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役立たずと言われて冒険者を辞めようとしていた僕を拾ったのは、街で最強のパーティーでした。 08

 ネモフィラの特産といえば果実酒で、最上級品は王宮にも献上されていた。

 作るだけでなく酒好きも相応に多く、朝早くから千鳥足の酔っぱらいを見掛けるほどだ。果実酒の原料の果実全般は深夜から早朝にかけて収穫するので、昼夜逆転の生活をしている農民が多いのも一因だろう。収穫してすぐに醸造所へ引き渡して、醸造所は一日かけてヘタや茎などを取りのぞいて発酵樽へ移していく。新鮮なうちに加工したい醸造所のせいで、日が昇るまでに収穫を済ませないといけない。

 ネモフィラの中心地は栄えているものの、農地が多く土地も広いため少しでも離れれば途端に寂れてしまう。そんな寂れた郊外の、さらに迷路のような路地の一角に、ドワーフの腹鼓は店を構えていた。

 店先に吊るしたタペストリーは、見るも無残にぽろぽろにちぎれ、染みや汚れもひどい。風が吹けば、枯葉のように飛んでいきそうなタペストリーを吊るしたドワーフの腹鼓は、空席がないほどに繁盛していた。

 二〇脚のイスを埋め尽くすのは、農作業で鍛えられた屈強な農民たち。

 地声が大きいくせに、となりのテーブルに負けないように声を張り上げて話すものだから、騒々しいことこのうえない。

「果実酒を三杯といつものだ」

 午前八時半。収穫を終えたばかりの汗臭い農夫三人が、席が空いたとみるや食い散らかしたままのテーブルに着いて、水代わりの果実酒と料理を注文した。暗いうちから腰にランタンを吊るしてサルタナを収穫していた三人は、おなじ畑で働く気心の知れた者同士。注文を済ませるとすぐ、大声で雑談を始めた。

 ネモフィラは果実酒の産地ということもあり、ほとんどの食事処で酒も提供していた。

「はーい、果実酒はワインが二杯、シードルが一杯。料理は猪の香草焼きと煮込み、鳥の塩蒸ですね」

 黄金髪と碧眼の少年、ウルエはテーブルを片付けながら雑談に割り込むように大声で注文を確認した。農民の多くは文字の読み書きが出来ないため、メニューを書いた一覧などはなく口頭で注文するのだが、料理名も知らなくて「いつもの」「となりのテーブルのあれ」などで注文した。

 つまり「おう」「たぶんそれだ」「よくわからんが、いつも注文してるやつだ、新入り」と注文を確認したところで、正解かはわからない。

「はーい、たぶん合ってると思うので、準備しまーす」

 フリッサと仮想戦闘をした翌日に、ウルエはハルジオンに別れを告げて、いくつかの街を経由したのちネモフィラにたどり着いて暮らし始めた。

 食事処、ドワーフの腹鼓で働き始めて一〇日目。

 はじめの数日は「注文と違う」と怒鳴られたり、テーブルからはみでた蟹股の客の足に躓いて料理をひっくり返すこともあった。ドワーフの腹鼓では新人が入れば恒例のことで、忙しいわ怒られるわで新入りは慣れるまえに辞めていく。一〇日続くことは稀なのだが、ハルジオンで散々役立たずと言われてきたウルエからすれば、多少怒られた程度は気にもならない。さらにおなじ失敗をしないのがウルエだ。すっかり馴染んでいた。

 テーブルから回収した皿や木製のコップを水桶に入れながら、となりで料理をしている店主のゴドルフに声を掛けた。

「注文で、猪の香草焼きと煮込み、鳥の塩蒸を各一皿」

「おう」

 ゴドルフの短い返事のあとに、ウルエは思い出したように付け加えた。

「鳥のチーズ焼きが、そろそろ追加で入ると思います」

 未来を予言したような台詞に、フライパンを振っていたゴドルフの手が止まり、髭面の四角い顔がウルエのほうを向く。腰が竦みそうになるほど強面なゴドルフは、見た目と違い、気が利いて人好きのする性格だ。

「どういうことだ」

 低い声で尋ねられて、ウルエは臆することなく答えた。

「いつも鳥のチーズ焼きを二皿注文する人がいるんだけど、一皿目を食べ終えてから注文するんです。ほら、チーズは冷えて固まると美味しくないから。そろそろ一皿目が空くのが見えたので、注文が入ると――」

「おい、新入り。注文の追加だ。ほら、あれ。いつもの。……ああ、鳥のチーズ焼きとかいうやつだ」

 思います、とウルエの言葉が終わるまえにフロアから大声で注文が入った。ほらね、というようにウルエが微苦笑を浮かべて、ゴドルフは大きく目を見張った。

 仮想戦闘は、膨大な知識の記憶、魔獣の動きなどを予測しておこなう。

 ドワーフの腹鼓で働くのもおなじで、だれがなんのメニューを頼んだかなどの情報を記憶して、次にどんな注文が来るのかまでウルエは予測していた。予測も九割は当たり、そのたびにゴドルフを驚かせた。

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