第22話-次の街で-
「やっと着いたぁ」
山頂の村を出発し、街道へ出て、ひたすら歩いた。到着したのは塀に囲まれた大きめの街。ちょっとだけ遠回りすることになっちゃったけど、仕方ないこと。
関所ほどじゃないけれど、それでも高めの塀がぐるりと街を囲っている。今は中に入るための手続きをしているところ、村長さんが便宜を図ってくれたおかげで簡単に入ることが出来るはず。
門の前には重々しい空気が漂っている。会話が少なく、場を支配しているのは金属がぶつかり合う音。みんな綺麗な恰好をしているけれど、うつむいていて元気がない。
「大丈夫かな?」
「まぁ、隣の国がゴブリンに滅ぼされたわけだからね。気が気じゃないんでしょ?」
「そっか。うん、そうだよね」
私の国は、もうない。まだ人は住んでいるけれど、国としてはもう機能していないし、少なくとも王都の人々は誰も生き残っていない。
この街も王都と同じことになってしまうかもしれない。そう考えると、こんな雰囲気になってしまっているのは当然。もしかしたら、ゴブリンに囲まれてしまう前の王都もこんな雰囲気だったのかな。
手続きが終わって街の中に案内される。放っておかれるって思ってたんだけど、街の代表の人に会って話したいって言われちゃった。一応は元王女。挨拶くらいはしておかないと良くないって考えたのかな。
「ようこそいらっしゃいました。ささっ、こちらへ。何もないところですが」
代表の人が待っていたのは、大きい役所の中の執務室。最低限の調度品だけが並んでいて、仕事をするための場所って印象。2人分の椅子が並んでいて、当然のようにティーブの分はない。なんだか嫌な気持ちだけど、しょうがない。ガーダンの扱いとしては正しいんだし、我慢しないと。
「お2方のご活躍は聞き及んでおります。お時間をいただき申し訳ありません」
「いえ、こちらこそありがとうございます。それで、どんな話ですか?」
「恐れ入ります。端的に申し上げますと、しばらく滞在していただけないでしょうか?実はファニー様の婚約者であらせられるロバート様がおられますので、お会いしていただければと」
えぇ、なんでこんなところに?婚約者のロバート様ってたしか王族だよね。末席だったっけ、だからなのかな。別に会うのは良いんだけど、しばらくっていつになるんだろう。早く助けをお願いしないといけないのに、この街じゃできないだろうな。
「ぜひ、お会いしたいです。ただ、ちょっと、申し訳ないんですけど先を急いでいまして」
「もちろん存じ上げております。我が国に援助を求めておられる件ですね。大変申し上げにくいのですが、私どももゴブリンを警戒しなければなりませんので、難しいかと存じます。しかし、ロバート様のご支援をいただければ可能性は上がるかと」
「あぁ、はぁ」
そんなこと言われても一度も会ったことないし、いきなりお願いしちゃっていいのかな。あと、どうして会いたいんだろう。そもそもまだ婚約してるのかな。もし結婚なんてシちゃったら、世界の麓に行く旅ができなくなっちゃう。だけどルイスとティーブともっと旅したいし、終わりたくない。
でも代表の人が言うことはその通りだと思う。ツイグ王国はもう滅びてしまった。助けを求める人達がいくら残っていたとしても、国ではない。私はただの元王女だから、今はみんな親切にしてくれているけれど、みんながそうとは限らない。特に偉くなるほど見返りを求めなきゃいけないのはよく知っている。自分がいらなかったとしても、周りがそれを欲しがるから。
「お考えはまとまらないようですね。ルイス様にもお尋ねしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「良いですよ」
「ありがとうございます。では、魔法を見せてもらえないでしょうか?」
「ん?」
代表の表情は変わらない。けれど目が値踏みするようなものに変わっている。王女である証を持っている私と違って、ルイスは賢者の証を持っているわけではない。魔法が使える。それこそが賢者としての証になる。
「構いませんが、では」
ルイスの片手が光り、何度も見た鏡の盾が出現する。代表はその盾に釘付けになっていて、目を見開きながら口を大きく開け、その口を隠すように手を当てている。
「まさか。本物を見る日が来るとは。であればあの報告は、あっ、いえ、申し訳ありません。あまりに現実離れした話だったものでして」
「ああ、そういうこと。真偽を確かめなければならないのは当然じゃないですか?別に気にしませんけど」
「ありがとうございます」
鏡の盾は消え、代表は襟を正している。ルイスのこと疑っていたんだ。なんだか失礼じゃないかな。そりゃ信じられないかもしれないけれど、関所とか山頂の村から戦いぶりは聞いているはず。
なんだか話に続きがありそうな予感。




