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役立たずと言われて冒険者を辞めようとしていた僕を拾ったのは、街で最強のパーティーでした。 42

 夢から覚めて一番に感じるのは、濡れるほど掻いた汗の気持ち悪さ。

「なんなのよ、もう、毎日毎日……」

 最悪の目覚めに、パメラは眉間にしわを寄せて愚痴を吐く。ウルエをゴーレムで襲撃したのは、三日前のこと。あの日から今日まで、パメラはおなじ夢を見ていた。過去の記憶をなぞるだけの悪夢。

 パメラは起き上がり、ドレッサーに置いていた紙袋から親指ほどのパンくずを取りだす。ドレッサーの鏡のふちにネームプレートがあり、アキュリスと書かれていた。アイギスになりたいと夢を抱いていた少女の名前。パメラは指先でネームプレートをなぞり、小さく息を吐く。

 パメラは少女の部屋を借りて、少女の父親とふたりで暮らしていた。

 胸もとの乱れたワンピースの寝間着のまま、パンくずを片手に部屋からでた。板張りの通路は大股で一歩と横幅はあまりなく、入口手前から少女の父親のニリリの部屋、パメラの部屋、空き部屋と三部屋並んでいて、最奥に出窓が設置されていた。

 空き部屋のまえを通り、出窓から射し込んだ四角い日影を踏んで、窓台に置かれていた小皿にパンくずを細かくして入れていく。窓の外には、小鳥が三羽、はやくはやくと急かすように囀り「はいはい」とパメラは笑う。

 パンくずを入れ終えて、窓を開いた瞬間、我先にと三羽の小鳥が飛び込んできた。

 パメラは窓台に腕を組むように乗せて、食事中の小鳥たちを眺めながら夢のことを思い返していた。

 グルズ、アキュリス、パメラの三人組パーティーは、あの日、スコル討伐依頼で草原にいた。スコルの討伐は三度目で、個体は大きいものの討伐可能と踏んで依頼を受けた。はじめに異変に気づいたのは、アキュリスだ。スコルの毛色は黒のはずなのに、僅かに青い。よくよく見れば、スコルの毛色と僅かに違う。紺青の毛、スコルにしては大きな個体。

 個体差――もしくは、最悪の間違い。

 フェンリル、とグルズは忌々しそうに呟いた。

 スコルとフェンリルの報酬額は一〇倍も違う。幼体のフェンリルでもスコルの数倍は高額だ。報酬額が高いということは、討伐難度もおなじだけ高いということ。はじめて感じた命の危機。

 上等、わたしたちなら勝てるわ、とアキュリスは剣先を震わせながらも奮起した。

 明らかに格上の相手に、戦意喪失していたのはパメラだけだ。パメラは草原へ座り込んで、短く立てた茶髪の幼馴染と金髪をなびかせて剣を振るう少女の背中を眺めていた。

 パメラの魔導があれば、勝機はあったかもしれない。

 パメラはただ、仲間の殺されていくところを、チャコールグレーの瞳で見ていた。瞬きすらもせずに、早々に戦うことを諦めて。

 ルーデシアに助けられたのは、偶然というより蓋然で、一番大きな要因は近くで成体のフェンリルも目撃されて討伐依頼が出されていたこと。幼体のフェンリルの親だろう。きちんと他の依頼も確認していれば、フェンリルとかちあう可能性から、スコル討伐の依頼は避けていた。無関係な依頼だと決めつけて目を通さない。慣れてきた頃にありがちな、確認不足のミス。

 ルーデシアは仲間とフェンリルを討伐した帰りに、殺されかけていたパメラを見つけて、幼体のフェンリルを魔導攻撃一発で仕留めてみせた。

「……役立たず、か」

 くもり空を眺めながら、ひとり呟く。

 ゴーレムで襲撃した次の日に、ウルエはパーティーを抜けたらしい。こちらも友人情報だ。ウルエ、ウルエと騒がしいハルジオンの街も、一〇日もすれば、ウルエという名前を口にする人さえいなくなるだろう。前任のアイギスの名前を半数の人が忘れているように、ウルエの名前も記憶のかなたへ消えていく。

「でも、わたしは忘れないんだろうな」

 小鳥に指を伸ばす。食事の邪魔をしないように、喉のあたりを優しく撫でた。

「本当の役立たずは、わたし。肝心なときに動けないで、仲間を見殺しにして……。ウルエをわたしに重ねてた。役立たずだから、わたしのように仲間を殺すはずだ、なんて決めつけて、ひどいことして、最低だ」

 懺悔のようにパメラは心の内側を吐露していく。

 仲間を殺された日から、非討伐依頼を受けるようになり、魔獣討伐にまるで使えないゴーレム魔導ばかり鍛えた。ゴーレム魔導はなにかと便利で、使いこなせば仕事に困らない。幸いにもエーテルコントロールの才能があり、今ではパメラ指名で依頼も入るくらいだ。

「わからないよね、わたしの言葉なんて。……ねえ、ピヨ、ピヨピヨ、ピーヨ」

 名前を呼ぶと、戯れるように指先へ擦りつく。

 ふふ、と微かに笑い、パメラは「ピヨピヨ」とさよならの挨拶をして振り返り、とたんに硬直した。通路の入口に木箱を抱えた、金髪碧眼の少年がいたからだ。

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