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第一章 変わる世界。騒から静へ。〜聴こえずとも英雄へ〜

 プロローグ

 僕の世界は、みんなの世界とは少し違う。

 音がありふれた世界。

 声が聴こえる世界。

 言葉が聞こえる世界。

 それがこの世界の当たり前で ”普通” だ。

 しかし、世界にはその当たり前に当てはまらない人もいる。

 目が視えなかったり、耳が聴こえなかったり、その他にも沢山の ”障害” がある。

 僕は耳が聴こえない ”ろう者” だ。

 音がある世界が、言葉が話せる世界が、何もかもが羨ましかった。

 だけど、世界はある日、突如として変わってしまったんだ。


 沈黙の世界へと………………。

『※※※※※※※※※!』

 突如、世界中に謎の怪奇音声が響き渡った。

「なんだ?」「なんかの企画か?」「何々?ライブかなんか?」

 など、人々が騒いでいる。

(どうしたんだろう。母さん達が外を見てる。何かあったのかな?)

 一人の少年がこの騒ぎに対し、一人だけ首を傾げ疑問を抱いていた。

 そしてその少年は外に出て、姉の隣に立ち尋ねた。

「ん?あ〜なんかね『変な音がしてるの。みんなそれが気になってる』」

(変な音か……)

 少年が尋ねると、姉は “手を動かし” 少年の問いに答えた。

 人々が集まり、大勢が空を見上げている。

 と、次の瞬間ーー、

 バタ。バタバタ。バタバタバタ。

(え……!?)

 皆が急に次々と倒れ始めた。

(な、何……? なんでみんな急に……!? 何も聴こえない、何も分からない……! 母さん、父さん、姉さん、教えて……何が起こってるの……!?)

 少年は辺りを見回し、戸惑っていた。

 そんな少年に空から近づく怪しい大きな影が。

『※※※※※※※※※※!』

 鯨のような姿をした化け物が、少年を飲み込もうとした瞬間ーー、

「【聴跡(きせき)を起こせ!アローズフェスティバル!】」

『※※※※※※!?』

 突如、左から少女が飛んできて、化け物に向って剣の矢を無数に放った。

 その全てが化け物に命中。化け物は右に吹き飛んだ。

「……っ。劉備さん! 弁慶さん! 後頼みます!」

「「了解!」」

 少女は少年の近くに着地し、二人の人物に声をかける。

 すると、少女の後ろから二人の男性が姿を現し、上空の怪物に向っていく。

 少女は涙を浮かべている少年の元に向かい、ギュッと抱きしめる。

「大丈夫。大丈夫です」

 男性二人が怪物を倒した後、少女と合流した。三人は両耳にヘッドフォンのようなものを着けている。

「おぅ、少年。大丈夫か〜? 怪我してねぇか〜?」

「あれ? 声が届いてないんでしょうか?」

 少女に合流した男性二人は、少年に声が届いていないのが気になったのか首を傾げた。それを見た少女が一つの推測を立てた。そして、それを確かめる為にーー。

『もしかして、君は耳が聴こえないんでしょうか?』

 と、手話で尋ねた。

 少年はコクリと小さく頷いた。

「やはりそうですか」

「なんです? その少年、なんかあるんですかい?」

「この子は聴力が無い、耳の聴こえないろう者です」

「「っ!?」」

「そ、それって!」

 眼鏡を掛けた男性が興奮した様子で、少女に詰め寄る。

「この世界を救う事が出来る ”救世主” で間違いないと思います」

「おぉ! 遂に!」

「出会えましたね、撫子様!」

「えぇ。ですが、すぐにそれをこの子に説明、担わせる事はしません」

「あ? どうしてです?」

「それもそうですね。彼は ”この世界” の事を何も知らない」

「はい。それに……」

 少女は、少年に手話で伝える。

『私達に付いてきてください』と。

 すると、少年がーー

『一緒に行くってどこに? どうして? それにみんなは? 母さんは? 父さんは? 姉さんは!?』

「ど、どうした? すんげぇ感情的になってますけど」

「なんて言ってるんです?」

「…………」

 少女は悲しそうな表情を浮かべ、唇を噛み締めた。そして、重くその口を開いた。

「私達と一緒に行くのはどうしてなのか。どこに行くのか。お母さんは、お父さんは、お姉さんはどうするのか。と言っています」

「「…………」」

 少女が通訳した事に、二人の男性は口を噤んでしまった。

 少女は少年と向き合いーー、

『ごめんなさい。どこに行くのかはまだ言えないの。どうしてかは、ここが危険だから君を保護したいの。ご家族は……ごめんなさい。もう、みんな、亡くなっているから、連れて行けない……』

 と手話で説明した。少女の説明を聞いた少年は、言葉を失った。そして、目元に涙を浮かべーー、

「ああああああああああああああああああああ!?」

 泣き叫んだ。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 少女は泣き叫ぶ少年を優しく抱きしめた。そして、少年が泣き止むまで背中をさすり続けた。

 二人の男性は、拳を握りしめながら周りの警戒にあたっていた。


 ☆ ☆ ☆


 少年が落ち着きを取り戻した。

 今は車の中で少女に背中をさすられている。

「損な役回りをさせて、申し訳ない」

「いえ。いいんです。これは私がすべき使命だと思っていますから」

「撫子様、そろそろ」

「分かりました。『これから、私達の基地に行きます』」

 少女は少年に手話で説明をした。少年はコクリと頷き返事を返す。その返事を受けて少女はーー、

「出発を」

「はい」

眼鏡を掛けた男性が車を発進させた。


 ★ ★ ★


(僕は、これからどうなるんだろう……母さんも父さんも、姉さんもいない……僕はこれからどうすれば……)

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

(何を話しているんだろう? お姉さんが手話を使ってくれるから、大切な事はなんとか分かる……でも、あの化け物も、この人達も一体なんなんだろう……?)


 ☆ ☆ ☆


 車で移動する事三時間。目的地に到着した。

「ん? 『ここが私達の基地ですよ』」

 少年に袖を引っ張られた少女は、大きな建物を一瞥した後、少年に説明した。

(凄い……今まで見てきた中で一番大きな建物だ……)

 その建物は、東京ドーム五個分を誇るであろう大きさで、異様な存在感を放っていた。

 中に入ると、その広さに驚かされる。

 どこを見ても終わりが見えないほどで、一人で歩いていたら絶対に迷子になってしまいそうだ。部屋が無数にあり、その一つ一つがとにかくだだっ広い。

 四人が室内に入ると、受付と思しき場所に二人の人が立っていた。

(ん? この二人、なんか違う……?)

 少年は、受付に立つ二人の女性を見て違和感を覚えた。

 どこをどう見ても人間なのだが、随所随所に普通の人間とは違う何かが生じているのだ。

 例えばーー、

「内部に損傷が無いかスキャンしますね」

 と言って、目から光りを放ち少女たちの全身を検査したりーー、

「該当がないか、検索してみますね……該当するデータはありませんでした」

 と、まるでネットワークにアクセスしたかのような事を言ったりと、まるでAIのような事をしているのだ。

 そう。この二人の女性は、人間ではなく、最新式自立思考型AI。

 2085年の現在。AI技術は凄まじい進化を遂げていて、人間となんら変わらないところまで来ていた。

 だが、それでも人間と ”同じよう” なだけで ”全く同じ” と言う訳ではなかった。

 人間は食事を摂る。AIは充電をする。

 人間は睡眠を取る。AIはスリープモードになる。

 と、いった感じでAIは、人間と全く同じではなかった。それでも、AIは日に日に進化しており ”この世界” になってからはAIがコンビニを運営していたり、病院を回していたりする。

 AI技術の話はまた今度話すとして、受付を過ぎた四人は、数多ある部屋の中で最奥にある部屋に入室した。

 四人が入室するとーー、

『お帰りなさいませ、撫子様!』

「皆様、只今戻りました」

 中にいた十人の人々に迎えられた。その十人は全員が少女に向って頭を下げ挨拶をした。

(な、なんだ……? 大人の人達がお辞儀してる……もしかしてこのお姉さん、凄い人なのかな……?)

 少年は、何が起こっているのか分からず、困惑した表情を浮かべながら少女を見ていた。

「皆さん、楽にしてください」

『はい!』

 少女がそう言うと、十人は頭を上げ、それぞれ椅子に座ったり部屋を出たりと、自由にし始めた。

「『ごめんなさい。驚かせちゃいましたね。こっちです』」

 少年は先を歩く少女の後を追いかける。周りの視線を感じながら。


 ☆ ☆ ☆


「『そこに座ってください』」

 部屋の更に奥にある小部屋(それでも十畳以上はある)に入ると、少女がソファに座るように促した。少年はコクリと頷き、ソファに腰掛ける。

 少女は少年の向かいにあるソファに腰掛け、少年と向き合った。二人の間にはガラス製の丸型テーブルがある。

「『最初に自己紹介をしますね。私は大和撫子(やまとなでしこ)。十五歳です。ここは私の別荘……みたいな所です。自分の家だと思ってくつろいでくださいね。私の事は撫子って呼んでください』」

 少女ーー撫子は、自己紹介とこの場所がどこなのかを手話で教えてくれた。

「『君の名前を教えてもらってもいい?』」

 少年はコクリと頷きーー、

『僕の名前は晴風 雅(はるかぜ みやび)です。撫子さんと同じ十五歳です』

 少年ーー雅も自己紹介をする。

 撫子と同じ十五歳だが、どこか十五歳とは思えない幼さがある気がして……?

(これが ”障害” によるものなのでしょうか……? 聞いていた話と合致しますね)

「『雅君。いい名前ですね』」

 撫子は可愛らしい笑みを浮かべ、雅の名前を褒めた。

『姉さんが付けてくれたんです。女の子を守れるような格好いい男になれるようにって』

 雅は、名前を褒められたのが嬉しかったのか、純真無垢な笑みを浮かべ、嬉々として自らの名前の由来を語った。そんな様子を撫子は嬉しそうに見つめている。

 と、そんな時ドアが三回ノックされた。撫子が応えると眼鏡を掛けた青髪の男性ーー宮本劉備(みやもとりゅうび)が入室してきた。

「失礼します。お茶とお茶菓子を持ってまいりました」

「ありがとうございます」

 劉備は、二人の間にあるガラス製の丸型テーブルの上に冷たいお茶の入ったコップ二つと、一つ一つ個包装されたお菓子が入った木製のお皿を置き、そのまま退室していった。

「『お話を続けますね。私達はこの世界に起きている不可思議な現象を止める為、日々戦い続けています。雅君は見たかどうか分からないんですが、大きな鯨のような化け物、分かりますか?』」

『撫子さん達と会った場所で、僕を食べようとしてきた……?』

「『そうです。あれが私達が戦っている化け物。私達は【魔聴獣(まちょうじゅう)】と呼んでいます。様々な獣の姿をしており、魔法のような力で人々の鼓膜を破壊し死に追いやる。それでこの呼称を付けました』」

『あんな怖いのがまだいっぱいいるんですか?』

「『はい。まだいっぱいいます。その中で、その【魔聴獣】を操る【魔聴皇(まちょうおう)】と言う存在がいて、その数は八人。私達はその八人を倒すのを目標にしているんです』」

『八人……』

 雅は、撫子の説明を受け難しい顔をした。

 まさか、みんながそんな危険な事をしているとは思わなかったから。

『僕に、何か手伝える事はありますか?』

 雅はそう言った。自分だけ何もせず、ここでお世話になるわけにはいかない。目の前にいる同い年の女の子だって戦っている。それなら、姉が付けてくれた雅の名に恥じないよう、共に戦わなければ。

「『本当はね、雅君を危険な目に遭わせたくないの。だけど君は ”救世主” だから。戦場に出てもらうことになってしまう……』」

『救世主?』

 雅は撫子の言った ”救世主” と言う言葉が気になった。なぜ自分が救世主なのか。

「『今から説明しますね。まず救世主って言うのは……』」

 撫子が説明しようとした瞬間ーー、

『ウーウーウーウーウーウー!』

「!?」

 警報が鳴り響いた。撫子が驚いた表情を浮かべた。その表情を見て雅は、首を傾げた。

 すると、撫子は慌てた様子で部屋を飛び出した。それに驚いた雅は慌てて撫子の後を追った。

「状況は?」

狼形(おおかみがた)の魔聴獣が三体、鯨形(くじらがた)鯱形(しゃちがた)の魔聴獣が五体ずつ、この基地に接近しています!」

「計十三体ですか……。しかもその内十体は大型……。宮紫々(みやしし)さんを呼んでください!」

「ワシならここに」

「宮紫々さん、いつもお願いして申し訳ないのですが……」

「大丈夫です。ワシは撫子様のお役に立つ事が何よりの喜びですから。チームを編成し直ちに出撃します。撫子様は状況分析を頼みます」

「はい。お気をつけて」

「えぇ! では行って参ります!」

 そう言って、ガタイのいい男ーー宮紫々 侍蔵(みやしし さむぞう)は戦場へと向って行った。

「私が ”指聴”(しき) に入ります。皆様は支援をお願いします」

『畏まりました!』

 撫子の無駄のない指示により、それぞれがそれぞれの役割を全うし始めた。

 それを見て雅は、何が起こっているのか分からずあたふたとしていた。


 ☆ ☆ ☆


「皆の者! 敵は十三体! その内十体は大型だ! 気を引き締めていけ!」

『おぉー!』

 侍蔵の言葉に、五人の武装した男達が声を上げる。

「では、参るぞ!」

『はっ!』

 侍蔵を含めた六人が、侵攻を開始している【魔聴獣】に向って行く。

『※※※※※※※※※!』

 十三体の【魔聴獣】達は、侍蔵達の姿をその目に捉えると、咆哮のような奇っ怪な音を発した。

「くっ……!? 【介助聴(かいじょき)】を着けていても鼓膜の奥に響いてくる! だが、撫子様が作られたのは性能がいいから耐えられる! 遅れはもう取らない! 【聴跡の刀剣(きせき とうけん)、顕現】いざ、参る!」

 侍蔵は、刀を抜刀するかのような構えをとり、腰に刀を出現させた。そしてそのまま抜刀。

「【聴跡を起こせ!剣真土水乱舞(けんしんどすいらんぶ)!】」

 侍蔵が【聴跡(きせき)】の力を使い【魔聴獣】を攻撃した。

剣真土水乱舞(けんしんどすいらんぶ)】は、刀を乱れ撃ちし、その切っ先から土と水を放出し攻撃する強力な技。

 しかしーー、

「【剣真土水乱舞】が効かない!?」

 十三体の【魔聴獣】には傷一つ付いておらず、止まらず侵攻してきている。

「くっ……この技が効かないとなると……」

『宮紫々さん』

「おっ、撫子様」

『連絡が遅くなり申し訳ございません。敵の戦力が把握できました。十体の魔聴獣は警戒レベル7に該当する(くらい)です。狼の魔聴獣は警戒レベル5の位。全てが上位の魔聴獣です』

「なるほど……道理でワシの【六級位(ろくきゅうい)】の技で倒せないはず」

『はい。おそらくですが【準五級(じゅんごきゅう)】もしくは【五級(ごきゅう)】の【位技(いぎ)】でなければ倒せないかもしれません』

「ですな……進言、痛み入ります!」

『いえ。無茶はしないでください』

「心得ました! 皆! ワシは今から【五級位】の【位技】を使う! それまで少しばかりの時間を稼いでくれ!」

『了解!』

 撫子からの通信を切った侍蔵は、後方に控えていた五人に指示を出す。それを受けた五人は前に出て武器を構え始めた。

「【聴跡の刀剣、聴跡の刀刃(とうは)、一点に力を集中させ奇跡の先にある聴跡を生み出せ。我が(しん)に潜む(しん)(しん)なる(しん)の力を引き出せ。この世にある全ての事象を聴跡の顕現により、理を覆せ! 聴跡を起こせ! 剣真流沈繚乱剣舞けんしんりゅうしんりょうらんけんぶ!】」

 侍蔵は、最初に放った技よりもより強力な技を放った。

 その技は、刀の()を水が流れるかの如く動かし、岩が土に身を隠すかの如く(やいば)を隠し敵に攻撃すると言うもの。

 その攻撃は十三体の魔聴獣に命中。果たしてーー。

「なっ!? 無傷だと!?」

 十三体の魔聴獣達には、傷一つ付いていなかった。まるで攻撃が ”届いていない” かのよう。

「なんと言うことだ……ワシの【五級位】の【位技】が効かんとは……」

 侍蔵だけでなく、その場にいた誰もが絶望した。攻撃が効かないとなると打つ手が何もない。

 と、全員が俯いている時ーー、

 キュュュュュュュュュュュュン!

 と、エネルギーか何かが一点に収束していくような音が鳴り響き始めた。

 全員がその音の発生源を見つけるべく、顔を上げる。

「なっ!?」

 その音の発生源はすぐ目の前にあった。

 鯨形、鯱形の魔聴獣十体が、口を大きく開き、砲撃の準備をしていた。

 目標はもちろん、侍蔵達だ。

『宮紫々さん、皆さん!! 退避を!!』

 通信機越しに、撫子が焦りを混じらせ叫ぶ。が、時すでに遅し。

『※※※※※※※!』

 十体の砲撃は放たれた。

 侍蔵達六人は、眩い閃光に包まれーーーーーーー。


 ☆ ☆ ☆


 時は僅かに遡り、侍蔵の【五級位】の【位技】が放たれる直前。

「宮紫々さんが【五級位】の【位技】を使用するみたいですね」

「えぇ。それなら倒せるはずなんです」

 撫子と眼鏡を掛けた男性ーー劉備が話していると、侍蔵の技が魔聴獣に直撃した。

『おぉ〜!』

 その瞬間、その場にいた者達が歓声を上げた。勝利したと思ったのだ。しかしーー、

「…………撫子様」

「えぇ……まだ終わってない」

 撫子と劉備、そして、ガタイが良く白髪が特徴的な男性ーー立原弁慶(たちはらべんけい)の三人が、気難しい表情を浮かべモニターを見つめている。そして、モニター越しに噴煙が晴れる。そこには傷一つ付いていない魔聴獣の姿が。

「やはり……次の策をーーっ!?」

 撫子が目を見開く。その訳は魔聴獣達がエネルギーを集め、侍蔵達を攻撃しようとしていたからだ。

「宮紫々さん、皆さん!! 退避を!!」

 撫子が叫ぶ。が、時すでに遅し。

 侍蔵達が眩い閃光に包まれてしまった。閃光のせいでモニターは何も見えなくなる。

「宮紫々さん!? 皆さん!?」

 撫子が取り乱し叫ぶ。

「撫子様落ち着いて! 今は状況の把握が必要です!弁慶!」

「おぅ! 行ってくるぜ!」

「お、お待ち下さい! 今行くのは危険です!」

「しかし撫子様、そうすると状況把握ができねぇですが……」

「そ、それはそうなのですが……」

 撫子は俯いた。どうすればいいのかが分からないからだ。そんな時ーー、

「ああああああああああああああああああああ!?」

「「「!?」」」

 雅が突然、泣き叫んだ。


 ★ ★ ★


(そんな……あの筋肉の多い人、死んじゃったの……? し、死ぬ……)

 雅の脳裏に、次々と倒れる人達、家族の姿がフラッシュバックする。

(あ、あ、あ、あ、あーーーーーーーーーーーーー)

「ああああああああああああああああああああ!?」

 雅はパニックになり、泣き叫んだ。

 その様子に、撫子達は驚きを隠せなかった。


 ☆ ☆ ☆


「ど、どうしたんすか!?」

「な、なんかパニックになってます!?」

 劉備と弁慶が驚きの声を上げる。

「大丈夫です、大丈夫です」

 パニックになっている雅を撫子が優しく抱きしめ、背中をさすってやる。それで少し落ち着きを取り戻したのか雅は、撫子の胸の中で呼吸を落ち着かせた。

「お、落ち着いたんですかい?」

「どうやらそのようですね……ですがなぜ突然……」

「おそらくですが、ご家族が亡くなっている光景を思い出してしまったのかもしれません……」

「「っ……」」

 撫子の言葉に二人は黙ってしまう。つい数時間前の出来事だ。それを簡単に忘れられるはずがない。しかも、今日始めてこの状況を知った素人が、だ。

 劉備達のような戦闘に慣れた者達ですら、家族を失った光景は脳裏に焼き付いている。

 二人はその事を思い出したのか、歯を食いしばり、力強く拳を握りしめていた。

「な、撫子様……」

 そんな時、パソコンを操作していた男性が、恐怖に引きつった声で撫子の名前を呼んだ。

「ど、どうしました……っ!?」

 撫子が男性の方を向くと、そこにはモニターがあり、そのモニターに十三体の魔聴獣が砲撃を放とうとしている姿が映っていた。

 砲撃発射まで、おそらく時間はあまり残されていない。何十分、いや、何分後か。

 撫子も劉備も弁慶も、諦めの境地に陥った。もう無理だと。

 しかしーー、

「ああああああああああああああああああああ!!」

「雅君!?」

 雅が部屋を飛び出して行ってしまった。

「あいつ、どこに!?」

 雅が飛び出して一分後、その答えはすぐに分かった。

「あ、あれ!?」

 劉備がモニターを指差すと、そこには十三体の魔聴獣と対峙する雅の姿が。

「雅君!? なんで!?」

「俺、行きます!」

「僕も!」

「私も行きます!」

 三人は雅の後を追い、外へと向った。


 ★ ★ ★


(ど、どうしよう……居ても立ってもいられなくなって勢いで飛び出して来ちゃったけど僕、どうすれば……)

 雅は震えていた。目の前(数メートルは離れている)には巨大な化け物達がこっちに攻撃を仕掛けようとしている真っ最中。なんの考えもなく飛び出してきてしまった。

(でも僕……あのまま大人しくなんてできなかった……! でも、僕じゃ何もできない……)

 雅は魔聴獣を見つめーー、

(父さんも母さんも姉さんも死んじゃった……だったら僕も、ここで……)

 雅は、至ってはいけない思考に至ってしまっていた。自らも死のうと。三人の後を追いかけようと。

 そんな雅に、魔聴獣達の砲撃が放たれる直前ーー、

 ドガァァァァァァァァァァァァァンッッ!!

 魔聴獣達が吹き飛んだ。

(え……?)

 俯かせていた顔を上げると、目の前には劉備、弁慶が立っておりーー、

(あ……)

 後ろから撫子が抱きしめてきた。

 雅が首を上げるとそこには撫子の顔があり、ゆっくりと唇が動く。

『無茶しちゃ、駄目でしょ』

 雅はそのまま泣き崩れてしまった。


 ☆ ☆ ☆


 雅が飛び出して行った後を追った三人。

 雅の姿を視界に捉えると劉備がーー、

「晴風君、なんか様子がおかしくありませんか?」

「あぁ。なんか全てを諦めてるかのような」

「まさか、ここで死のうと!?」

「「っ!?」」

 三人は慌てて走り出した。

「そんな事、させはせん!」

「君を死なせる訳にはいきません!」

「雅君、必ず助ける!」

 そしてーー、

「【聴跡を起こせ! アローズフェスティバル!】」

「【聴跡を起こせ! 二刀連爆煉戟にとうれんばくれんげき!】」

「【聴跡を起こせ! 幕進刀破(ばくしんとうは)!】」

 各々が【位技】を使用し、魔聴獣達を吹き飛ばした(倒せてはいない)。

 目を瞑る雅の前に立ち、守る体勢を取る二人。そして、後ろから雅を優しく抱きしめる撫子。

 雅が上を向いたので、撫子は目を合わせ、声には出さずに注意の言葉を述べる。

『無茶しちゃ、駄目でしょ』

 その瞬間、雅は泣き崩れてしまった。

「劉備さん、弁慶さん」

「おぅ! 後は任せてくだせぇ!」

「僕達があいつらをなんとかします!」

 そう言って二人は、魔聴獣達の元へと向って行った。

「くっ……うっ……」

「あっ! 宮紫々さん!」

 瓦礫に埋まった侍蔵が、瓦礫を退かそうともがいていた。

「待っててください! 今、退かします!」

 撫子が一生懸命、瓦礫を持ち上げようとしている。

 が、重たい瓦礫は全く持ち上がらない。

「撫子様、ご無理を、なさらないで、ください……ワシは、平気、ですので、そこの子を、守って、やってくだされ……」

 侍蔵は、胸を圧迫されているため、途切れ途切れに言葉を紡いだ。

「貴方を諦める訳にはいきません! 私はもう ”二度と” 誰も死なせたくないんです! んー!!」

 撫子は、瓦礫をなんとか持ち上げようと踏ん張る。が、撫子には力がない。よって、重たい瓦礫はビクともしない。そもそも力がある者でも、瓦礫を簡単に持ち上げられる訳はないが。

「撫子、様……ワシも、諦める、訳には、いきま、せんな! うおおおおおおおおお!!」

 侍蔵は、撫子が頑張っている姿に感化され、自らも瓦礫を退かそうと、先程よりも力を込めた。だが、やはり瓦礫はビクともしない。

「っと?」

 そんな時、急に瓦礫が軽くなり、侍蔵は体を動かせるようになった。

 侍蔵が不思議に思っていると、撫子が驚きの表情を浮かべているのに気が付く。

 その視線の先を見やると、そこに居たのはーー、

「っ!? は、晴風殿!?」

 雅だった。

 雅は自身の両手を見つめ、驚愕していた。


 ★ ★ ★


(ど、どうしよう……僕に何かできる事は? なにか、なにか……なにか!)

 雅がそう心で願うと、侍蔵にのしかかる瓦礫が軽くなった。

(え……? な、何……? 僕が何かしたの……? ぼ、僕が……?)

 雅は自身の両手を見て、驚愕している。

 自分が瓦礫を軽くしたのかと。自分にそんな事ができる力があるのかと。

 そんな力があるのならば、魔聴獣を倒せるのではないか。

(僕に力があるなら……!)

 雅は、劉備達が戦っている魔聴獣の方を向き、両手を(かざ)す。

(あの怪物達を倒せる何かを……!)

 そう願う。

(お願い……!)

 願う。

(お願い……!!)

 願い続ける。

 願い続けるが、何も起こらない。

(な、なんで……なんでなの……!? 僕に、僕に力があるんじゃないの……!?)

  雅は涙を浮かべる。

(やっぱり、僕は、僕には、僕じゃ何もできない……)

 雅はその場に崩れ落ちた。

「うっ、うわああああああああああああああ!?」

 雅は泣き叫んだ。

 後ろから撫子が抱きしめてくれるが、今回ばかりは泣き止まない。いや、泣き止めない。

 それだけ自分に力がないのが悔しいのだ。

 雅は泣き叫びながらーー、

(僕には、誰も、助けられない……)

 そう思うのだった。


 ☆ ☆ ☆


 撫子は雅の力に驚いていた。

(い、今のは一体……!? 突然雅君の体が金色に輝いたと思ったら、瓦礫が軽くなって……これは、雅君の力……?)

 そう考えているとーー、

(え? 雅君、何を?)

 雅が急に、魔聴獣に向って両手を翳しだした。

(凄く強く何かを願ってる……っ!? ど、どうしたの!? な、なんで突然泣き出して!?)

 撫子は、先程まで強く願っていた雅が、突然泣き崩れた事に驚いた。がーー、

「雅君!」

 戸惑い、ただ見つめるのではなくすぐさま行動し、雅を後ろから抱きしめる。先程まではこれで落ち着きを取り戻してくれていた。がーー、

(泣き止まない……落ち着いてくれない……それだけ、雅君の中で何かがあったんだ……今の私にできる事は……)

「【聴跡を起こせ、ホットリーチヒール】」

 撫子は【十級】の【位技】を使用した。

 それは、撫子のすぐそばにいる者達を癒やすと言うもの。

 本来は怪我を治す物なのだが、名前に『ホット』と付ける事で、精神に干渉する【位技】となる。

「お願い……落ち着いて……落ち着いてください……雅君……」

 撫子の頭撫でと【位技】が効いたのか、雅は落ち着きを取り戻し、そのまま眠ってしまった。

「よかった……」

 その瞬間、雅の胸の真ん中、丁度、鳩尾(みぞおち)の部分に、金色に輝く光りが薄く灯った。

「これは……」

 それを見逃さなかった撫子は、その光りの正体を思案するのだった。

 エピローグ

「…………っ。え……?」

 雅が魔聴獣に襲われた場所で、一人の女性が目を覚ました。

「何……? なんでみんな倒れてるの……? お母さん、お父さん!?」

 倒れている両親に駆け寄る女性。息がない事を確認するとーー、

「嘘でしょ……死んでる……!? なんで、なんで!? っ! そうだ、雅? 雅! 雅!?」

 一人の名前を呼ぶ女性。

 辺りをくまなく探すが、その人物はいない。それもそのはず。雅は撫子達とすでに移動してしまったから。

 が、そんな事を知らない女性は、辺りを探し続ける。と、何かが落ちているのを発見。女性はそれを拾うとすぐさまそれの正体に気が付く。

「これ、私があげた雅のブレスレット……雅、あなたはどこにいるの……?」

 女性はこの先、雅の捜索を行う事になるが、それが、途方もない旅になると言うことを、まだ知らない。

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