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飛行船と、私達の物語  作者: 清松
第1章~2016年~
7/46

新たなニアミス

挿絵(By みてみん)





ウヒィーーーー! とお馴染みの叫び声が響き渡る、週明けの詰め所。毎週月曜日の恒例になって来ているような……。他の販売員さん達もすっかり無反応だ。

葵さんは、私のスマホの画面を食い入るように見ている。そこには、シュンと一緒に写ったツーショット写真。先週コーヒーショップへ行った時に、秀司君に撮ってもらった(結局お互いに、秀司君、春琉ちゃん、と呼び合う事に決定した)。

席で撮ったものが2枚と、帰りに駐車場で撮ったものが2枚の、計4枚。葵さんはそれらの写真をひたすら順番に表示させ、時々シュンの顔をズームして見ている。

「めっちゃ爽やか。高身長イケメンじゃん!」

これ私のスマホにも送ってよ、なんて言い出す。恥ずかしいけれど、しょうがないので送ってあげた。しょうがない、なんて思いつつ、ちょっと嬉しいのも事実なんだけれど。

「身長は179センチって言ってた」

「あんたは何センチだっけ」

「151」

「ちっさ! って事は30センチ近くも身長差あるんだね」

数字を改めて言われると、確かに私達はでこぼこコンビなんだなぁと実感する。

「へぇ~こんなカッコいい人が春琉の彼氏なの。いいねぇ、今すごく楽しいっしょ」

「えへへ……そうだね」

「初々しい感じがいいね。私にもそんな時があったはずなんだけどな~もうカケラもないよね」

実は葵さんには、5年間交際している恋人がいる。私はこのラビットで働き始めて2年半ほど経つが、私が入る前にその人もここで販売員として働いていたらしい。写真を見せてもらった事があるけれど、短髪で髭を生やしたイケメン男性だった。パッと見は少しいかつい雰囲気なのだが、パンが大好きで、とても穏やかで優しい性格なのだとか。

「葵さんはもう5年だもんね。私にとって大先輩だよ」

「ははっ。だから何だって話聞くよ。何かあったらいつでも言いなさい、お姉さんに」

「心強いです」


お決まりの流れで、この後山上係長が詰め所に入ってくるような気がした。そして、その予想は的中した。監視カメラでも付いていて、わざわざタイミングを見計らって入って来ているのかなと思うくらい。

「今日は別になんもないよ~っと」

新商品の試食は特にないらしく、缶コーヒーだけ持って入ってくる。係長は基本的にいつも2階の事務所にいるが、夜になると必ず詰め所に下りてくる。販売員達とのコミュニケーションをとても大切にしているのだ。

「ほれ、係長!」

葵さんは、さっき送ってあげたツーショット写真を表示したスマホ画面を係長に向けた。

「おおっ! これは。もっとよく見せて」

葵さんからスマホを受け取って、至近距離で見つめている。さすがに恥ずかしい。そんなにガン見しなくても……。

「藤森さん……彼氏さん、めちゃくちゃカッコいい人だね」

「そ、そうですか?」

「すごいね。こんなイケメンと付き合ってるのか」

信じられない、とでも言いたげな反応。それもそのはずだ。たった数か月前まで私は、今よりもっと内気で、何の刺激もない平凡そのものの日々を過ごしていた。男性の気配どころか、人の気配がそもそもなかったと思う。何をするにも常に1人だったから。

係長は、さらに画面を覗き込んで、ん~? と言う。

「何かありました?」

「なんかこの人、俺どっかで見たような……」

突然そんな事を言い出す係長。えっ? と声が出てしまう。

「係長、ホントに飛行船の所でシュンさんに会ってんじゃないの?」

葵さんが言う。

「そうなのかな……んんん~?……………あ」

何かを思い出したようだ。

「俺が息子と奥さんと一緒に飛行船のコックピットの中見せてもらってた時に、近くにいた人かもしれん」

「ええっ!? ホントですか!?」

思わず大声を出してしまった。

私が係長と係留地で会った時、彼ら一家はちょうど飛行船のゴンドラに乗せてもらっていた。飛行船は基本的に一般人が乗ってフライトをする事は出来ないらしいが、係留中にゴンドラの試乗をさせてもらう事は出来る。

「今鮮明に思い出したよ。あの時、息子がギャーギャーはしゃいでてね。その声が聞こえていたのかわからないけど、ず~っと笑顔でこっちを見ていた青年がいたんだよ。あの嬉しそうな表情が、なんかすごく印象に残っててね。その人のような気がする」

係長の説明を聞くに、確かにそれはシュンで間違いないような気もした。彼ならきっと、その場にいたらそうしているんじゃないかと私も思う。





挿絵(By みてみん)




「それ、多分彼本人だと私も思います……絶対そうしてそう。なんか、容易に想像がつくんです」

「え~スゴイじゃん! ホントに係長もこの人に会ってたの」

「あぁ、多分間違いないよ。俺、人の顔覚えるのって得意だからさ。すごく優しい目で息子を見ててねぇ……」

またひとつ、彼とのニアミスを思いがけない所で知った。私達は、本当にお互いを知らない頃から、何度も何度も会っていたのだ。言葉で言い表せない思いが、胸の中に溢れて行くのを感じる。

「そうなのか、あの青年と藤森さんが……。その時はまだ知り合ってなかったの?」

「はい。まだ顔も知らなくて」

「いやぁ〜、人ってどこで繋がるかわからんね」

「はい、本当に……。あぁ、この話早くシュンにしたいなぁ」

つい心の声がダダ漏れになってしまっていた事に、言った直後に気づいた。しかも自然にシュンと呼んでいた事も重なって、私はうわぁ~〜っと変な声を出してまた顔を隠す。何をやってんのよ一体、と葵さんの呆れたような笑い声が聞こえた。


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