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第17話-朝焼けの空に落ちていく-

 行き先を見定めて2人に場所を伝える。ティーブが先頭を切り開いてくれる。残り少ない矢で援護するけれど、もう3本しか残っていない。細剣を失くしてしまったのが本当に手痛い。


 ティーブの剣も結構傷んでいるみたい。切れ味が悪くなっちゃてるみたいで、斬っているというより砕いている。ルイスさんの鏡の盾は魔法だからまだ戦えそうだけど、体力にどれだけ余裕があるのかはわからない。


 後ろから追撃してくるゴブリンが石を投げつけてくるけれど、ずっとそれを弾き返してくれている。でもタンクのルイスさんだけだと倒すことは難しいし、ジリ貧になってしまう。


 「ファニーさん。そろそろ良いんじゃない?」

 「そ、そうですね。ティーブ、お願い」


 立ち止まって身をかがめ、耳を澄ませる。今までのゴブリンの統率された動き。きっと指示を出している個体がいるはず。


 一斉に立ち止まり、いつもの隊形となって反転する。突然反転したルイスさんの鏡の盾にゴブリンは次々と突撃している。弾き返した石の威力も増して、先頭のゴブリンたちを大きく減らすことができた。


 怯んだところにティーブが突っ込んで行き、容赦なく切り伏せる。統率が取れなくなったゴブリン達は、四方に散っていくがティーブに剣がそれを許さない。


 どこ?どこにいるの?鏡の盾に突撃していたゴブリンが、いつのまにか投石に切り替えている。ティーブから逃げ惑うだけだったゴブリンが、いつのまにか徒党を組んで戦い始めている。そんな指示を出しているゴブリンがいるはず。


 いた。叫んでいるわけでもなく、静かに声を出しているゴブリン。ソイツが何かを言うたびに、戦い方が変わっていく。残り3本になってしまった矢の1本を番える。2人が守ってくれると信じて、深く集中して狙いを定める。


 当たった、けど浅い。急所を外してしまい、それでも動きは止まっている。矢をもう一本手に取りながら前に出る。ここで確実に仕留める。そのためには、もっと近づかなきゃ。


 どんどん前に進んで、ゴブリンの息遣いまで感じる。その喉を狙いすまし、立ち止まり、弓を引き絞り、矢を放つ。ゴブリンに向かって真っすぐに弧を描き、聞こえてきたのは血しぶきが上がる音と、苦悶の声をあげながら倒れる音と、その周りで上がる怒りの声。


 上手くいった、でも前に出過ぎている。ルイスさんの盾の後ろの、ティーブの剣のもっと後ろにいなくちゃいけないのに、一番前に出てしまっている。


 「左だ!!」


 最後の矢を構えようとして、でももう遅い。頭に衝撃、


 気がついたとき、両足を引っ張られて引きずられていた。2体のゴブリンに掴まれて逃れられない。引きずられて引きずられて引きずられて、地面を擦られて傷がドンドン増えていく。


 何とか身を起こして、最後の矢をゴブリンの足に突き立てる。苦悶の声を上げてはいるが、それでも放してくれない。逆に棍棒で殴打され、


 再び気が付いたとき、体は宙を舞っていた。あの小さな体のどこにこんな力があるんだろう。


 「ファニー!!手を上げて!!」


 聞いたこと無いくらい焦っているルイスさんの声。とっさに手を上げる。その手が手が強く引っ張られ、そのまま振り回されて、背中が固い地面に激突する。


 「がっ」


 なっ、これは、なに?な、なんで?この手は、ティーブの。でもどうして。投げ飛ばされて、それで、手を上げろって。それで、地面が、どうして。


 「ファニー落ち着いて。ちゃんと手を掴んで」


 ルイスさん?でも、私、べつに。変なの。手を離したって。あれ?なんでだろう。お月様の前に、森が広がってる。う~ん。そういえば、声がずっと上からしか聞こえてこない気がする。私の上の、背中の後ろ。地面の後ろから声が聞こえる。


 「あっ」


 背中のコレ、地面じゃない。地面じゃないし私は仰向けに寝そべっているんじゃなくて、ここは崖。山頂の村に来る前に、落ちたら助からないと思った崖から落ちそうになっている。


 「ティ、ティーブ」

 「はい」


 苦しそうな声。ずっと戦って疲弊している声。私を掴む手は小刻みに震えていて、辛そう。月明りに照らされているのは、終わりの見えない崖。


 「ティーブ、離して!!」

 「はい。かしこまりました」


 あっさりと手を離されて、空に放り出される。思わず手を伸ばすけれど届くことはない。遠く下の地面へと体が吸い込まれていく。


 伸ばした手の先に見えるのは、いつもの無表情なティーブと、目を見開いているルイスさん。離してという言葉は私の本心なんだと自分に言い聞かせる。決して、とっさに言ってしまった言葉ではないと言い聞かせる。そして伸ばした手を引き寄せた。


 目の前に広がるのは夜明け前のアキシギルの空。ゆっくり見上げる時間さえなかった空。そんな綺麗な空へ身を捧げながら、私は目を閉じた。まぶたの裏に見えたのは、幼い日に殺された母の死体、従者として初めて出会ったティーブ、忌み子として扱われていた日々、燃える王城と死体の山、地下の扉の先に封印されていた賢者の姿。


 なんだろう。これで終わりなのかな。でも、これで良いんだよね。あのままじゃティーブも落ちちゃってたかもしれないし、私がいなくったってルイスさんなら魔物を倒してくれる。ティーブだって、新しい主人と仲良くすればいいだけ。だよね。


 「ファニー!!上を見ろ、手を上げろ。死ぬには早いだろ!!」


 上?でも、私はもう助からない。落ちて落ちて落ちて、地面に叩きつけられるだけ。山頂に来る前に見た高い崖から落ちたのだから、助かるわけがない。でもあれだけ高かったら苦しむことも無いだろうな。


 「だから、目を開けろって!!」


 なんでだろう。ルイスさんの声が大きくなっている。落ちて行って、離れて行っているはずなのに。


 「な、ダメですよ!!なに考えているの!!」


 そんな、だってこの高さじゃ助からないのに。ルイスさんまで飛び降りちゃって。どうして?そこまでしなくてもいいのに。ついこの間、出会ったばかりなのに。だって私は、まだ何も出来てなくて。これから何が出来るのかもわからなくて。だから私は、あの手を掴んでもいいのかな。人に助けてもらっていいのかな。


 わかんないよ。なにもわかんない。でも私は、差し伸べられた手がとても嬉しくて、両手をいっぱいに広げて、精一杯手を伸ばす。


 「ファニー。しっかり掴んで」

 「はい」


 空でルイスさんと手を取り合い、そして抱き寄せられる。見た目以上にしっかりとした腕の中。しっかりと支えられて、どうしたらいいのかわからなくって。


 「しっかり掴まって。離しちゃダメだよ」


 真っ逆さまに落ちながら、腰に腕を回してしがみつく。頭上が地面で、足下が空。足元が赤くなっていく。空が赤く染まっていく。太陽が昇って朝が来る。


 朝焼けの空に落ちていく。


 「いいか?地面に向かって盾を作る。上手くいけば衝撃を反射して生き残れる」

 「それって」

 「他に方法はない」


 ルイスが鏡の盾の魔法を発動させて、片手を離して、地面に向かって構えて、速度が増していく。最後の時が迫ってきて心臓が止まりそう。


 まるでドラゴンに踏みつぶされたのではないかというくらいの衝撃。気が付くと崖の下。特に怪我はない。でも、すぐ横には血だらけで倒れている黒の賢者。


挿絵(By みてみん)

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