
「た、頼むから合流のときは賢者かガーダンにしてくれよ」
「はいはい。わかりましたよ」
なにをそんなに心配しているんだろう。みんなの評価がこんなことで変わるはずがないのに、どっちにしても悪いままに決まっているんだから。口だけは元気一杯みたいだけど、それなら自分で歩けばいいのにな。あんなにフラフラじゃなかったら絶対に歩かせる。
「あはははは。お姫様抱っこされてる王子様だ~。あははははは」
「こ、この。んー」
「ア~ちゃん?あんまりからかわないの」
妖精には文句を言えないみたい。私には好き放題言うのに、転移魔法を受けたから怖いのはわかるんだけど、私に当たるなんてため息が漏れちゃう。放り出したくなりながら歩くけれど、先を歩いていたルイスは立ち止まっている。
「ルイス、どうしたの?」
「やはり変だ」
「え?」
昨日の夜も話してくれたけれど、ゴブリンのことかな。そういえばこんなに騒いでいるのに全然姿を見ない。
「ファニー。集中してゴブリンの位置を調べてくれないか?」
「わ、わかった。ちょっと座ってて下さい」
うるさい人を地面に座らせて、耳を済ませる。ゴブリンを見つけたいのに邪魔される。
「なぁ賢者。ファニーはなにをしているんだ?」
「遠くのゴブリンを探してもらっているんです。少しお静かに」
「はぁ?遠くって、どれくらい?そんなの一流のハンターしかできないはずだぞ?」
一流かどうかは知らないけど、私ができるのがそんなにおかしいことなのかな?集中しないといけないのに、これじゃ全然できない。
「ア~ちゃん。終わるまでこの人が喋らないようにしてくれない?喋ったら好きにしていいから」
「本当!?任せて、ファニーちゃん」
「お、おい。あっ」
これで静かになったし集中できる。嘘。まだ遠いけど、こんなにたくさんいるの?通ってきた道の近くにも何体かいるし、気付かれなかったのが信じられない。
「ルイス、大変。ちょっと遠いけど、たくさんいる」
「な、なんだとぉ。どうすんだよ。なんでわかんなかったんだ!」
「あはっ。喋ったぁ♪♪」
「ちょ、ちょちょちょちょ、ちょっと待て。これはし、か、た、が、ないんだ。その手をおろせ」
ア~ちゃんが嬉しそうに魔法を放とうとしちゃっている。喋ったロバート様が悪いんだけど、調べている間に黙ってもらいたかっただけだし、ここでまた変なところに転移させられても大変。
「ア~ちゃん、ちょっと待って」
「え~?だってコイツ喋ったよぉ?」
「話が変わったの。ありがとうね」
「む~。つまんな~い。もう寝る」
不機嫌そうに頭の上に戻って本当に寝ちゃったみたいだけど、聞き分けてくれて良かった。ティーブにもそうだけど、ア~ちゃんにお願いする時も気をつけた方が良さそう。
「ルイス、どうしよう」
「まぁ、このまま進んだ方がいいね。予定通り合流を目指そう」
「で、でも」
この先にもゴブリンはいるし、気付かれないとは思えない。うるさい人がいたからって言い訳したいけど、それでもこんなにたくさんに囲まれちゃったのは私の不注意。
「理由は後で話すよ。まだ確信はないし、どっちにしても急いだ方がいい。彼はティーブに任せて走ろう。大きな音が出てもいい」
「う、うん」
いつもと様子が違うルイスの声。このままだと危ないって私も思うし、早く森を抜けて安心したい。
「じゃぁ、いつも通り俺が先に行って、ファニーが一番最後だな。ティーブ、問題ないよな」
「はい。今のところは」
「よし、じゃぁ急ごう」
森を駆け抜けて、何体かのゴブリンに気付かれて襲われながらもどんどん戻っていく。不思議だったのはゴブリンが集まってこないこと。本当に近づくと襲ってくるけれど、それだけ。仲間を呼んだりすることがなくって、だからたくさんいるけれど囲まれるということはない。
そんな不思議なままに森を進み、そしてリーダさん達がいるはずのところまで抜けることもできた。一安心、のはず。そのはずなんだけど、なんで無事でいられたのか。その疑問が頭から離れない。




