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第四章 動き出す歯車。運から宿へ。〜運命が変わる時〜

 プロローグ

「今、なんと言いましたか?」

 眼鏡をかけた男性が、困惑の表情を浮かべ尋ねた。

『あの方々は、新たに発足した組織を無視しろと仰っておる。と述べた』

「ざけんな! あいつらは俺達の邪魔になる! 今のうちに潰しておくべきだろうがぁ!」

 チャラそうな男性が怒号を上げる。

 二人の男性の前には誰もいない。が、大きなモニターがあり、そこには真っ黒な外套を身にまとい、フードを目深に被った人達が無数に並んで立っていた。

『私の言葉はあの方々のお言葉。私に逆らうと言う事はあの方々の意向に逆らうと言う事だぞ? あの方々に逆らうなど、言語道断。死にたいのか?』

「「っ……!?」」

 モニターに映る代表者の一人の低い声に、二人の男性は背筋を凍らせた。

『いいか? あの方々が指示を出すまでは、勝手な事をするな。もし勝手な事をしたらその時は、わかっているな?』

「は、はい……」

「チッ……」

『では、貴様らは貴様らのすべき事をせよ』

 モニターの通信が切れる。

「あぁあ!!」

 チャラい男性が壁を思い切り殴る。殴られた壁はボロボロに砕けてしまった。

「あいつら、好き勝手言いやがって!」

「しょうがないんです。あの人達はあの方々に一番近い存在。僕達なんかよりも力があり、信頼がある」

「くっ……俺達は、ウェザック様の直々の部下なんだぞ!あいつらなんかよりも!」

「そのウェザック様も、手を出すなって言ってる。だから、僕達も手を出せない」

「くっ……ざけんなよ……あああああああああああ!!」

 チャラい男性の叫びが、薄暗い空間に響き渡った。

 夜。

 野宿をしている撫子達。

 劉備と弁慶は、車で横になっており、侍蔵(さむぞう)は外で自動走行車椅子に座ったまま眠っている。

 撫子も自動走行車椅子に座って眠っており、雅は地面にシートを敷き、眠っている。

 そんな五人を、はるか上空から見つめる怪しい人物が。

「あれが救世主か……。まだ ”未熟” だな。成長を促すには戦闘が一番好ましいが、今はまだ ”その時” じゃない。では、どうするか。ふっ。その答えは簡単だな。利用できるものはなんでも利用する」

 謎の人物は、瞬間移動でもしたかのように姿を消した。

 この人物が何者なのか、それはまだ分からない。


 ☆ ☆ ☆


 朝。

「おはようございます、撫子様。早いですな」

「あ、おはようございます。侍蔵さんもお早いですね」

 朝日を眺めていた撫子の後ろから、侍蔵が声をかけてくる。

 二人共、自動走行車椅子に乗っての移動。撫子は設定を自動にしているので、動くことができる。

「……いい眺め、ですな」

「はい。今日も朝が来ました」

 二人は、それ以上は何も言わず、ただただ黙って昇っていく朝日を眺め続けた。


 ☆ ☆ ☆


「ほ、本当に平気なんですか?」

「はい。寝たら完全回復したので! 弁慶は背中に少し負傷を負ってしまいましたが、僕はなんの問題もありません! ですので運転は任せてください!」

「そ、それなら、いいのですが……」

 撫子達は移動を開始していた。

 目を覚ました劉備は、体になんの異常もなく、普段通りで、元気が有り余っているくらいだと言い、運転を申し出た。

 そして、弁慶は崖に衝突した事で背中に少し怪我を負ったが、それ以外は劉備と同じくなんの問題もなく元気だと言う。

 本人達がそう言うので、何も言えない撫子。だが、実は無理してるんじゃないか、気を遣ってるんじゃないかとどうしても心配が拭えなかった。

 と、心配そうな表情を浮かべる撫子の服の袖を引っ張る雅。

 撫子が雅の方を向くとーー、

『あんまり心配しすぎると、今度は撫子さんが疲れちゃいます。二人の事はあんまり心配しなくて大丈夫だと思います。だから撫子さんも少し休みましょう』

 と、言ってきた。それを受けてーー、

「『ありがとうございます。心配をかけてすみません。そうですね。二人が大丈夫と言ってるんですから、大丈夫ですね。私も少し休みます』」

『はい!』

 雅の満面の笑みを見た撫子はーー、

(私なんかより、雅君の方がしっかりしてる……二人の事を心配しつつもしっかりと信頼してる。この子は、本当に私なんかより、強い……)

 そう思うのだった。

 雅は撫子の顔を見て首を傾げていた。


 ☆ ☆ ☆


 移動を開始して三時間。

 商店街のような場所に到着した。車を停め、車を降りる一行。

 雅が撫子の車椅子を押し、一行は移動を開始する。

「やはり、荒れ果ててますね……」

「ですな…… ”二度目” にはやはり耐えられなかったか……」

 撫子達が訪れたこの商店街。そこは商店街と呼ぶにはあまりにも静寂すぎるものだった。

 まるで ”日常が突如消えた” かのような光景。

 先程までそこに人がいて、賑わっていたと言われても不思議に思わないくらい、商店街には面影が残っていた。

「いつも疑問に思うんですけど、亡くなってしまったはずの人達はどこに行ってるんでしょう?」

 劉備が歩きながらそう尋ねる。

「それは私も常に思ってる疑問点なんですよね。魔聴獣は、人間を襲いますが食したりはしない。だから魔聴獣に襲われて遺体が消えるなんて事は考えられないんですよね……」

聴力災害(ちょうりょくさいがい)の被害者達はもれなく姿を消していますからな」

 五人が歩いているとーー、

 ガサ。

「「「「?」」」」

 何かが動く音が。

 四人が同じ方向を見たので、それを見て雅もそちらを向く。

「誰か? 誰かおるのか!」

 返事はない。

「誰かいらっしゃるのなら、返事をしてください! 私達はあなたを助けに来たんです!」

 返事はない。

「何かが落ちた音だったんでしょうか?」

「そうかもな。人じゃねぇのかもしんねぇ」

 劉備と弁慶がそう話していると、雅が音がした方へと歩き出した。

「み、雅君!?」

 撫子が名前を呼ぶが、雅には届かない。

 雅が音のした場所にたどり着くとーー、

「っ!?」

 その場に尻餅をついてしまった。その表情は恐怖に引きつっている。

「雅君!?」

 四人が慌てて駆け寄る。劉備が撫子の車椅子を押す。雅の視線の先にあったのはーー、

「こ、これは……」

「遺体、だな……」

 そこにあったのは、命失った人だった。

「回収、しましょう」

 劉備が言う。

「そうですね」

 撫子が頷く。劉備と弁慶がご遺体を抱き上げようと近づくとーー、

 シュュュュュ……。

「「「「「!?」」」」」

 ご遺体が消えてしまった。まるで灰になってしまったかのように。

「こ、これは、どういう事だ……?」

「な、なんだよ、これ……」

「こんなの、初めてですよ……」

 侍蔵、弁慶、劉備がそれぞれ呟く。

「はっ! 雅君! 『大丈夫ですか?』」

 撫子は車椅子から降り、雅に尋ねる。

「…………………」

 しかし、雅は恐怖からかパニックになっており、返事をしない。

「家族の事を思い出してしまったのかもしれません。この前みたいに聴跡(きせき)を使ってあげたいですが、この足ではまだ、使えない……どうすれば……」

 撫子は考えていた。どうすれば雅を落ち着かせられるか。どうすれば安心させる事ができるのか。

「今までので、効いてくれればいいのですが」

 撫子は雅を優しく抱きしめる。先程までご遺体があった場所は見せないように自身の胸に顔を伏せさせるような形で。

「大丈夫。大丈夫。大丈夫です」

 撫子は雅の背中を優しくさすり続ける。

 すると、雅は落ち着いたのか、顔を上げ撫子の顔を見つめる。

『ありがとうございます。もう、大丈夫です』

 そう伝えるがーー、

「『いえ。まだ駄目です。まだ顔が怖いって言ってますから、もう少しこのままで』」

 と言って、雅の顔を再び胸に伏せさせる。

(い、いや、これはちょっとううん、かなり困る!? な、撫子さんのむ、胸が……!?)

 雅が内心別の事で焦っている事を知らない撫子は、雅を抱きしめ続けるのだった。

 その(かん)、劉備達三人は恐怖と怒り、様々な感情を宿した表情を浮かべ、ご遺体があった場所を見つめ続けていた。


☆ ☆ ☆


 衝撃的な光景を目の当たりにした五人は、移動中、ほとんど会話をしていなかった。

 商店街や町を見て回り、生き残っている人がいない事を確認し、食料や水分の補充を済ませた一行は車へと戻っていった。

 車に戻った五人は、次の目的地を相談していた。

「次は……神奈川に向かいましょうか」

「だな。東京から一番近いからな」

「埼玉でもよくないか? 東京と距離はさして変わらんだろ」

 三人が話しているとーー、

「神奈川に行きましょうか」

 撫子が言った。

「撫子様がそう仰るなら、それで行きましょう」

「では、神奈川県に」

 こうして五人は、神奈川県へと向かうことになった。


 ★ ★ ★


(ん? 移動を始めたけど今度はどこに行くんだろう?)

 雅は撫子の方を見てーー、

(っ……駄目だ……さっきの撫子さんの胸の感触が頭から離れない……駄目だって分かってるのに、撫子さんを見ると胸に目が行っちゃう……)

 そんな雅に気が付いた撫子がーー、

「『どうしました?』」

『いえ! なんでもないです! どこに向かってるのかなぁって思って!』

「『あ、ごめんなさい。行き先を伝えていませんでしたね。これから神奈川県に向かいます』」

『神奈川?』

「『はい。そこに魔聴皇(まちょうおう)の一人がいるんです』」

『そいつを、倒しに行くんですね』

「『そう、ですね……』」

『? 撫子さん?』

「『すみません。そうです。戦いに行きます。協力してくれますか?』」

『はい! 頑張ります!』

「『ありがとうございます。お願いします』」

(よし! 救世主として、頑張るぞ!)

 そう決意する雅だった。


 ☆ ☆ ☆


「撫子様、もう夜も遅いです。お休みになってください」

 劉備が運転しながら、後ろにいる撫子に声をかける。

「いえ。大丈夫です。それより、劉備さんこそ大丈夫ですか? 休まずに運転させてしまって」

「はい。僕は全然大丈夫です。昔から運転が大好きで夜遅くに寝ずに運転していた事もあるので」

「そうですか。ですが、あまり無理はしないでくださいね」

「はい。でもそれは撫子様もですよ。弁慶も侍蔵さんも晴風君も眠っています。撫子様も眠れる時に眠っておいてください」

「ふふ、はい。分かりました。では、お言葉に甘えさせていただきますね。くれぐれも無理はしないでください」

「はい。お休みなさい」

「お休みなさい」

 撫子は眠りについた。やはり無理をしていたのだろう。目を閉じて数十秒で寝息を立て始めた。

「神奈川までもう少しだ。もう一踏ん張り!」

 劉備は目をこすりながら、ハンドルを握った。


 ☆ ☆ ☆


 朝。撫子が目を覚ますと、運転席で眠る劉備が。

 窓の外を見ると、そこはどこかの駐車場。撫子はすぐにこの場所が神奈川県であると確信した。

「こんなに早く着くなんて、無理しないでと、言ったのに」

 撫子は劉備の頭を優しく撫で、柔らかい笑みを浮かべた。

 撫子がちょっと動いた事で、雅も目を覚ます。

『撫子さん……』

「『おはようございます。雅君。よく眠れました?』」

『はい。撫子さんは?』

「『私もよく眠れましたよ。ちょっと外に出たいので手伝ってくれますか? 他の人を起こさないように』」

『はい!』

 二人は皆を起こさないよう、そっと外に出る。

 朝日が眩しいくらいに光っている。

「ん〜! っあ〜。今日も、朝が来ました」

 撫子は誰かに報告するかのように目を閉じ呟いた。

「おはようございます、撫子様」

「あ、弁慶さん。おはようございます。起こしてしまいましたか?」

「いや。ぐっすり寝たからな、勝手に目が覚めちまった」

 弁慶が助手席から降りて来た。

 そんな弁慶に、雅は丁寧に頭を下げる。

「お、どうも」

 弁慶はそれに驚き、慌てて頭を下げ返す。

『飲み物何を飲むか、立原さんに聞いてもらっていいですか?』

「『分かりました』弁慶さん、飲み物は何を飲みますか?」

「ん? あ〜コーラってあるんすか?」

「『コーラ、ありますか?』」

『コーラ、コーラ……はい、あります!』

「あるそうです」

「じゃあ、それで」

 雅はクーラーボックスからコーラを取り、弁慶に手渡す。満面の笑みで。

「さ、サンキュー」

 弁慶はその笑みに照れながらも、受け取り飲み始めた。

『撫子さんは、何を飲みますか?』

「『そうですね……いちごオレはありますか?』」

『ありますよ。はい!』

「『ありがとうございます』」

(可愛すぎませんか〜!!)

「『雅君は何を飲むんですか?』」

『僕は〜これです!』

「『カフェオレ……大人ですね』」

『えへへ〜! 姉さんに男はカッコよく生きなきゃいけないと言われて、でもまだコーヒーは飲めなくて……だからカフェオレにしてるんです!』

(可愛いなぁもう! この子は本当に天使ですよ!)

 雅の天真爛漫さに、撫子は悶えていた。

「撫子様、こいつが来てからキャラがどんどん変わって行ってるな」

 コーラを飲みながら、弁慶は様子のおかしい撫子を見て独り言ちた。

 いちごオレ、カフェオレを飲む二人。

 朝の平和なひと時。それがずっと続けばいいと、そう撫子が心で思った次の瞬間ーー、

 ドガァァァァァァァァァァァァンッッッ!!

「「「っ!?」」」

 突如、目の前が爆発した。

「な、なんだ!?」

「一体、何が……!?」

『来ます』

「え……?」

 雅が撫子にそう伝えた瞬間ーー、

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 (さめ)の姿をした魔聴獣(まちょうじゅう)が姿を現した。

「ま、魔聴獣!?」

「んでこんなとこに! 撫子様、下がって!」

「は、はい!」

 弁慶が撫子の前に出て、魔聴獣と対峙する。

「俺が前衛に立つ! 二人は下がってーー」

 弁慶が二人に下がってと言おうとした瞬間ーー、

「んんーー!!」

「み、雅君!?」

 雅が剣を握り、鮫の魔聴獣に接近していた。

「あいつ、何やってんだ!?」

「んんんんんんっ!!」

 雅が剣を振り下ろす。その攻撃が背びれに直撃。背びれは切断された。

『ギィヤアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』

「「くっ……」」

 魔聴獣の奇っ怪な絶叫が響き渡る。

 その声に撫子と弁慶は耳を塞ぐ。ヘッドフォンのような物(介助聴)を付けているが、それを超えてくる声で、二人は苦悶の表情を浮かべている。

 介助聴(かいじょき)とは、撫子が開発した鼓膜を守る為の装置。ヘッドフォンのような形をしており耳に長時間装着していても痛くならない仕様になっている。

 介助聴に設定している声だけは通すようになっていて、魔聴獣などの声は届かないようになっている。

 それでも、今回の魔聴獣の絶叫は凄まじいもので、介助聴を越え耳にまで届いている。

「この、ままじゃ、鼓膜を破られて、死んじゃう……」

 撫子と弁慶がその場に跪いてしまう。

「んんー!」

 雅は、二人の様子を見て、時間が無いと気づき、すぐさま攻撃を再開した。

 しかし、攻撃をただ黙って受ける奴はいない。

 鮫形(さめがた)の魔聴獣は、雅の攻撃を器用に躱していく。

「あの魔聴獣、手強いな……」

 と、上空で激戦を繰り広げている雅の様子を見ていると、小型の鮫形魔聴獣が十体出現した。

「な!? 小型だと!?」

「このままじゃ雅君が!?」

 二人が小型に驚いているとーー、

「ハァ!」

「「っ!」」

 三体の小型がいきなり爆発した。爆発した箇所から武器が回転しながら地上に戻っていく。それを目で追っていくとーー、

「劉備!」

 武器をキャッチしたのは、先程まで運転席で寝ていたはずの劉備だった。

「弁慶! 何してんの! ボーっとしてないで、戦うよ!」

「お、おう! 【聴跡(きせき)を起こせ! 薙刀(なぎとう)!】」

 弁慶は慌てて武器を出現させる。

「撫子様!」

宮紫々(みやしし)さん!」

 自動走行車椅子で移動する侍蔵が、撫子の元にやってくる。

「爆発音で目が覚めたら、まさかこんな事になっているとは。呑気に寝ていた自分が恥ずかしいです」

「いえ。そんな事はないです。これは本当に予想外です。まさか、到着早々に魔聴獣に襲われるとは」

「上空で戦っているのは、晴風殿、ですか?」

「はい。誰よりも先に動いて、真っ先に立ち向かって行きました」

「やはり彼は、救世主として……」

「はい。覚悟ができているようです」

「…………」

 二人は上空で戦う雅を見て、複雑な表情を浮かべていた。

「劉備、そっち頼むぞ!」

「了解! ハァ!」

 劉備は二本の剣を使い、四体の小型を相手にしている。その動きには一切の無駄がなく、一太刀一太刀が確実に相手の胴体を捕えている。

 一方の弁慶は、三体の小型を相手しており、柄が長い剣を使用しており、それを振り回して戦っている。扱いが難しい武器だが、弁慶は巧みに操り、三体の小型に着実とダメージを与えている。

「あいつが心配だ! 一気に決めるぜ! 【聴跡を起こせ! 幕進刀破(ばくしんとうは)!】」

 弁慶が【五級位】の【位技(いぎ)】を使用した。

 その技は、武器を素早く回転させ突風を発生、その突風に敵を封じ込め、先端にある刃を突き上げ攻撃する。

 三体の小型はその技により、消滅した。

「僕も決めます! 【聴跡を起こせ! 二刀連爆煉戟にとうれんばくれんげき!】」

 劉備も【五級位】の【位技】を使用した。

 その技は、二本ある剣を目に見えないスピードで突き出し、何回突いているのか分からないほどの連続突きで攻撃する。

 その攻撃で四体の小型は消滅した。

「こっちは片付いた! 上は!」

 劉備、弁慶が上空を見上げる。そこには、一進一退の攻防を繰り広げる雅の姿があった。

「おいおい……あいつ、スゲェな……」

「僕達の強さを、優に超えてますよ……」

 二人は、驚愕の表情を浮かべていた。


 ★ ★ ★


(こいつ、体が大きいのに動きが速い!)

 雅は鮫形の予想外の素早さに手こずっていた。

(こいつは僕が倒さないと、撫子さん達が危ない目に遭っちゃう! あの基地で撫子さん、宮紫々さん、立原さん、宮本さん達に戦い方や、武器の扱い方を学んだ。僕は少しだけど強くなってるはず。だったら!)

「んんんーーーー!!」

 雅は体を回転させ、素早く動く鮫形に剣を振るう。

 その攻撃が一部命中。鮫形は絶叫を上げる。が、その間にも雅は攻撃の手を休めない。

(まだまだ!)

 鮫形の背に乗った雅は、両手で剣を逆手に持ち、切っ先を思い切り鮫形の背中に突き刺す。

『ギュリィィィィィィィィィィィィィィ!?』

 鮫形は絶叫を上げる。それと同時に、雅に攻撃しようと、体を揺らす。

「ん、んん!?」

 剣の柄を握っている事で、なんとか振り落とされずに済んでいるが、それも時間の問題。とーー、

『ギュリャァァァ!!』

 鮫形が尾鰭をしならせ、雅を背後から攻撃してくる。

 音が聴こえない雅は、それに気付けない。

 そのまま攻撃が直撃、する瞬間ーー、

『させないわ』

 どこからか女性の声がしてーー、

(え……?)

 雅の体が宙に浮いた。

 そのおかげで鮫形の攻撃は、雅には当たらなかった。

(よく分かんないけど!)

 雅は、背中に着地し剣を引き抜く。そしてーー、

(確か、技の名前を付けるとイメージしやすいんだよね。ずっと考えてたからすぐに出てくる。

軌聴(きせき)の技、執行! 剣閃(けんせん)!】)

 雅は技を使用した。

 その技は、剣を横一文字に振り、剣先から黄金に輝く閃光を放つ攻撃。

 その攻撃は鮫形に命中。

『ギュリャァァァァァァァァァァァァァ!?』

 鮫形は絶叫を上げた。いや、それは断末魔だろう。鮫形は口から黒い瘴気を漏らしながら消滅した。

(な、なんだこの黒い煙は……?)

『マズい!?』

 雅が黒い瘴気を吸い込む寸前、雅の鼻と口に誰かの手が添えられた、気がした。

(誰……?)

 そのおかげで雅は黒い瘴気を吸い込まずに済んだ。

 雅はそのままゆっくりと地上に着地する。そもそも雅はどうやって空を飛んでいたのだろうか。

「雅君!」

 そんな雅に駆け寄ってくる撫子。

『撫子さん……』

 雅はそのまま前に倒れ込みそうになってしまう。それを間一髪ーー、

「雅君!?」

 撫子が支えた。

「撫子様! 晴風殿は!?」

 侍蔵が遅れてやって来る。

「大丈夫です。気を失っているだけです」

「そうですか……よかった」

 雅は気を失ってしまった。それだけ激しい戦闘だったのだ。

「お疲れ様です。そして、ありがとうございます」

 撫子が雅の頭を優しく撫でてやるとーー、

『その子を、大切にね』

「え……?」

 謎の女性の声が聴こえ、撫子は呆然と空を見上げるのだった。その空は灰色だが、撫子にはどう見えているのだろうか。


(僕は、勝てたのかな……。撫子さん達が無事なら、僕は……)

ーー勝手に死んだみたいにしないで。

(また、あなた……)

ーー何度もごめんなさい。伝えたい事があって。

(伝えたい事、多いですね)

ーー…………沈黙の剣使よ。

(ごまかした)

ーー貴方に、運命と宿命を与える。

(運命と、宿命……それって同じなんじゃ……?)

ーー少し違うの。運命は自らが選び掴み取る物で、宿命とは生まれながらに決まってる物。

(…………それを僕に与えるって、どういう……?)

ーー正確には、貴方の運命を宿命に変える。

(え……? 変えられる物なんですか?)

ーー私にはその力があるの。だから、貴方の運命は全て宿命に変わる。

(は、はぁ……)

ーーこの世界を救う宿命を貴方に与える。生きて戦って。唯一の救世主、沈黙の剣使(ちんもく けんし)

 巨人の女性は手話で話し、姿を消した。

(僕の、宿命……)

 雅は、そのまま深い眠りに就いた。

 エピローグ

 2085年XX月ZZ日。

 今日は不思議な子に出会った。

 耳が聴こえない子。見た目はとても幼い感じだけど、私と同じ十五歳と聞いてビックリした。

 これが、前に聞いた障害者の特徴なんだと、自分の中で合点がいった。

 その子の名前は「晴風 雅(はるかぜ みやび)」。雅と言う名前は、お姉さんが付けてくれたのだと、とても嬉しそうに語っていた。

 手話を習っていて本当に良かった。雅君がなんて言ってるのかがちゃんと分かる。それでもたまに難しい手話を使う時があって、意味が分からなくて、すぐにスマホで調べる事もある。その時、ちょっとだけ時間がかかっちゃうから、雅君に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 もっと手話、勉強しないと。

 最初は手話を単語で覚えるだけでもすごく苦労した。そこから文章、指文字、組み合わせ、と色々覚える事があって、何度心折れそうになったか分からない。

 でも、諦めずに勉強してきて今は本当に良かったと思ってる。世界がこんなになって、雅君が私達にとって救世主で。もし私が手話を使えなかったら、雅君は救世主になってくれてなかったかも。ううん、それだけじゃなくて、そもそもが私達に付いてくれなかったはず。だから本当に良かった。

 ありがとう、お姉ちゃん。

 今日はここまで。また明日、雅君と沢山お話しよう。手話ももっと学びたいし!

 皆をまとめる責任者として、寝坊なんて絶対に駄目だからね。早寝早起き。大事!


 雅君の事、ちゃんと覚えているからね。

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