第30話-的あて-
「おう、待たせたか」
「もう出来たんですか?」
「あたぼうよ。んなことより本当に使えるのか?」
思ったより完成が早かった。ヴィンダーさんが持ってきたのは装飾が全くないシンプルな弓と剣。代表さんに紹介された店とは大違い、こういうのでいいのに。
「試してみていいですか?」
「いいけどよ、気ぃ付けろよ」
新しい弓を握る。前のものとは手触りが全然違うけど、慣れれば問題なさそう。なんだかヴェンダーさんはオロオロしている。心配しなくても大丈夫なのに、まぁいっか。
いつものように構えて弦を引き絞る。前に使っていた弓と同じ、いい手ごたえ。きっとティーブが教えてくれた強さ通りに作ってくれたんだと思う。ゆっくりと弦を戻して、息を整える。やっぱりこれくらい強くないと、次は試し打ちしたい。
「これ、すごく良いです」
「マ~ジで使えるんか。どうなってるんだ?」
「ファニーちゃん、すご~い」
ヴィンダーさん、気持ちはわかるけどア~ちゃんを睨まないでね。ちょっと怖いから。でも本当に良い弓。ずっと軽いものばかり使っていたから、引き絞るだけで気持ちいい。
「矢はとりあえずこんなもんでいいだろ。まだあるが、とりあえず試してみるか?」
「ありがとうございます」
「嬢ちゃんも好きだねぇ」
受け取った矢は前に使っていたものより良いものみたい。矢羽根が綺麗だし、矢じりもしっかりしている。
案内されたのは工房の裏手にある試射場。壁に囲まれている場所で、的はいくつか並んでいるだけだけど、それだけで十分。地面にはいくつか線が引かれていて、的から一番遠い線の上に立つ。
久しぶりのしっかりと弦を引き絞る感覚。噛みしめるように引ききったまま止めて狙いを定め放つ。外れちゃった。上を通って行っちゃったけど、前より飛びが良いみたい。
1射目を外してしまったけれど、気にしない気にしない。最初だから感覚が違うのは当たり前だし、練習しないと当たらないのは当然だから。それから受け取った矢を次々に放つ。全て射尽くす頃にはほとんどが的の中央に命中するようになっている。良い弓だな、これなら満足。
「ヴィンダーさん。本当に良い弓ですね。街にいる間は練習に来ても良いですか?」
あれ?反応がない。どうかしたのかな。またア~ちゃんが変なことしているのかなって疑っちゃったけど、ルイスがしっかりと捕まえてくれている。
「ヴィ、ヴィンダーさん?」
「あ、おう。わりぃわりぃ。ここまでやるとは思わなかったんでな」
「えっ、そんな。ルイスとティーブの方が強いですよ?」
「待て待て待て。あのなぁ魔法を使える賢者とかガーダンと張り合うつもりなんか?」
「はい」
そう、私はルイスとティーブの隣で一緒に戦いたい。正直今までは足手まといなんじゃないかなって思っていたけど、ちょっとは自信を持っても良いのかな。
「ねぇ、ルイス、ティーブ。どうだった?」
「どうって、相変わらず良い腕だなって」
「変わらぬ腕前です」
「そっか、そうなんだね」
なんだか、今日はいつもより空が晴れやかだな。もうちょっと練習しても良いかも。まだちょっと感覚が戻っていないし、いつ戦いになるのかわからないからね。
「ヴィンダーさん。矢をもう少し貸してもらえませんか?」
「いや、まぁいいけどよ。あんま無理すんなよ」
「んあぁあ〜。私がわたすの〜」
ルイスの手から逃れるようにア~ちゃんが暴れている。手足をバタつかせてヴィンダーさんが持つ矢筒を目指している。あからさまに嫌な顔をしているけれど、それくらいならやってもらって良いんじゃないかな。
「ヴィンダーさん。それくらいなら」
「本当に大丈夫だろうなぁ。嫌な予感しかしねぇんだが」
「そ、そんなぁ。矢を運ぶだけですよ?」
色々あったみたいだけど、それだけで何かが起きるとは思えない。矢を壊されたり、どっかに転移させられてもあんまり困らないし、やりたがっているし良いんじゃないかな。
「やった〜。よこしなさい。わ〜いわ〜い。ファニーちゃ〜ん」
「う〜ん。ヴィンダーさんにそんな言い方しちゃダメでしょ」
「む〜。だって〜」
なんでそんなにヴィンダーさんのことを嫌っているんだろう。別にイジメていたとかそういうんじゃないみたいだし、むしろア~ちゃんからイタズラしに行っているみたい。
「嬢ちゃん。妖精とドワーフっていうのは昔から相性が悪いんだよ。なんでだかは知らんがな」
「そ、そうなんですね。あっ矢、ありがとうございます」
「良いって良いって。好きにしな」
う〜ん、相性とかあるんだね。次に来るときは何としてもア~ちゃんは留守番させた方が良いだろうな。後でルイスに相談しないと。でも今は、それより練習をしたい。受け取った矢を番え、また弦を引き絞る。まだまだいけそうだけど、今日はあと数本だけにしようかな。
「ねぇねぇ、ファニーちゃん」
「ん、なに?ゴメンね、ちょっと集中したいの」
「手伝ってい〜い?」
手伝うって、なにを?よくわからないけど、手伝いたいって言うなら別に良いのかな。
「じゃぁお願い」
「わ〜い。まっかせてね〜」
なんだろう。矢じりが赤く光っている気がする。なんだか暖かい。いつも通り狙いを定め、いつも通りに矢を放ち、いつも通りに的の中心に命中する。そこまではいつも通り、そこからはいつもでは考えられない。
ドーーーーーン。
的に命中した矢は、爆音を発しながら燃え上がる。的だけでなく周囲の壁も爆風が包み込む。一面が焼け、熱がここまで達する。黒煙が立ち昇り、地面には小さなくぼみができてしまっている。
「なにやってんだ!!だから嫌な予感がするっつったんだ!!」
「ご、ごめんなさい」
「へへ〜ん。どうよ」
ど、ど、どうしよう。試射場が見るも無惨な姿に。というかこれって、私のせいってことになるのかな。いやでも、こんなことになるなんてわからないし。
「ア~ちゃん、なんてことを」
「ん〜。ファニーちゃんのお手伝いするの〜。でも、もう無理、動けない」
いつの間にか頭の上で寝ているし、片手で掴んだら手の中でグッタリしているし、こんなことするなんてなんで言ってくれなかったのよ。あっダメだ、ヴィンダーさんは完全に怒っちゃっている。
「ったくも〜。どうすんだよコレ」
「本当にごめんなさい。こんなことになるなんて思わなくって」
「ファニーちゃんをイジメちゃメ」
「ちょ、ちょっと大人しくしててね」
今ア~ちゃんに話されるとコジれちゃう。それよりどうするのか決めないといけないのに。ルイスがゆっくり歩いてくるけど、なんでそんなに落ち着いていられるのよ。
「えっと、いいかな?これくらいなら魔法で直せるから、まぁここは俺に任せてもらって。ファニー達は先に宿に戻ったら?」
「あんちゃんマジか。こ、こいつを直せるんか?」
直すってコレを?的は小さいからなんとかなるかもしれないけれど、壁は吹き飛んじゃっているし、そんなことできるんだ。
「あっ、でもルイスだけに任せるのはちょっと」
「ん〜でも、その子を残しておくほうがねぇ」
「な、なによ〜。黒の賢者のくせに〜」
「う、う〜ん。そうだね、じゃぁルイスにお願いしちゃおうかな」
私も残らないととは思うけど、このままア~ちゃんがいる方が良くないかも。ヴィンダーさんには明日ちゃんと謝らないと。
「ヴィンダーさん、ごめんなさい。明日また来ます。あっ私だけで」
「おう、そうしてくれや。嬢ちゃんだけなら歓迎だ。嬢ちゃんだけならな」
「は、はい」
これは、もう2度とア~ちゃんは連れてこられないな。ティーブには、う〜んでも直すのはルイスに任せて良さそうだし一緒に来てもらおうかな。
そして宿に戻り、ルイスが帰ってきたのはちょうど夕食時。元に戻すことが出来たみたいで一安心。明日はちゃんと謝りに行かないと。そんなことを考えながら床についた。




