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役立たずと言われて冒険者を辞めようとしていた僕を拾ったのは、街で最強のパーティーでした。 67

 征戦当日の朝、午前八時。

 静かなギルドの通路をアイギスの三人は肩を並べて歩いていく。漆黒のドラゴンが現れてから依頼の受注は一気に減り、ここしばらくギルドは閑散としていた。ハルジオンの街から進路を変えて漆黒のドラゴンの脅威がすぎ去れば、いつもの活気も戻るだろう。

 三人の中心を歩いていた軽戦士の女性、フリッサは重く沈むような息を吐いて、腰の武器に手を添えた。黒くエーテル変色した逆鱗のエストックは、手に馴染まない。ギルドから支給されたエストックは、漆黒のドラゴンを討伐可能な唯一の武器という。

「討伐依頼でもないのに、こんなものを用意していたなんて」

 人類に用意できるであろう最高の武器には違いないけれど、役に立つとは思えない。ギルドからの依頼は、討伐ではなく進路を変えることだ。人知の及ばない相手に、ギルドも討伐を諦めて進路を変えるように依頼を出した。

「こんなものよりも」

 フリッサは呟いて、武器に触れていた手を今度は銀髪へ添えた。

 いつもは紐で縛りシニヨンに纏めていた髪を、今日はハルジオンの花のマジェステで留めていた。こつん、と指先に触れて、フリッサは柔らかく笑う。あと数時間で尽きてしまう命なのに、愛しい人のことを思うだけで幸せになれた。

 いつも依頼のときは二日酔いのルーデシアも、今日ばかりは素面だ。いつものローブではなく、駆け出しの頃に愛用していたローブに身を包んでいた。シャルクスは普段の爽やかで軽薄な笑顔ではなく、精悍な顔つきをしていた。

 生きて帰ることのない依頼。でも、不思議と心は落ち着いていた。

 一緒に死地へ赴く仲間を頼もしく思いながら、フリッサは歩みを進めていく。

 広々とした部屋、ギルドフロントに着いても静けさは変わらない。壁に掛けられた木板に貼られていた依頼の羊皮紙は、受注されないまま重なり合う。

 ギルドフロントの大扉を抜けて、ハルジオン広場に出ると一気に明るさが増す。広場を埋め尽くすほどの人々。いつもなら大扉からアイギスの人影が見えた瞬間に歓声がわくのに、今は足音すら聞こえそうなほど静かだ。

 もしも進路を変えられなければ、近いうちにハルジオンの街は地図から消えるだろう。ここに居るのは、ハルジオンと命運を共にすると決めて、未来を三人のアイギスに託した人たち。アイギスの覚悟を心に刻むように、三人の英雄を静かに見詰めていた。

 フリッサは噴水のあたりで足を止めて、目を細めて凱旋通りを見据えた。

 店先に吊るされたタペストリーはアイギスの紋章に統一されて、こちらにも住人の見送りの列が出来ていた。住人からの温かな声援はなく、三人の足音だけが響く。

 ふいに、手を叩く音がした。

 静寂を破り、どこまでも響いていく拍手の音は、吹き抜けていく風よりも早く広がり、一拍のうちに万雷の拍手となりアイギスを包み込んだ。死地へ赴く英雄へ手向けられた、至高の賛美。どんな言葉よりも温かな拍手に、フリッサの頬を涙が伝う。アイギスに任命されたことを心から誇りに思う。涙を拭うこともなく、前だけを向いて、フリッサは歩いた。

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