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役立たずと言われて冒険者を辞めようとしていた僕を拾ったのは、街で最強のパーティーでした。 41

 草原に朱色の塗料を撒き散らしたように、仲間の命がみどりを点々と染めていた。四肢を引き裂かれた死体は、もう、どちらがどちらのものかもわからない。

 雲のない空から、のどかな日射しが注いでいた。柔らかな風が草木を撫でるように揺らして、どこからともなく小鳥の囀りが響く。なにもかも平穏そのものなのに、パメラの目に映るのは地獄の風景。柔らかな風が運んでくるのは、死んだばかりの仲間の催すような悪臭。耳に届くのは魔獣の息遣い。パメラは恐怖で逃げ出すこともできず、殺されるのを待つように草原にへたり込んでいた。

 また、この夢だ。

 死臭は嗅覚で感じているのでなく、記憶の作り出した幻嗅でしかない。

「……ころ、殺さない、でえ」

 声は情けなく裏返り、掠れていた。

 命乞いなんて意味がない。魔獣に言葉が通じるわけもなく、殺意の双眸がパメラへ向く。かちかちと歯が鳴り、温かな恐怖がじわりと股間を濡らした。

「……も、もう、いいで、しょう。グルズもアキュリスもたべてい、いいから。殺さ、さないでよ」

 グルズ、アキュリス――幼馴染の青年、将来はアイギスになりたいと夢を抱いていた少女。仲間が殺された怒りよりも、恐怖が心を支配していた。

 もしもここに残されたのがグルズなら、アキュリスなら殺された仲間の仇を取ろうと勇敢に立ち向かうだろう。言葉の通じない相手に命乞いするような臆病者はパメラしかいない。

 罵られてもいい、笑われてもいい。生き残りたい、死にたくない。

 あのときの気持ちが、逃れられない影のように纏わりついて、夢と現実を曖昧にしていく。魔獣はパメラを嘲笑うように緩慢に口をあけて、唾液と血の粘液が牙を伝い、噎せ返りそうな息がパメラを包み込んだ。青空を突然の雨雲が侵すように、魔獣の口が空に蓋をした。

 頭上から雨のように、ぬめりと粘液が落ちて頬に纏わりつく。

 パメラは呆然と大きな口を見上げたまま、ぽろぽろ涙を流しながら――殺さないで、殺さないで、殺さないで――と声にならない命乞いを繰り返して……。

 そのときだ。

 なんの前触れもなく、空が晴れた。

 魔獣の口が消えて、夢から覚めるように眩しいくらいの日射しが注ぐ。

「ごめんね。仲間の仇を横取りしたけど、怒んないでよ」

 あなたのパンを食べた、あなたの服を借りた。喧嘩にもならないような些細なことを詫びるような気軽さで彼女は謝り、日射しを遮るようにパメラのまえに立ち手を差しだす。

 パメラは呆然と彼女を観察していた。

 上手く状況が整理できずに、助けられた実感すら湧いてこない。

 ローブを着た小柄な魔導士。肩口で揃えられた癖毛は左右で白黒、瞳は鮮やかな紫色をしていた。幻想的な外見はエーテル変色の証、天才魔導士の証拠。

 小柄な魔導士は差し出していた手をパメラの頭へ乗せて、撫でながら不器用に笑う。

「もう、大丈夫よ」

 大丈夫、彼女の一言でようやく理解できた。

 熱い、まるで頬を焼くように熱い涙が流れていく。今ほど生きていると実感したことはない。小柄な魔導士の腰に抱き着いて、パメラは大声をあげて泣き叫んだ。小さな手のひらは泣き止むまでパメラの頭を撫でていた。

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