第32話-妖精の暴走-
テーブルの上には次々と料理が運ばれてくる。美味しそうなんだけど、こんなに食べきれるのかな。ティーブは後ろに立ったままで何も言わないし食べようともしない。でもきっと、これが自然な姿。納得はできないけれど、そのままでいてもらうしかない。
「まぁま、遠慮せずに。ツイグ王国のことは聞かせてもらったよ」
「は、はい。それで」
「あぁ待て待て。ファニーが助けを求めて来ていることも聞いているよ。問題ない。あとは任せてくれ」
「え、えっと」
今更だけど、なんで呼び捨てなんだろう。ロバート様の中では私と結婚することが決まっているっていうこと?だとしても順番が違うような。だってもうツイグ王国は無くなってしまっているんだし、だから婚約のこともうやむやになっていて、先にするべきなのはその話のはず。
ダメだ。どんどん悪い方ばかり考えちゃう。でも、任せてくれってどこまで言っているんだろう。
「あの、どこまでお任せしていいのですか?」
「ん?どこまでって、全部任せてもらって問題ないぞ?」
「そ、それは」
なに、これ?協力してくれるかもしれないって期待はしていたけれど、全部ってどういうこと?だって助けて欲しいっていうのは私がお願いするべきことだよね。もうツイグ王国は無くなってしまったかもしれないけれど、誰かが代表としてお願いするべきだし、それが私だと思っていた。
「お気遣いいただきありがとうございます。大変ありがたい申し出なのですが、私がツイグ王国を代表して話すべきことだと考えています。ですので全てお任せするというのは申し訳ないといいますか」
「そうなのか?別に問題ないんじゃないか?」
「えっ、いえ、しかし」
なんでこんなに話がかみ合わないんだろう。まるで私が助けを求めたりしちゃいけないみたい。でもその理由がわからない。もしかして、滅びてしまったツイグ王国を助ける余裕はないってことなのかな。もしそうならハッキリ言ってほしい。
色んなことが頭をよぎって、食事どころじゃない。なのにロバート様は全然気にならないようで、上品に食べ物を口に運んでいる。
「そんなに難しい顔しなくってもさ。心配いらないって、俺がなんとかするから」
「え、えっと」
「いいからいいから。こういうのはね、男の仕事なんだよ。ファニーは俺の屋敷でゆっくり待っていればいい」
この人は、なにを言っているんだろう?隣に座っている代表さんに目を向けても、特に何も言ってくれないし考えていることがわからない。
男の仕事って、どういうこと?
もしツイグ王国を国として認めないんだとしたら、これ以上私に何もさせたくないのはわかる。だって国の代表とか、そんなもの自体を認めないってことだから。でもそれなら、私はもう婚約者でもなんでもない。まるで結婚が決まっているみたいな態度を取らないで欲しい。
それとも夫婦として私の願いを聞いてくれているつもりなのかな。だとしたら、なんで私のことを知ってくれようとしないんだろう。
「どうした?食べないのか?」
食事の手が完全に止まる。本当なら誘われてなにも食べないなんて失礼なことをするべきじゃない。それがわかっているはずなのに、どうしても食べ物に手を伸ばすことができない。
「ん?どうしたんだ?」
「はい。ファニー様は武器をお求めになられていました。おそらくゴブリンと戦うおつもりだったのかと」
「なんだと!?」
だから、その反応はなに?私はゴブリンと戦おうと思っている。それだけじゃない。ゴブリンとの戦いが終わったら、世界中を旅しながら魔物と戦って、それで最後は世界樹の下へ行って、それで世界の呪いを解いていきたい。
ティーブのガーダンの呪いを解いて、ルイスの賢者の呪いを解いて、まだ呪いって決まったわけじゃないけれど魔物が増え続けていることを止める。
最初は2人と一緒に戦うことができるのか不安だった。でもここまでの旅の中で、失敗もしちゃったけれど肩を並べて戦えたと思う。それに私は、普通の人は扱えないガーダン用の弓も使えるってわかったから、上手く戦えれば足手まといにはならないはず。
それが、いけないことなの?
「ファニー。君はもう戦わなくてもいいんだよ。そういうのは男の仕事って言っただろ?だからそんな服じゃなくってさ、もっと綺麗な服を用意してあげるよ。なんだか田舎娘っぽいけど、ちゃんと着飾れば良い感じになると思うんだよね」
「結構です」
思わず立ち上がってしまう。この人が言いたいことはよくわかった。私がなにを考えているのかなんて関係ないんだ。これじゃまるでお人形みたい。私が今までどれだけ悩んできたのかも知らないで、とても、とても失礼な人。
「申し訳ありませんが、これはツイグ王国のことですので全てをお任せするわけにはいきません。一刻を争うことなんです。王都へ急がさせていただきます」
こんなこと言わない方がツイグ王国のためになるのかもしれない。でもダメ。この人を頼る気持ちになれない。それにこの人に任せて上手くいく保証なんてないし、着飾ればなんて、私にそんな余裕があるわけないじゃない。
「おいおい。なぁ、ファニーはなんで怒っているんだ?」
「いえ、申し訳ありませんが私にはわかりません」
この婚約者だった人は本当にわかっていないみたい。でも代表さんは白々しい。きっとわかっているのに誤魔化している。
それでも代表さんの方がマシ。代表さんは打算的なだけで、他人がなにを考えているのかは想像できる人。でもこの婚約者だった人はダメ。他人の想いなんて想像するつもりが全然ない。ただただ自分の考えを押し付けようとしてくる。
「ふ~ん。まぁ座りなよ。ずっと賢者とガーダンと、ついでに妖精と一緒にいたみたいだからね。落ち着いて考えれば、自分の幸せがなんなのかわかるはずだよ」
「ルイスとティーブは関係ないじゃないですか。それにア~ちゃんのことついでとか言わないで下さい」
「ルイス?呼び捨てか。ずいぶんと親しげじゃないか」
「ぇえ?」
なんなの、この人?親しげって、それなら初対面でいきなり呼び捨てにしてくるのはどうなの?
「ねぇねぇ、ファニーちゃん。こいつが婚約者なの?」
「えっ?ア~ちゃん、どうしたの?いきなり」
「その通り」
「いえ、待って下さい。もうツイグ王国は無いんですよ?婚約なんて無効です」
言ってしまった。婚約者だった人は目を見開いているし、代表さんも眉間に皺を寄せている。でも後悔はない。だってこんな人と一緒になってしまったら、どんな生活になってしまうのかわかったものじゃない。
「ファニーは混乱しているようだね。落ち着いて考えた方がいい。婚約の無効?わざわざ自分から幸せを手放すつもりなのか?」
きっと、この人にはなにを言っても無駄なんだろうな。幸せって、そんなの私が決めることなのに、どうして他人に決められないといけないんだろう。
ちょっと頭に血が上りすぎちゃっていた。だから、いつも頭の上に乗っている妖精がいないことをなんとも思わなかった。浮かんでいる小さな体は、ちゃんと見えていたはずなのに。空に浮かぶランタンみたいな光が、魔法を放つ前触れだって気づけたはずなのに。
「え?」
ア~ちゃん、なにをするつもりなの?止めないと。手を伸ばす、けど届かない。時間って、こんなにゆっくり流れるものだっけ?
「あなたはふさわしくない。消えちゃえ!!」
「ダッ、ダメ!」
部屋が光に満たされてなにも見えなくなった。やっと光が収まり目を開けると、そこに婚約者だった人の姿はない。
本当に突然の出来事で、なにも出来なかった。頭の中が真っ白になってしまって、しばらく呆然と立ち尽くしてしまった。




