第18話-重傷-
「ルイスさん!!ルイス!!起きて、起きてって」
そ、そんな。私、私のせいだ。私がティーブにあんなこと言ったから。それだけじゃない。ガーダンのことをちゃんと理解しようとしなかったから、無理して一緒に戦おうとしちゃったか、あのゴブリンに集中しちゃったから、一緒に旅をして欲しいって言っちゃったから。
血だらけで倒れていて、それで、なかなか起き上がってくれない。息はしているけど、でも全身血だらけで、それに腕が。
「うっ、う~」
「あぁ、だ、大丈夫ですか」
よ、よかったぁ。じゃない。こんな怪我。早く治療しないと、でもどうすればいいの?村に戻らなきゃだけど、こんなに落ちちゃったら戻るのにどれだけかかるか。それにこの怪我、それまでもつのかな。
「ファニーは、怪我はない?」
「わ、私は大丈夫です。いや、それより、ルイスの方が大変なんだから」
「ははは。そうみたいだね」
笑ってる場合じゃないのに。だって、このままじゃ。それに、一番ひどいのは。
「あの、腕が」
「ん?まぁ盾を持っていたからね」
「そ、そういうことじゃ」
左腕が一番ひどい。だってこれ、どういう折れ方してるの?こんなのもう、治せないかも。骨折の応急処置は、ティーブに教わったことあるけど、こんなのどうすればいいかわかんない。
「あぁ、そんな顔しなくても大丈夫だよ」
「だ、大丈夫じゃないですよ。だって、だ、だってこんな」
「ん~、まぁ、賢者っていうのは特別だからね。少し休めばちゃんと治るって」
「ほ、本当ですか?」
ならいいのかな。いいわけないよね。治るっていうのが本当だったとしても、見ているだけで痛い。ゴブリンに刺されたことがあったけど、そんなのよりよっぽど痛い。
「さて」
「えっ?いや、いやいやいやいや、動いちゃダメですよ」
「なんで?」
「な、なんでって。ダメだって、ジッとしてなさい」
う、嘘でしょ。こんな怪我で動けるなんて。なんだか平然としているし。でもダメ、動かしちゃダメ。それに大怪我しすぎるとおかしくなっちゃうって聞いたことある。
「助けを、ティーブを呼んでくるんで、待ってなさい」
「待て待て」
「怪我人は黙ってて」
なんでこんなに元気なの?結構落ちちゃったけど、もうすぐ日の出だし、村までなら私だけでもなんとか行けるはず。
「そうじゃなくてだな」
「なんですか?」
「なんていうか、そんなことする必要ないっていうか。ティーブくんはガーダンだから、何も言わなくても主人のところに来てくれるはずだよ」
それは、でもそうかもしれない。困ったときはいつも私の傍にいてくれた。心配で横にいてくれたのか、それとも命令されていただけなのか、そんな風に考えていたけれどガーダンだからだったんだね。
「でも、本当に大丈夫なんですか?」
「平気だって。ほら、血も止まってるでしょ?」
えっ、嘘。本当に止まってる。あんなに酷い怪我だったのに。これも魔法なのかな。じゃないと説明できない。
「とはいえ、この腕は結構時間がかかりそうだけどね」
「ダ、ダメじゃないですか。無理しないで」
「わかったわかったって」
月が沈みそうで何も見えなくなっていく。ということは、もうすぐ太陽が昇るはず。ティーブも、あっそうだ。ゴブリンから逃げきれたかな。
「ティーブは、ちゃんと逃げられたかな?」
「ゴブリンからか?まぁ逃げるだけなら問題ないだろうね。それよりファニーの方が心配だよ」
「私、ですか?」
別に怪我はしていない。あの高さから落ちて奇跡みたい。あぁでも、寝たままのルイスにはわからないか。
「怪我はないですよ。ありがとう」
「いや、それもそうじゃなくてだな。なんで目を閉じたんだ?」
「え、っと。それは」
空に投げ出された時、目を閉じた。だってあの時は、もう無理だって思ったから。あんな高さから落ちたら助からない。ルイスの魔法があったから助かっただけ。
「ラウレリンも言っていたけど、ファニーは自分のやりたいことを見つけるべきだ。今はまだ、誰かのためで良いかもしれない。でもそのまま良くない」
「そう、かな」
「やりたいことを見つけられてすらいないのに死んでしまうなんて悲しいことだよ」
私のやりたいこと、って何なんだろう。ラウレリン様に言われたときも思い浮かばなかった。でもなんだろう。ほんの少しだけ胸が締め付けられそう。
「ラウレリン様のこと、信用しているんですね」
「信用?まぁドラゴンだからね。間違ったことは言わないさ」
「ふ〜ん」
なんでこんなこと聞いたんだろう。全然関係ないはずなのに、懐かしそうに話すルイスを見てるとムカムカする。昔から知り合いみたいだけど、何があったのかな。
「とにかくだ。もう諦めたりしないでくれ」
「あっ、はい。ごめん」
「よし。あいてててて」
「だ、だから動いちゃダメだってば」
やりたいこと、わかんない。だけど今したいことは、誰かの役に立つこと、ゴブリンを倒すこと、増え続ける魔物を止めること。
そして、ルイスと一緒に世界を旅すること。
月が沈み、太陽が昇る。世界樹の下から、アキシギルの大地が照らされる。ルイスの横に座って、ボーっと日の出を眺めていた。この広い大空を、飛んでいけそうな気がしていた。




