役立たずと言われて冒険者を辞めようとしていた僕を拾ったのは、街で最強のパーティーでした。 58
――生きてください、わたしたちの代わりに。
フリッサの言葉は、パメラの心を締めつけて耳鳴りのように反響していく。わたしたちとは、ハルジオンの楯。フリッサ、シャルクス、あとひとりは――。
「……お姉さま」
呟いた声に導かれるように、涙の滴がこぼれた。
ルーデシアとの出会いは、決していい思い出とはいえない。幼馴染の青年と将来アイギスになりたいと夢を抱いていた少女、グルズとアキュリス。仲間が殺されて、無抵抗なパメラに牙が向けられたときに、ルーデシアが助けてくれた。
命の恩人を慕うことで、欠けた心の穴を埋めようとしていたのかもしれない。
仲間を失った悲しみを誤魔化そうとしていたのかもしれない。
ニリリのもとへ身を寄せたのも、アキュリスの父親と一緒に暮らすことで、仲間を見捨てた罪を償いたいと考えていたからだ。ひとりだけ生き延びたという罪を――。
衝撃から立ち直れないまま広場から人波に呑まれるように押し出されて、ふらふらと歩いているうちに住居へ戻り、知らないうちにウルエの部屋のまえにいた。
「ウルエは、どうするんだろう」
一緒に暮らし始めたばかりの頃は、よく面倒を見ていた弟のような存在。でも今は、意識して距離を置いていた。ウルエがアイギスを目指すと口にしたときに、はじめの頃は冗談と笑えた。でも今は本気だとわかるから。部屋に散らかされた書き損じの羊皮紙を見て、生活費に充てたほうがいいのに、と胸中で呆れた。でも今は、あの一枚一枚にどんな意味が込められていたのか、たとえ文字が読めなくてもわかるから。
「わたしとは、違うから」
だからこそ、意識して遠ざけていた。
ウルエのことを同類だと勝手に親しみを覚えて世話を焼いていたのに、違うと感じてからは勝手に離れていく。あまりにも身勝手だ。強くなりたい、変われるなら変わりたい、と願いながらもパメラは足踏みをして臆病なまま変わらない。
「お姉さまを失うかもしれない。だから今度はウルエに縋ろうなんて」
アイギスの仲間だったウルエなら、ルーデシアを失う悲しみを共有できるから。勝手に離れたくせに、独りになりたくない一心で今度は近づこうなんて、本当に都合がいい。
ウルエの部屋をノックして、しばらく返事がないのを確認してから扉をひらく。
窓掛けのおろされた、薄暗い部屋。床に散乱した大量の羊皮紙に、羊皮紙のうえを転がるようにしぶきを描いたインクボトル。羊皮紙特有の臭いよりも強烈なインクの臭い。インクの飛沫は部屋中に飛び散り、窓掛けや壁、天井にまで飛んでいた。
「ウルエは、知ってたんだ。……漆黒のドラゴンのこと」
荒れ果てた部屋は、ウルエの心の内側を表しているように思えた。アイギスを助けたくて必死で考えて、でも、いくら考えても倒す作戦が見つからなくて。部屋の有様から、ウルエの気持ちが手に取るようにわかった。
部屋の主のウルエは、机に頬をつけて寝息を吐いていた。
疲れ果てて寝ているのだろう。パメラは足音を立てないようにベッドへ近づいてブランケットを手にとり、ウルエの肩に静かにかけた。もう一度ベッドへ近づいて、ベッドの段差に腰をおろす。
「ウルエは、わたしと一緒に逃げてくれるよね」
ウルエの寝顔を眺めながら、パメラは小さな声で尋ねた。もちろん返事はないけれど、パメラは安心したように微笑して瞼を閉じた。ルーデシアを止めることは出来なくても、独りになるわけじゃない。




