第31話-婚約者ロバート-
次の日の朝。早速ヴィンダーさんの工房に行って謝ってから、また弓の練習ができないかと思っていた。でもそんな考えは、早朝の来訪者によって台無しになってしまう。
「おはようございます。ファニー様、朝早くから申し訳ありません」
「いえ、ご用件はやはりロバート様のことでしょうか?」
「はい。その通りでございます。ご昼食を一緒にいかがでしょうか?」
代表さんが来たからもしかしてと思ったけど、やっぱり婚約者のロバート様のことだったか。これじゃ午前中に工房に行くのは無理そうだな。そのつもりで着替えちゃってたけれど、このままで大丈夫なのかな。
「あの、こんな恰好で大丈夫ですか?」
「ええ、正式な会談というわけでもございませんので問題はありません。気になるようでしたら着替えを手配いたしますが、いかがしましょうか?」
「んっと、それは」
この間の武器屋のこともあるし、もうコリゴリなんだよね。悪い人ではないと思うんだけど、ちゃっかりしている人だからな。それにどうしても好かれたいってわけじゃないし、いつもの恰好で嫌われちゃっても別に良い。気になったのは失礼じゃないかってことだけだから。
「すみません。そこまでお世話になるわけにもいきませんし、問題なければこのままでお願いします」
「左様でございますか?では場所につきましてはガーダンに伝えておきますので、時間になりましたらお越しください」
要件を伝え終わった代表さんが宿から出ていくのを見送った。部屋に戻るとみんな集まってくれている。
「俺は、留守番していた方がいいだろうね」
「そ、そうだね。ルイスには待っていてもらおうかな」
婚約者のロバート様とのことは、私の問題。だからルイスが同席するのはおかしいし、私だけで行くべきこと。だけど、なんだか胸がポッカリ空いた気持ち。
「とりゃゃゃゃゃゃゃゃ」
「あ、ちょっと。ア~ちゃん!」
「イテ」
突然飛び出した妖精を止めることができない。そのままルイスの顔面に激突してしまう。軽く小突く程度だったが少しだけ後ろに仰け反っている。
「ダ、ダメじゃない」
「ふ~んだ。この鈍感が悪いのよ」
「な、なんのことだ?」
ちょ、ちょっとそれは。言わないでってあれほどお願いしたのに。そんな言い方したら、まるで私が、私が。
「ん~?」
「あー!なんでもない。なんでもないから。それじゃ行ってくるから、待っててね」
「そ、そうか?まだ早いような、イテ」
「バ~カ、バ~カ」
「ちょ、ア~ちゃん、もうやめて。じゃ、じゃぁまたね」
本当に余計なことをするんだから。このままロバート様の所に連れて行って大丈夫なのかな?う~ん、でもルイスと一緒の方が心配だし、このまま連れて行ってしまおう。
「ティーブ。道案内して」
「かしこまりました」
早すぎるのはその通りなんだけど、ちょっと寄り道していってもいいかな。怒りたいのは私の方なのに、ア~ちゃんは頬っぺた膨らませて怒っちゃってる。もう1回ちゃんとお願いし直したほうがいいかも。
そういえば、この街をまだちゃんと歩けていなかったな。時間はたっぷりあるし、たまにはティーブと昔みたいに2人で歩くのも悪くないかな。今はア~ちゃんもいるけれど、それでも懐かしい。
妖精を連れているとバレちゃうと大変だから、ア~ちゃんに勝手に出てこないように何とかお願いする。そして色んなお店を回って、あっという間に時間が過ぎていく。気付くと約束の時間。それから待ち合わせのお店に行くまでの道のりは、今日起きてから一番長い。
◇
「おっ、やっと来たか。君がファニーだね。俺がロバートだ。よろしくな」
「本日はご足労いただきありがとうございます。お会いできるのを楽しみにしておりました」
たしか、私より3つ年上で20歳だったはず。リーフ王国の王族に特徴的な緑色の目に茶髪。綺麗に整えられた服からは育ちの良さを感じるし、嫌な感じはしないはず。しないはずなのに、何故だか素直に喜べない。
「さぁさ、座って座って、って、げっ」
「えっ、なにか変ですか?」
代表さんには問題ないって言われたはずなんだけど、その本人も驚いた顔をしている。2人の視線は私の頭の上に向けられている。街の中では出てこないようにお願いしていたのに、いつの間にか出てきちゃっていたみたい。
「あっ、この子はちょっと、最近出会ったというか。ほら、挨拶して」
「こんちゃ~」
「そ、そうじゃなくて。す、すみません」
ア~ちゃんは元気一杯に手を上げながら挨拶してくれたけれど、そんな友達みたいに言っちゃダメだよ。と思っちゃったけど、それならちゃんと言っておかなきゃいけなかったのに、どうして私はそうしなかったんだろう。
「ま、まさか妖精を手懐けたのか。流石は我が嫁だ」
「あ、あはは」
追い返されたりしなかったのは良かったんだけど、我が嫁ってどういうことなんだろう。婚約はしていたから間違いじゃない。だけどどうしても、胸に何かがつかえているみたい。そんな気持ちのまま席に座った。




