第35話-発見-
急いで準備を整えていく。近くにある広くはない森って言っても、森は森。それなりに長くかかりそうだから、本来であれば野営とか食料とかの準備に時間がかかるところ。
でもその辺は代表さんたちが全部進めてくれるから、私達は武器とか自分の身の回りだけ整えればいい。おかげで出発までの時間をすごく短くできた。全ての準備が整って街の門へと向かう。もう準備は終わっていて、代表さんが遠征の目的についてと私達の紹介をしてくれるところだった。
一緒に来てくれる人達の表情を見ていると、なんだか面白いって思っちゃった。はじめに妖精に転移させられたロバート様を救出するのが目的と聞いて笑いを必死にこらえていて、次に黒の賢者のルイスが同行するって聞いて驚いて、ガーダンのティーブのことを聞いてどこか安心したような表情になった。
それで最後は私の紹介になったんだけど、代表さんは一呼吸おいてから、ツイグ王国の王族の唯一の生き残りで、ロバート様の婚約者(仮)で、ガーダン用の弓を扱えて、妖精に気に入られているって一気に説明してくれたけど、みんな困った表情になっちゃっている。
私のことだけ情報が多すぎるよね。どこから反応すればいいのか困っちゃうのはよくわかるよ。それでも代表さんが集めた人達は切り替えが早くって、到着までの行程を簡単に説明してくれる。
そして最後に、代表さんに呼ばれてリーダーさんを紹介される。その手には私の手紙。これ見よがしに持っていて、要するにこのリーダーさんは事情を知っているというアピール。だからなんなのって思っちゃうけど、今はまだ深く考えない方がいいんだろうな。
挨拶も終わって、目的の森へと出発する。馬車がいくつも連なって街道を一気に駆け抜ける。森の入口まで順調に進み、開けた場所に大きめのテントが張られた。リーダーさんによると、ここを起点にして範囲を広げながら探していくみたい。
言うのは簡単なんだけど、森は思ったよりもずっと広い。それに一応ゴブリンも警戒しなきゃいけないから思うように探し回れないし、転移魔法で飛ばされたから普通ならあるはずの痕跡みたいなものがないのもはかどらない理由になっちゃっている。
気づけば、ロバート様が飛ばされて丸1日が経ってしまった。
「ねぇティーブ。あの人って、いつまでに見つけられれば大丈夫かな?」
「申し訳ありません。わかりかねます」
夜になってしまって、今は野営地での夕食時間。リーダーさんは一緒に来てくれた人達に明日の予定を説明するために離れていて、ルイスとティーブは一緒に食事、ア~ちゃんは私の頭の上で横になっている。生きている間に見つけられないと意味ないし、だから聞いてみたんだけど、やっぱりわからないか。
「ファニー、その言い方だと答えられないだろうね」
「う~ん。じゃぁティーブ、ロバート様って食べ物も飲み物も持たないでこの森に来ちゃってるんだけど、何日くらいなら生きていられると思う?」
「はい。確証はありませんが、水も食料もお持ちでなかったので、3日程度かと」
ルイスの言いたいことはわかるし、聞き方に工夫が必要だっていうのも、どんな聞き方をすればいいのかもわからないわけじゃない。でも、こんな聞き方は好きじゃない。ちゃんと友達どうしで聞きたいのに、それができない。
ティーブは、本当はどんな風に思っているんだろう。
これがガーダンの呪いのせいなんだとしたら、やっぱり私は、全部終わった後にルイスと一緒に世界樹の下に行きたい。それでやっと、ティーブの気持ちを知ることができるんだから。
「あんなの放っておけばいいのに~」
「ア~ちゃん?そういうわけにはいかないの」
「ぶ~。ファニーちゃんだって、あいつ嫌いなんでしょ?」
「んっとね?」
好きとか嫌いとか、そういう問題じゃないんだけど、ア~ちゃんに話してもわかってもらえなさそう。そもそも人間の国の、それもドロドロした話なんて妖精には関係ないし、私だって本当はこんな面倒なことやりたくない。だけどそういうわけにもいかない。
「まぁ、こういうところが妖精の困ったところなんだよね」
「なによ~、黒の賢者のくせに。そもそもアンタが悪い虫を追い払わないからいけないんじゃない。ファニーちゃんをいじめないで」
「そういうところを言っているんだけどな」
頭の上のア~ちゃんを手の平で包む。もう全然抵抗しなくなったのがなんだか嬉しい。正直なことを言うと私も気持ちは同じなんだけど、それでも好き勝手出来ないのが人間。そう考えると妖精って羨ましいな。
ア~ちゃんが眠ってしまった頃にリーダーさんがやってきて、明日の予定を話してくれる。今日までとほとんど同じ内容だったけど、3日というティーブの言葉が頭をよぎる。ちゃんと計算はしてくれているみたいで、それまでには隅々まで探しきれるようにしてくれているみたいだけどギリギリなのがどうしても気になった。
「ねぇ。それだとギリギリになっちゃうかもしれないけど、大丈夫なの?」
「ええ。一般的に3日は問題ないはずですので」
「あの人が普通の人と同じくらい生き残れると思う?」
ものすごく失礼な言い方な気もするけれど、どうしても3日なんて余裕があるとは思えない。でもリーダーさんは困っちゃってるみたい。
「おっしゃることはわかります。ですが急ぎすぎると二重遭難の危険もあります。これが限界なんです。人数を増やせば良いというものでもないですし」
「それはわかるよ。人数を増やしても森の奥まで行けるわけじゃないから。だから私たちだけで奥まで入ろうと思うの」
リーダーさんの表情が険しくなる。私達だけなら拠点のここに戻らなくても奥へと入って行ける。体力の問題とかじゃなくて、ゴブリンに対応できるかどうかの問題。私達だけならゴブリンに囲まれたとしても突破できるけど、リーダーさん達も一緒だと難しい。
山頂の村の時はちょっと失敗しちゃったけれど、あの時とは違って拠点に全力で逃げれば良いし崖もない。私達が一番奥を担当すれば、手前を手早く確認してもらえる。今日よりももっと効率的に探せるはず。
「ルイスとティーブも問題ないよね」
「まぁ俺は大丈夫だよ」
「反対はないです」
2人とも大丈夫そうだし、これから準備すれば明日から行けそう。それでもリーダーの表情は曇ったまま。
「し、しかし」
「ダメ?他の人達の負担は減ると思うんだけど」
「ファニー様には正直に話すように言われてますので話すのですが、代表からはロバート様よりファニー様の安全を優先するように申しつかっています。差し出がましいようですが、ルイス様とガーダンだけで奥を確認していただき、ファニー様は我々と共にというわけにはいかないでしょうか?」
そ、そんなことを言われてたんだ。なんでもいいんだけど、自分の国の王子より私を優先するのって大丈夫なのかな。多分、今の指示はリーダーさんしか聞いていないんだろうな。
「それはやめましょ」
「申し訳ありませんが理由を聞いてもよろしいでしょうか。戻ったあとに代表へ報告しなければなりませんので」
「私から妖精が離れることがないからです。なにかあってもルイスだけは魔法で対応できますが、私には無理です。なのでルイスから離れたくないです」
リーダーさんは私の手の中で寝ているア~ちゃんに視線を向ける。悪者みたいに言っちゃったけど、こうなった原因なんだし許してくれるよね。それにしてもあの代表さんに報告しないといけないなんて、リーダーさんも大変なんだな。
「承知しましたが、無理はしないようにお願いします。ルートはこちらで指定させてもらっていいでしょうか?野営に適した場所もいくつかありますので」
「わかった。ありがとう」
次の日。リーダーさんが考えてくれたルートを通って森の奥へと進んでいく。手前を細かく確認する必要はないから、とにかく急いで行く。森を抜けて、昼休憩をして、そして今晩の野営予定地を目指す。
ロバート様を見逃さないように注意して進んでいき、そして日が傾きだしてしまった頃。ゴブリン達が集まっているのを見つけた。胸騒ぎがして森を駆け抜けると、そこにはゴブリンに囲まれて倒れている人影があった。




