第36話-お姫様だっこ-
「ティーブ。あれって、ロバート様かな」
「はい。間違いないかと」
なんとか間に合った、ってことかな。ロバート様はゴブリンに囲まれているっていうのに倒れたまま動かない。まだ2日くらいしか経っていないのに、あの様子だとゴブリンがいなくても3日保たなかったかもしれない。
「先にロバート様のところまで行けるかな?ゴブリンに囲まれちゃうけど、まだ明るいし」
「囲まれるのは避けたいところです。救出し、そのまま離脱するのはどうでしょう?」
「ちょっと待って」
集中してゴブリンの位置を調べる。離脱まで考えるならどっちへ駆け抜けるのか考えないといけない。理想は開けていて戦いやすい野営予定地まで行くことだと思うんだけど、そこまでは無理みたい。でも離脱することならなんとかなりそう。
「じゃぁ、あっちに抜けて、迂回しながら野営予定地まで行きましょ。行けそう?」
「はい。問題ありません」
「ルイスは?」
「良いと思うけど、あの王子は走れないと思うよ?誰が運ぶ?」
倒れたまま動かないロバート様が一緒に離脱できるとは思えないし、というより万全の状態でも私達には追いつけなさそう。
突撃して、救出して、離脱。その間、ルイスにはずっと先頭を切り開いてもらわないといけないし、敵に近づくわけだからティーブの剣で追い払ってもらわないといけない。そうなると手が空いていてロバート様を運べるのは、認めたくないけど私だけ。
「もしかして、私?」
「え~、なんでファニーちゃんがそんなこ、」
「ア~ちゃん、ごめんね。今は大事な話をしているから」
手の中で妖精の口を塞ぐ。私だって、なんとなくやりたくはないことだけれど、でもそうするしかない。
「私が運ぶから、任せて」
「頼んだ。まぁ、ゴブリンは俺とティーブでなんとかするよ。さて、そろそろ急いだ方が良さそうだ」
ロバート様に目を向けると、ゴブリンが少しずつ近付いている。周りを何も警戒していないみたいで、特に急ぐ様子もない。
「準備はできてる?」
「私は大丈夫」
「こちらも問題ありません」
返事を聞いたルイスが飛び出して森の中を突き進む。ティーブが続いて、私が最後を走るいつもの隊形。行く手を何体かのゴブリンが阻むけど、ルイスの鏡の盾と私の弓だけで蹴散らせる程度の数。
本当に気付いていなかったみたいで、完全に不意を突くことが出来た。戸惑って足を止めているゴブリンをティーブの剣が切り伏せていく。そのままロバート様のところまで辿り着けた。ここまでは特に問題はなかったけど、予想通り囲まれちゃっている。
「ロバート様!起きれますか」
「う、う~ん」
弱ってはいるけれど、まだ生きている。手足が微かに震えていて、なんだか肌が冷たく乾燥していて青白い。でもまだ大丈夫なはず。
「これを飲んで」
「あ、ああ」
とりあえず水を飲んでもらって、食べ物は後回し。ゆっくり食べてもらう時間はないし、それに柔らかいものを用意しないとお腹にも良くなさそう。2人はゴブリンを食い止めてくれているけれど、早く準備した方がいい。
「掴まってください」
「う~」
返事がかなり怪しい感じだけど、なんとか掴まってもらって抱きかかえる。
「こっちは大丈夫」
「わかった」
ルイスはさっきまでと比べてかなりゆっくりと進んでいく。人を抱きかかえたまま足場の悪い森の中を進むのは思ったより大変で、なんとか後ろを付いていく。
「わ~。ファニーちゃんが王子をお姫様抱っこしてる〜。おっもしろ~い」
「ちょ、それを言わないで」
本当にア~ちゃんは考えないようにしていたことをハッキリ言うんだから。最初は肩に担いでいこうと思ったんだけど弓が邪魔だからできない。担ごうとすると弓を持たないといけないんだけど、それだと片手で固定しないといけなくて安定しない。
なんだか恥ずかしいし言わないで欲しかったのに、なんで言っちゃうんだろう。それにロバート様は思った以上に弱っているみたいで、しっかり掴まってくれない。その分進むのが遅くなっちゃうし、ゴブリンもどんどん集まってくる。
「ファニー、行けるか」
「だ、大丈夫」
運びにくいけど、なんとかならなくもない。早くしないと完全に囲まれてしまうし、今のところルイスもティーブも問題なくゴブリンを処理してくれているけれど、数が増えるほどに難しくなっちゃう。頭の上のア~ちゃんは全然手伝ってくれないし、一歩ずつ歩くしかない。
離脱、というより隠れるように森の中を進んでいく。見通しの悪い森の中、来るときはかなり急いでいたし目に映るゴブリンはほとんど射抜いていた。だからなのかな。考えていたよりもゴブリンの集まりが悪いし、山頂の村の時と違って統率も取れていないみたい。
物音をなるべくたてないようにしながら進み、ある程度進んだところでロバート様を運ぶ係をティーブに代わってもらう。私は身軽になったし、それにティーブの方が力がある。全員で駆け足になり、野営予定地まで逃げ切ることができた。




