役立たずと言われて冒険者を辞めようとしていた僕を拾ったのは、街で最強のパーティーでした。 38
「僕、告白したんだ」
ひとり呟いたところで、上空に黒い影がぽつんと現れた。
現れた影は次第に大きくなり、ついにはウルエを覆うほどの影に成長して、
「うわあああああー」
転がりながら飛来した影を避けた。
影が地面へぶつかり、大地が悲鳴をあげるように轟音と強震が起こり、もうもうと砂塵が舞い上げられた。砂塵のなかを、五メートルほどの巨大な影がゆらめく。砂塵が風に流されて消えると、中から現れたのは魔導士を肩に乗せたゴーレム。
「あまりに避けないものだから、寝ているのかと勘違いしたわ」
くすくす、と笑ながら魔導士は女性の高声で言う。
ウルエは起き上がり汚れを払うと、魔導士の女性――パメラを睨みつけた。
「いきなりゴーレムで襲うなんて、どういうつもりです」
「襲うなんてとんでもない。わたし、ゴーレムの扱いには自信があるの。飛び跳ねるときに、土魔導で地面を固めて押しだせば、いくらでも高く飛ばせるわ。訓練の最中に誰かを押し潰しても、故意ではなく事故でしょう」
パメラは説明しながらゴーレムの肩から飛びおりて、サイドテールの髪を揺らして近付く。パメラもウルエを殺す気は、微塵もない。もしも避けなければ魔導を解いて、風魔導で流していた。
「ゴーレムの着地点に偶然、僕がいた。そういうことですね」
嘘というのは、ウルエも察していた。はじめのパメラの言葉は、着地点に人がいるのを知っていたからだ。どういう意図で襲われたのかはわからないけれど、フリッサが戻るまでの時間を稼ぎたい。今の轟音はフリッサにも聞こえていたはずだ。
「そういうこと。でも、ひとりで訓練しても面白くないわ。どうせだから、訓練の相手をしてくれない。アイギスの仲間になるほどの凄腕なら、わたし程度の魔導士なんて、どうとでもできるわよね。……ねえ、役立たずのウルエ様」
ぱちん、と指を鳴らすと、パメラの左右の土が盛り上がりゴーレムが二体出現した。
「ちなみに、僕に拒否権は」
「拒否したいなら、ちからで捩じ伏せればいいでしょう」
捩じ伏せれないから尋ねたんだけど、とウルエは胸中でぼやく。
ゴーレムは繊細なエーテルコントロールが必要なため、エーテルを乱しただけで呆気なく崩れていく。例えばエーテルを聴くときとおなじように、無害なエーテルを浴びせただけでコントロールを失う。魔導士の才能が少しでもあれば、ゴーレムにエーテルを浴びせて窮地を脱出できていた。
「魔導士を相手にゴーレムで戦おうなんて、馬鹿ですね」
ウルエの空威張りをパメラは鼻で笑う。
「おかしいわね。あなたからエーテルは聴こえないわよ」
パメラが言うと同時に、ウルエは舌打ちして走り出した。
「あ、こら、逃げんな」
どすどす、と地響きのような足音を響かせて、二体のゴーレムが追いかけてきた。運動の苦手なウルエよりも、よほど綺麗なフォームだ。
フリッサは謎の轟音を聞きつけて丘に戻り、フードの奥で首を傾げた。
「どういう状況なの」
落ち着いて話したいから、河原の水で顔を冷やして丘の戻れば、逃げていくウルエを綺麗なフォームで追いかけていく二体のゴーレムにでくわした。夢だとしても、相当にへんてこな夢だ。
ウルエを追いかけていたゴーレムのうち一体が空へ舞い上がり、人型のゴーレムから鳥型に変形して、ウルエを押し潰そうと滑空していく。
フリッサは相変わらず状況が呑み込めていないけれど、ウルエを助けようと体が動いた。
「本当に役立たずの雑魚だわ」
パメラは吐き捨てると指をひとつ鳴らす。滑空していた鳥型のゴーレムが途端に砂へ戻り、ウルエを呑み込んで――いく寸前にフリッサに抱きしめられて脱出した。
「アイギスの仲間に相応しくないわ。身の程知らず、恥を知りなさい」
パメラは悠々とゴーレムから飛びおりて、ウルエを呑み込んだはずの砂山へ近付く。
「恥を知るのは、あなたよ」
パメラは声のしたほうを振り返り、途端に硬直した。
片手で軽々とウルエを持ち上げて、反対の手はパメラの首筋まで一直線に伸びていた。まるで剣先を突きつけるように。ありふれたローブ、フードで顔は見えない。ウルエとおなじでエーテルは聴こえないのに、腰が砕けそうなほどの威圧感。正体はわからなくてもパメラの本能は、アイギスメンバーに引けを取らないほどの手練れだと見抜いていた。
勝てない。たとえ奇襲を仕掛けても。
「……で、なにをしていたの」
ウルエは一部始終、語り聞かせていく。
フリッサの威圧感は怒気へ変わり、尻餅をついたパメラのフードを掴む。
「ごめんなさい、ウルエ。話より先に、こいつをアイギスメンバーに引き渡してくるわ」
パメラは絶句した。
今回のウルエ襲撃をルーデシアに知られたら、罵倒されるよりも冷たい無視の刑かもしれない。石や雑草のように、完璧な無視。諦めずに話しかけて、三〇日ほど無視された果てに、うざいんだけど、と一言。アイギスは冒険者のリーダーという側面もあるため、冒険者同士の揉め事の仲裁などもおこなう。
無視の刑だけは嫌で、パメラは必死で懇願した。
「ごめんなさい、反省しています、もうしません、許してください」
涙ながらの訴えを無視して、フードを掴んだままパメラごと引き摺りながらハルジオンの街へ歩き始めた。
「あ、そうです、迷惑料払います。金貨五〇枚でどうです。美味しいものも甘いものも、いくらでも食べれますよ。お願いします、許してください」
凱旋通りまでの二キロメートルのあいだ、パメラの悲痛な訴えは続いた。




