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役立たずと言われて冒険者を辞めようとしていた僕を拾ったのは、街で最強のパーティーでした。 72

 ゴーレムを群青の球体が包んでいく。

 フリッサは群青の正体に気づかず、首を傾げていた。魔導壁は本来、幕のように薄く張られるものだから。

「あれは」

「魔導壁ですよ、ハルジオンに暮らす人たちの」

 群青になるまで重ねられた魔導壁に、フリッサは息を呑んで言葉を失う。黒炎の魔導攻撃に呑み込まれて、魔導壁は彗星が尾を引くように、青白いエーテルの尾を引きながら落ちていく。ハルジオンの未来を託して。

 人々の思いを乗せたゴーレムと最強の魔獣の抵抗。

 エストックを突き立てて、上からゴーレムを落とす。こんな馬鹿げた作戦を考えるのは、ウルエくらいだろう。でも、勝てない、とフリッサは思う。魔導攻撃をエーテルに変換しても、ゴーレムはコントロールを失い、素材へ戻されるから。

 パメラは歯を食いしばり、エーテル嵐の中、ゴーレムの形を必死に保とうとしていた。

「綺麗ですね」

 フリッサはちからを抜いて、ウルエに体を預けた。

 夜空を翔けていく彗星のように、美しい魔導壁のひかり。フリッサの危惧したように、魔導壁の中心でゴーレムの影は次第に崩れていく。いくらエーテルコントロールに長けていても、形すら保てない。右手が吹き飛んで、左足が掻き消えて、頭部が消滅した。

 希望が消え去るように、ゴーレムは蒸発するように消えていく。

「わたしたちの、負けですね」

「いいえ」

 フリッサの言葉をウルエは否定した。

 瞼を閉じようとしていたフリッサは、あらためて魔導壁の群青を見詰めた。ゴーレムを構成していた砂は消え去り、それなのに消えない影を見つけた。ゴーレムの中へ入れていた、一〇〇〇〇〇キログラムのアダマス鋼。

「僕たちの勝利です」

 アダマス鋼はハルジオンの人々の魔導壁に守られながら、漆黒のドラゴンへ迫り、接触した瞬間に大地を穿つような破砕音が轟いて、衝撃波のようにエーテルの風が吹く。晴天を曇らすほど大量の砂が巻き上げられていた。

 いくら全身が硬化していようと、関係ないほどの大質量攻撃。

 エストックを突き刺すだけでは飽き足らず、漆黒のドラゴンの頭部ごと一〇メートルほどの大穴を地面にあけた。ドラゴンの四肢はぴくりとも動かず、あたりは静寂に包まれた。

 ドラゴンの一番近くにいたシャルクスは、砂と一緒に巻き上げられて、砂山の中から顔を出すと「勝てた、んだよな」と人知れず呟く。

「ええ、どうやら勝てたみたい」

 答えたのはルーデシア。癖毛の髪もローブも砂をかぶり、手で叩き落とす。

 パメラは「お姉さま―」と叫びながらルーデシアへ駆け寄り、ルーデシアの顔が一瞬恐怖に歪んだ。避けようかとも考えたけれど、愛しい妹を受け止めるように手を広げた。

「……ごふ!」

 パメラが抱き着いた瞬間、人の口から出てはいけない類の声が漏れた。見事に突進を決めたパメラは、口から泡を吹くルーデシアに馬乗りになり青ざめた。

「お、お姉さま、ごめんなさい、死なないで」

「……死んで、ないわよ」

 慌てふためくパメラ。ルーデシアは苦しそうに返して、ゲホゲホ、と咳き込んだ。

 臆病なパメラなら、ウルエを連れて逃げてくれると信じて遺言を託したのに、ここまで助けにきてくれた。怖くないはずがない。だからこそ抱擁を避けたくなかった。

「奇跡、起こしたよ」と呟いて、ウルエは気を失う。フリッサは驚いたものの、ウルエの口から寝息がきこえて頬を緩めた。今日まで睡眠時間を削り、作戦の精度を高めていた。勝負に絶対はなくても、勝率を高めて絶対に近づけることは出来るのだから。

「うん、お疲れさま」

 フリッサは目を細めて愛しそうにウルエの頬へ触れた。

 はるかな昔に滅ぼされたティルターンゲリ王国。数百年の時を経て、王国の遺児たちにより復讐は果たされた。

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