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役立たずと言われて冒険者を辞めようとしていた僕を拾ったのは、街で最強のパーティーでした。 39

 パメラを引き摺りながら凱旋通りを抜けて、たどり着いたのはルーデシアの舘。扉をノックしてから、しばらくして現れた天才魔導士はエーテル変色した紫眼を大きくひらいて、変装したフリッサを驚きながら見ていた。

 フリッサは死んでから三日くらいの目をしたパメラのフードを掴んだまま空咳をして、いつもよりも声高に事の顛末を説明していく。ルーデシアは相槌を打ちながら、まるで違うことを考えていた。

 アイギスの訓練のあとのこと。ウルエの恋人らしい魔導士のことを、フリッサ抜きで相談しているときに、タイミングの悪いことにフリッサに聞かれた。フリッサは、ウルエに確かめると言い残して、ルーデシアとシャルクスとメアリの三人はここへ移動して今まで相談していた。

 三人で魔導士の特徴は一致しているものの、誰も正体を知らない。

 ウルエと一緒に、のこのこと話題の魔導士が現れたものだから、普段は冷静なルーデシアも驚きをかくせない。

「処遇はルーデシア様に一任したいと考えています。今回のようなことが二度と起きないように、お願いします」

「え、ええ、任されたわ」

 ルーデシアは頷いて、襲撃の経緯について私見を述べていく。

「今回の襲撃は、アイギスのパーティーにウルエを入れたことが原因でしょうね。役立たずをパーティーに入れた、と不満を抱いている人も少なくないみたいだから。解決にしばらく時間が必要なのよ。それまでに、またウルエが襲われるかもしれない。そうならないように話し合いたいの」

 一度言葉を止めて、絶対に逃さないと変装フリッサの両肩に手を置く。

「ぜひとも、あなたの意見も聞かせてほしいの。……ああ、パメラは用済みだから、そのあたりに捨てておいて。さあさあ」

 ルーデシアは魔導士とは思えない素早さで回り込んで、フリッサの背中を押しながら部屋へ連れ込んで「ほら、ウルエも」と呼び掛けてウルエもまねく。パメラをひとり外に残して、ばたん、と扉を閉じて、フリッサとウルエを部屋中央のテーブルへ案内した。

「シャルクス、メアリ、当たりでしょう」

 テーブルの奥側にシャルクスとメアリが並んで腰かけており、対面のテーブルに着いた変装フリッサを観察するようにまじまじと眺めて、息を合わせたように頷く。

「ああ、当たりだ」

「間違いありません」

 当たりとは、フリッサの恋敵の魔導士で間違いないということ。

 ルーデシアは楽しい話が聞けそうと喜色満面、シャルクスとメアリのあいだに割り込むように座り「さて、あなたたちの関係を洗いざらい、話してもらいましょう」と紫眼を爛々と輝かせた。

 フリッサは呆然と口をひらいて、ウルエは首を傾げながら質問した。

「あのう、襲撃されないための話し合いですよね」

 ルーデシアは「ああうん、そうなんだけど」と言葉を濁して、となりでメアリが、こほん、と空咳して注目を集めさせた。

「はい、ウルエ様を襲撃させないために、あなたたちの関係も重要になります。例えばウルエ様に護衛をつけるとして、フリッサ様、シャルクス様、ルーデシア様の交代制になります。パメラ様は魔導士としては優秀で、返り討ちにするのは難しい。それを難なく捕らえたあなたを護衛に含めるなら、アイギスの負担も減ります。もしも恋人同士なら、メインで護衛を任せることになります」

 メアリの見事なフォローに、ルーデシアは親指を立てた。

「そうそう、そういう事情で、あなたとウルエの関係を確認しておきたいのよ」

「関係といわれても」

 ウルエは苦笑しながら、横目でフリッサを見た。

 気持ちは伝えたけれど、落ち着いて話そうという矢先にパメラに襲撃された。関係といわれても、今のところはパーティーの仲間。正直に仲間と答えたら、魔導士の正体がフリッサと打ち明けるようなものだ。フリッサも口もとに苦笑をうかべて、困り果てていた。

 しばらくの沈黙のあと、証拠を突きつけるようにルーデシアが言う。

「誤魔化そうとしても無駄だから。ウルエの歓迎会をした夜に、あなたとウルエが手を繋いで、凱旋通りを歩いているところを見たのよ」

「……うん?」

 フリッサはフードの奥で首を傾げた。

 訓練の終わりに水浴びをして汗を流しているときにも、おなじような話をルーデシアから聞かされた。魔導士と仲良さそうに手を繋いでいた、と。ルーデシアの一言が対抗心に火を点けた。ウルエと一番仲良しの異性でいたくて、露店市を一緒にまわろうと約束して、

「露店市の日にも、あなたとウルエが腕を組んで楽しそうにデートしているところを、シャルクスが見ているのよ」

「ウルエからのプレゼントを一生大事にすると、胸焼けするような会話もな」

 ああ、あれは、純白のドレスを一度着て、ローブに着直したから一時間も遅刻して、ウルエは怒るどころかプレゼントをくれて、一生大事にすると腕を組んで――と、ここでようやくフリッサは真相にたどり着いた。

「……記憶にございます」

 フリッサは項垂れた。

 はじめから、恋人の魔導士なんて存在しない。

 あまりに馬鹿な勘違い。人目がなければ、床を転げまわるほど恥ずかしい勘違いだ。

「早朝に道端で、あなたとウルエ、抱擁していたんでしょう」

「そうです。早朝にウルエ様の賃貸宿から一緒に出てきて、別れを惜しむように抱擁していたのを見ました。一夜を共にして、ウルエ様は一睡もしていないと仰られて」

 フリッサは詰問を受けているように背中を丸めて、弱々しい声で答えていく。

「……記憶にございません。……そうよ、抱擁したなんて嘘よ」

 フリッサは訝しむようにウルエを睨んで、ウルエは苦笑しながら答えた。

「二日酔いだから、忘れているのかも」

「……あ、はい、記憶にございました」

 恋人はいない。ウルエの一言が嬉しくて、メンブチハラハで泥酔するまで飲んで、起きたらウルエのベッドにいた。二日酔いの頭痛と眩暈でふらついて、支えてくれたのをいいことに抱擁したんだ。

「わたしは寝ていたのに、どうしてウルエは一睡もしていないの」

「好きな人と一緒にいるんだから、眠れるわけないよ」

 ウルエが答えた瞬間「やるな」「やるわね」「惚気ですね」と三人から冷やかしが飛んで、フリッサは頬を火照らせながら叫んだ。

「こんなときに口説くな、馬鹿!」

 あまりの羞恥に、ぱたん、と音を鳴らしてフリッサはテーブルへ倒れ込んだ。仲間のいるところで口説くなんて最低なことをされて、なのに嬉しくてたまらない。人目がなければ、床を転げまわりながら悶えていた。

「ごめん」

 反射的に謝ったウルエの腕を抱きしめながらフリッサは頬を膨らます。

「……でも、本当に恋人いないんだ」

 ウルエの腕に寄り掛かりながら、安心したようにフリッサは呟いた。

 今までは、ウルエの気持ちばかりに気を取られて、自らの気持ちは等閑にしていた。一度目に告白された丘で、一度距離をとり、はじめて考えた。わたしは、ウルエとどうなりたいのだろう、と――。

 今、ようやく、答えがでた。

 ローブで変装してまで探していたものを、ようやく見つけられた。英雄になれなくても、命と引き換えにしても守りたいと思えるもの。だからこそウルエとは一緒にいられない。ベヒーモスを倒した日から全財産のほとんどを注ぎ込んで探したウルエを、仲間からも外さなければならない。仲間に誘いながら、今度は外れてほしいなんて、あまりにも身勝手だ。ウルエを振り回してばかりで嫌気がさすけれど、これだけは譲りたくない。

「……ごめんね」

 声に出さず、口のなかで謝った。

 謝罪の言葉とは裏腹に心の底から温かな気持ちが溢れていく。日中は純白のドレスで訓練して、いつもより疲弊していた。訓練のあとは感情を掻きまわされて、心身ともに疲れ果てていた。

 ウルエの腕に抱き着いたまま瞼を閉じていく。

 好きな人と一緒にいて眠れるわけない、とウルエは言うけれど、反対だ、とフリッサは思う。一番安心できて、安らげるから。フリッサは静かに寝息を立てはじめた。

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