第10話-惨状と、狩りと、そしてゴブリン-
城下街を出て街道沿いに真っすぐ隣国を目指す。ゴブリンが王都を襲うために通った道。無残に殺された人の死体、戦って死んだ人の死体、ゴブリンの死体。そこかしこに死体が転がっていて、歩いているのは私たちだけ。
狩りのために通ったことのある道は様変わりしていて、点在していた家屋はことごとく倒壊している。住んでいた人がどうなったのか、確認しなくてもわかってしまう。ついこの間まで何事もなく暮らしていたのに、熱いものが胸から込みあげてくるみたい。
「ヒドい」
「残酷なことを言うが、もう終わってしまったことだ。誰かを助けたいのなら急いだ方がいい」
「そうですね」
色んなことから目を背けて歩き続ける。しばらくして見えてきたのは、うっそうとした森。何度も狩りに来たことがある森。
「ほぅ。今はこうなっているんだ」
「どうしたんですか?」
「いや、まぁ。外の景色を見るのも久しぶりだからね」
そ、そっか。長い間地下に封印されていたんだもんね。今度はルイスさんの知らないことを私が教えてあげないと。
「ツイグもリーフも、似たようなもんですよ。こんな風に森とか自然がたくさんあって、違いって言ったら織物が得意なツイグと鍛造が得意なリーフってくらいですね」
昔見たお義姉ちゃんのドレス姿は綺麗だったな。織物が得意だからできたことって聞いたことがある。それに狩りができる森がたくさんあるのは良かった。獲物には困らないし、王都から持ち出せた食料は多くないから、現地調達できるのは良い。
「へ〜。国とか王族とかは昔と変わらないけど、様子は全然違うんだね」
「え、えっと」
「あぁ。王国っていうものは元々魔物と戦うための統治機構だったんだよ。いつの間にか変なことになっていたけど、まぁ今でも続いているっていうことは人にとって必要なものなんだろうね」
「は、はぁ」
これじゃ逆じゃない?私にも教えられることがあるって嬉しかったのに、ちょっと興味のある話だけれど、このままじゃただ甘えているだけになっちゃう。
その時、たまたま見つけたのは獲物にぴったりな手ごろな大きさの兎一羽。逃がすまいと静かに弓を取り出し矢を番えながら近づく。兎が何かを食べ始めるのを見計らって、一射。兎の後ろ足に命中した。
「よし。ルイスさん、ウサギは食べられますか?」
「えっ、うん。まぁ、食べれるけど」
「なら良かったです。さばくんで、ちょっと待ってて下さいね」
捕えた兎を短剣で解体する。いつもやっていることだけど、役立って嬉しいな。
「どうかしましたか?」
「い、いや。手際良いなって」
「そ、そうですか?」
褒められている、んだよね。なんだか違う意味もありそうなんだけど。そういえばティーブ以外の人に見せるのは初めてだけど、もしかしてやめといた方が良かったかな。
「あ、あの、これは。私、ちょっと変ですかね」
「え?あっ、すまない。珍しいなと思ってしまってね。本当にそれだけなんだ」
「なら、いいんですけど」
というか私、何を気にしているんだろう。今までなら周りからどう思われたって気にしなかったのに。やめとこ。まずはウサギをさばかなきゃ。
素早くさばき終えて、出来たのは美味しそうなウサギの肉。終わっちゃったけど、どうしよう。いつもだったら適当に焼いて食べちゃうんだけど。
「終わった?」
「あっ、あ、ああ。はい」
「へー、器用なんだね。じゃぁ今度は俺の番かな。それ使っていい?」
「あっ、はい」
ウサギの肉をルイスさんに手渡すと、あっという間に一口大に切ってしまう。もしかして、魔法を使ったのかな。その後は荷物から鍋を取り出して、街から持ってきた食材をいくつも入れながら煮込んでいく。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
なにこれ美味しい。城でも食べたことのない。口に運ぶ手が止まらない。あれ、もうなくなっちゃった。何気なく顔を上げると、ルイスさんが笑みを浮かべながら見ているのに気付く。
「え、えっと、私」
「いや、いい食べっぷりだと思ってね」
「え~」
ちょっと、なんか恥ずかしい。手元に残っているのは空になった器。一番早くに食べ終わっていた。しかもルイスさんとティーブはまだ半分以上残ってるみたいだし、夢中になりすぎちゃったかな。
「まぁ元気が出たみたいで良かったよ。塞ぎこみがちだったからね」
「そう、ですか?」
「突然こんなことになったわけだからね。でもタフなのは良いことだと思うよ?これから何が起こるのかわからないわけだしね。そろそろ出発しようか」
空になった器を手渡すと、荷物にしまわれていく。私って、そんな風に見えるんだ。外で狩りをするのは好きだから、つい夢中になっちゃったみたい。
「お待たせ」
「は、はい」
「ん?どうかした?」
「い、いえ。なんでもないです。行こ、ティーブ」
「かしこまりました」
あと3年しか生きられない私が生き延びて、狩りを楽しんじゃっている。誰も責めてくれない。責める人はもういない。だから私は、自分のやるべきことは、自分にちゃんと言い聞かせないといけない。
気を引き締めながら人のいない街道沿いを進む。何日も歩き続けることになったけど、ルイスさんのおかげで楽をすることができた。旅慣れているのか大きめのテントを毎晩用意してくれて、しっかりと眠ることが出来る。
旅は順調に進みもう少しで国境に到着しようかというところだったのに、出会ってしまった。ゴブリンの一団が立ち塞がった。




