第9話-旅立ち。世界樹の下へ-
「それじゃ行こうか。でも旅支度はちゃんとしないとね。ティーブくん、長旅の支度はできる?俺は自分で用意するけど」
「はい。もちろん可能です」
「じゃぁ頼もうかな。ファニーさんもそれでいい?」
「大丈夫です」
ルイスさんは早速部屋から出ていっちゃった。私達も早く旅の身支度をしないと。まずは自分の部屋にあるもので、服とか装備とか収納袋。たまに狩りに行っていたから、この辺は大丈夫。問題はお金。金庫に行けばいくらでもありそうだけど、やっぱり手を出すのは良くないよね。自分のお金を使わないと。
あとは食べ物とか、できれば馬が欲しいかな。部屋に残っていたパンを食べてからドアノブを回そうとして、また回せない。部屋の外にあるのは、きっと見たくないものばかり。唾を大きく飲み込んで、胸を抑えながら一歩踏み出す。
目の前に広がっていたのは城の惨状。至る所に血が飛び散って、物色されて物が散乱して、死臭が漂っている。喉元までなにかが上がってくるけど、なんとか飲み込んで廊下を進む廊下を進む。生き残った人はいないかなって淡い希望を持って、ゴブリンが残っているんじゃないかって恐怖をもって。
生き残りどころか、物音ひとつしない。いつもなら人が行き交い、会話の絶えない城の廊下。今はまるで廃墟のよう。生き残りがいないことの寂しさと、ゴブリンがいないことの安心感でごちゃまぜの気持ち。
「ティーブ。食料庫に行きましょ。残っているならそこしかないし」
「かしこまりました」
誰もいない城の中を歩いていく。
食料庫があるのは、城の1階の一角。この様子だと、食べ尽くされちゃっているか持ち出されちゃっているか。何かが残っている気はしないけど、そこ以外にまともな食べ物はない。
あんまり期待していなかったけど、本当になにもないとがっかりする。厩舎も見てみるけど、馬なんて残っているわけない。ルイスさんはどこでなにを探しているんだろう。
しょうがないから城の外に行くけど、収納袋はほとんど空っぽのまま。誰もいない、静寂に包まれた街。城と同じことになっているんだって、理解しているけど実感できない。今でもまだ、受け入れきれていない。
「ファニーさん。準備は終わった?」
「あっ、はい。でも食べ物がなくて、それにこれは」
ルイスさんは先に外に来ていたみたい。食べ物を持っているみたいだけど、どこから持って来たんだろう。もしかして城下町の家の中から持ってきたのかな。
「これ?悪いとは思ったんだけど、家の中を勝手に漁らせてもらってね」
「やっぱり、誰もいないんですか」
「まぁ、その。あんまり気を落とさないで」
いつもなら大勢の人で賑わっているはずなのに、今は誰もいない。私が生まれた国の、私が育った街。知っている人がたくさんいた街。あと3年だったかもしれないけど、その3年を過ごすはずだった街。
「行きましょ。ゴブリンを止めないと」
「ああ、もちろんだ」
もう二度と、誰かが殺されることがないように。悲しい思いをする人がいなくなりますように。魔物が呪いによって生まれたのなら、呪いを解く方法もきっとあるはずだから。
「ティーブ。これからもよろしくね」
「はい。もちろんでございます」
ずっと一緒にいてくれた、私を助けてくれたティーブ。呪われているって気付けなくてごめんなさい。てっきり従者としてふるまっているだけだと思っていた。周りにそうさせられているって思い込んじゃってた。でも私が、その呪いを解くから。その後はきっと、本当の友達になれるから。
「ルイスさんも、よろしくお願いします。私、知らないことが多いけど、みんなの役に立ちたいんです。賢者の呪いも、私が解いてみせますから」
「うん、そうだね。そうなったら嬉しいよ」
城の外の、街道をルイスさんの背中を追いかけて進む。その親切に甘えている。なのに私は、ルイスさんのことを何も知らない。
聞きたいけど、聞いちゃっていいのかな。ずっと封印されていたわけだから、まだなにもないかもしれない。でも知りたい。早歩きでルイスさんの隣に行って、思い来って聞いちゃおう。
「あの」
「ん?」
「ルイスさんは、リーフ王国に着いた後どうするんですか?」
目をパチクリさせている。やっぱり聞いちゃいけないことだったかな。
「あっ、すみません。急に」
「いや、別に。なんて言ったらいいのかな。世界樹の下に行きたいんだけど、今は無理なんだよね。ずっと封印されていたから、どうにも調子が出ない。だからしばらくは世界を旅しようと思っていた。だから隣国に行くというのは問題ない」
「あ、ありがとうございます。えっと、世界樹の下に行けば、魔物を減らせるんですか?もしかして呪いも全部解くことができるとか?」
勢いで呪いを解くとか言っちゃったけど、どうすればいいのかなんて全然わからない。でも私にできることなら、手伝えることならなんでもしたい。
「どうだろう。きっとそうだと考えてはいるんだけど、確証はない」
「そう、だったんですね。リーフ王国で用事を終わらせたら、私も一緒に行っていいですか?」
あれ?私、何を言っているんだろう。でも私は、リーフ王国に助けを求めて、それからどうするんだろう。上手くいくかわからないけれど、どうなるのかわからないけれど、全部思い通りになったとして、リーフ王国でまた王族として暮らすのかな。
「うーん。そこまで急いで決めなくてもいいんじゃないかな。隣国まで長いんだし、それに王都まで行きたいんでしょ?それが終わってからでいいんじゃない?」
「そ、そうですよね」
私って、本当にいきなりなにを聞いているんだろう。
賢者の呪いっていうのもよくわかんない。あんまり話したくないみたいだけど、一緒に旅を続ければ、きっといつか教えてくれるよね。
私と、ガーダンと、賢者。魔物の呪い、ガーダンの呪い、賢者の呪い、そして人間の呪い。色んな呪いを解くために、そして世界がもっと良くなるように。
私が生まれ育った街を出る一歩が、世界を救う一歩になりますように。




