役立たずと言われて冒険者を辞めようとしていた僕を拾ったのは、街で最強のパーティーでした。 47
ウルエの部屋をノックして、どうせ寝ているだろうから返事は待たずに扉をひらく。窓掛けのおろされた、薄暗い部屋。羊皮紙特有の温かな獣臭にパメラは眉根を寄せた。
風魔導を操り、窓掛けを捲り上げていく。
「また、こんなに散らかして」
窓からの日射しは、床に散乱した大量の羊皮紙を照らしだす。どうやら書き損じたものらしい。文字の先から蛇が這うように書かれていれば、読めないパメラでも書き損じたのだと判断がついた。床に散乱した書き損じの枚数は、もしかしたら一〇〇枚に届くかもしれない。
読み書きできれば職に困らないはずなのに、ウルエは働こうとしない。パメラが連れ出さなければ部屋から出ることもなく、一日中、なにかを書いてはインクと羊皮紙を大量に消費するだけの日々。
「羊皮紙一枚で、一日の生活費なのに」
「……ん、うん」
パメラの愚痴に、部屋の主は眠そうな呻き声で返事した。
跳ねのけていたブランケットを手探りで見つけて、日射しから逃れるように頭にかぶせていく。しばらくして、規則的な寝息が聞こえてきた。
「ウルエ、朝食にいくわよ」
刺々しい口調とは裏腹に、優しく肩をゆすり起こす。
パメラが面倒を見なければ、ウルエは薄暗くて風通しの悪い部屋から一歩も出ない。食事も片手にペン、片手に乾燥肉で済ませてしまう。強引にでも連れ出して一緒に食事を摂るのは、ここ最近のパメラの日課だ。
「……ふあい」
欠伸と一緒に返事。
「はやく着替えなさいよ」
パメラはもぞもぞ動くブランケットに一声かけてから退室した。
純白のローブにフードをかぶり、いつもの恰好でウルエは凱旋通りを歩いていた。時折、眠そうに欠伸しては「夜更かしするから」と呆れ顔のパメラから小言が飛んできた。
「あんたの恰好、暑苦しい。フードくらい脱ぎなさいよ」
純白のローブは、元々はルーデシアのローブ。ウルエとルーデシアの背格好はおなじくらいで、フードで顔が見えないと妙に意識してしまう。暑苦しいよりも、落ち着かない。ウルエの顔が見えたら、意識しないで済むのに、と胸中では思いながらパメラはフードに手を置いた。
「あんたの顔なんて、だれも覚えてないから」
絹よりも滑らかなフードを脱がしていく。
今まで我慢していたのは、パーティーを抜けたとはいえウルエに悪感情を抱く人は多く、荒波を立てたくないなら顔は見えないほうがいい。パメラも襲撃した罪悪感から面倒を見ているだけで、ウルエのだらしないところや大言壮語なところは好きになれない。
パーティーを抜けてから二〇日。
だれも覚えていない。パメラの読みは正しくて、一度は風化していた。でも今は、ハルジオンの街はウルエの話題でもちきりだ。
「ほらね、ウルエのことなんて、だれも覚えて――」
パメラが言い終わるまえに、ウルエに視線が集中した。
前後左右からウルエを包囲して、二〇人ほどの人波はパメラを押しのけるとウルエを呑み込んでいく。
パメラの頬を冷たい汗が流れた。
あんたの顔なんて、だれも覚えてないから。そう高を括り、フードを脱がせた。ハルジオンの人々は、ウルエを忘れていない。ウルエを許していない。
助けないと――。
原因を作り出しておきながら、知らない顔して逃げるわけにもいかない。
パメラは押し出された人波に突進して、もまれながらもウルエの横を確保すると周りの人たちを睨みつけた。取り囲んだ人たちの大半は冒険者らしく、体も屈強なら、睨みつけたところで怯んだりしない。反対にパメラは涙目だ。
「あんたら、ウルエをどうする気よ」
刺々しくも震えた声。暑くないのに汗が止まらない。
「どうするもこうするも、魔獣のことで質問したいだけなんだが」
「おれたちもそうだよ。魔獣討伐は命懸けだからな、ギルド職員の説明だけだと不安なんだ」
「ウルエから直接作戦を説明して貰えば、どんな魔獣にも負ける気はしないから」
パメラは唾を飛ばしながら「そんなこと、させな――」と、がなり立てたところで「……へ」と気の抜けた声をだす。取り囲んだ人たちの目もとは穏やかで友好的。安心したとたん足からちからが抜けて、地面にへたり込むと呆然とウルエを見上げた。
「……どういうこと?」
ウルエは一日のほとんどを部屋ですごして、外出のときはパメラも一緒にいた。ウルエの一番近くにいたからこそ、周りの変化が不可解でならない。




