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役立たずと言われて冒険者を辞めようとしていた僕を拾ったのは、街で最強のパーティーでした。 45

 ローブに着替え終えて三部屋並んだ狭い通路を抜けると、部屋とおなじくらいの広さのホールにでた。来客を持て成すためのホールで、テーブルにキャンドルスタンド、向かい合うようにソファーが置いてあり、ソファーに凭れていたパメラは柳眉を逆立てて「遅い」と文句を言う。

「ほら、いくわよ」

 強気の口調は相変わらず。でも、意外と面倒見はいいのかもしれない。はじめより苦手意識は薄れていた。

 ニリリの住宅からハルジオン広場は目と鼻の先にあり、外へ出ると、広場のほうから声を殺したような騒めきが聞こえてきた。賃貸宿からニリリの住宅に移り住んだのは、ギルドマスターからの提案だ。ギルドから近いこと、ギルド務めの医者なので、健康管理、連絡役に最適らしく賃料はギルドで負担すという契約を交わした。

 ハルジオン広場は、露店市とは比較にならないほど多くの人で溢れていた。

 アイギスの見送りは、街全体で盛大におこなう。……とはいえ依頼命令の度にあるので珍しいものではなく、迷惑な顔をされるのを我慢すれば遅れても一番前で見られた。ウルエは顔を見られないようにフードをかぶり、パメラに掴まれた手首を引き摺られるように歩いていく。

 パメラは「すみません、一番前で見たいんです。開けてください」と迷惑顔の集中砲火を浴びながらも平然と進んで、目的の最前列に到着すると小柄なウルエを前に立たせて、背後からウルエの肩に手を置いた。

 ギルドから凱旋通りまで綺麗に人垣が割れていて、ギルドからアイギスが現れるのを待ちわびるように、みんなギルドの大扉ばかりに注目していた。ウルエもおなじように大扉をフードの奥から眺めた。

 しばらくして三人の人影が現れると、水が沸騰するように、人々の歓声が一気に広がり地鳴りのように響く。フリッサ様、シャルクス様、ルーデシア様――三人の名前を合唱のように交代に繰り返して、ウルエも仲間の名前を声が嗄れるほど大きく叫んでいた。

 フリッサ、シャルクス、ルーデシア。

 二日寝ないでスコルとハティの情報と作戦を羊皮紙に書き出したのは、ひとりも欠けてほしくないから。一緒に戦えなくても、ちからになりたい。不意打ちや不利な状況でも勝てるように作戦を捻りだして、手が痛くなれば反対の手で書いて、命を削りながら書いた。そうまでしたのは、三人の仲間のためだ。

 ウルエの目のまえを通りすぎていく。

 フリッサ、シャルクス、ルーデシア――いくら大声を出しても、歓声に呑み込まれてしまう。アイギスの見送りは無数にいて、ウルエは無数の見送りのひとりにすぎない。仲間に声援が届くことも、目が合うこともない。

 命と引き換えにしても守りたいものを見つけた。君を守るために戦う。

 ウルエのために戦うと誓いを立てたフリッサ。フリッサのすぐ近くに居るはずなのに、ウルエからは見えていても、フリッサからは見えていない。一度も視線は交わらず、三人は凱旋通りへ進んでいく。

「……もう一度、僕を見てほしい」

 ハルジオン公園から段々とひと気が消えていく。日常を取り戻していく。

 いつまでも見送りのところから動こうとしないウルエに、パメラは優しく諭すように声をかけた。

「アイギスは普通の人とは違うのよ、目指してなれるようなものでもない。本来なら手も届かないほど遠い人なの。あんたのようになにかの間違いで仲間になれても、反感を買うだけ。あんたやわたしとは、もとの出来から違うんだから」

 アイギスは街で最強のパーティー。

 数えきれないほど魔獣との死闘を乗り越えて、その末に選ばれるものだ。パーティーを組まなくても中位魔獣を倒せるだけの腕がなければ話にならない。ウルエ単独では低位魔獣さえ倒せない。

「かもしれません。これだけの歓声を浴びるのは、普通の人には無理だから」

 本来なら手の届かないほど遠い人――なんて、パメラに言われるまでもない。はじめは正体を知らないからこそ気楽に話せて、知識の武器を唯一認めてくれた人だから。アイギスなんて関係ない。他の人とパーティーを組むなんて考えられない。

「でも、諦めません。もう一度、今度はアイギスに任命されて、パーティーに入れてもらうから」

 ウルエの宣言に、怖いもの知らずとでも言いたそうにパメラは肩を竦めた。

「普段は部屋から出なくて、丸一日も眠りこけてた癖に、口だけは一端なんだから。目指すなら、せめて素振りくらいしなさいよ。魔導の才能はないんだから」

「剣の才能もありませんよ」

 ウルエの言葉に、パメラは吹き出すように笑う。

「剣も魔導も駄目で、どうしてアイギスになれると思うのよ」

 くすくす、肩を揺らすパメラに、ウルエは頬を膨らませて「僕なりの作戦があるんです。アイギス目指して、今日も部屋に引きこもるぞー」と、お道化るように宣言した。

「引きこもるまえに、朝食でしょう。丸一日、寝てて食べてないんだから」

 逃げられないようにパメラに手首を掴まれて、食事処まで引き摺られていく。

 アイギスを目指すという話をパメラは本気にしていないのだろう。実績はもちろん、アイギスになるにはアイギスメンバー全員からの同意が必要だ。フリッサからも同意を貰わないといけない。

 難しいとは思う。でも、無理じゃない。

 フリッサにアイギスを目指すと伝えたときから、ウルエの気持ちは変わらない。

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