役立たずと言われて冒険者を辞めようとしていた僕を拾ったのは、街で最強のパーティーでした。 34
二日酔いの薬と二度寝のおかげで頭痛はおさまり、二度目の朝を清々しく迎えたフリッサは、起きてすぐにいろいろやらかしたことを思い出していた。待ち合わせに一時間も遅刻したところから始まり、夕食を奢ると大口を叩いておきながら酔い潰れてウルエに払わせるという失態まで。
大失態のフリッサに対して、ウルエは完璧だ。
遅刻したフリッサに、先に露店市を楽しんでいたと謝り、マジェステをプレゼント。酔い潰れたフリッサを泊めて、さらには二日酔いの薬まで用意してくれた。
このままでは愛想を尽かされて、ウルエを魔導士に奪われてしまう。
どうにかしてウルエに喜んでほしい。
「マジェステをつけたら、喜んでくれるかな」
いつもは紐で縛りシニヨンにしているけれど、今日はハーフアップにしてマジェステで留めた。いつもの練習着だとマジェステも映えないから、純白のドレスを一時間かけて着ていく。ウルエに喜んでほしい一心で、訓練とは思えないドレスで決めた。
素敵、というウルエの一言ですべて報われた。
ウルエの嬉しい反応と、ウルエにいいところを見せたいという気持ちから、とてもいい訓練ができた。ただし、ドレスは通気性が悪いため汗と熱がこもり、どう考えても訓練に向いていない。肝心のウルエも途中からいなくなり、ドレスもとい蒸焼器を着てきたことを少しだけ悔いた。
ようやく訓練が終わり、フリッサは汗を滴らせながら肩で息をしていた。
「お疲れ様です」
メアリの手から革袋とタオルケットを奪い、革袋の水を一息で空にして、タオルケットに顔を埋めて汗を吸わせながら息を整えていく。今日の水浴びは、これまでで一番気持ちいい。そう断言できるほどに、体は疲れ果てていた。
「わたしとルーデシア様は、あとで水浴びしますので、フリッサ様は先にどうぞ」
メアリに促されるまま、いつもの河原に着いて、いつものように服を脱ごうとしたところで思い出した。今日はドレスを着ていて、着るのに一時間なら脱ぐのも一時間必要なのだ。さらには体に張りついて脱げないし。
でも、一刻も早く、水浴びをしたい。
「このまま飛び込んで……」
一瞬考えたものの、思い直した。純白のドレスにハーフアップで決めながら、水浴びしたいからと飛び込むのは、活発を通り越してお転婆だ。
「メアリの手を借りましょう」
フリッサは河水を名残惜しそうに眺めてから踵を返した。
メアリはシャルクスとルーデシアを呼び寄せて、なにやら話し合いをしているらしい。フリッサは背中から声を掛けようとして、けれどもシャルクスの声に掻き消された。
「ああ、ウルエが魔導士を口説いているのは見たな。仲良さそうに腕まで組んで、ウルエもやるなと感心したもんだ」
「その程度なら可愛いものです。わたしなんて、朝早くに道端で、ウルエ様と魔導士が抱擁しているところを見たんですよ。ウルエ様に尋ねたところ、一睡もしていないと」
ルーデシアは指を立てて口に添えると感心したように、
「へええ、一晩中。ウルエもやるわね」
「だろう」
同意するようにシャルクスも頷く。
「やるわね、だろう、ではありません。やりすぎです。このことをフリッサ様に知られたら――」
フリッサは敗者のごとく膝を折り、地面へ崩れ落ちた。
メアリは振り返り、途端に青ざめていく。フリッサへ駆け寄り、肩を貸して立ち上がらせると「……あの、フリッサ様」と呼び掛けたけれど、返事もなければ、どんな言葉で慰めていいかもわからない。
「……確かめてきます。件の魔導士と、どのような関係なのかと」
フリッサはひとり言のように宣言して、ふらふらとハルジオンの街へ歩き出した。
男女が一緒にいて、一睡もせずにしていたことなんて、ひとつしか思い当たらない。恋人はいないと話してくれて、魔導士よりもリードしていると思い込んでいたら、先を越されるどころか一線まで越えてきた。
本当は、恋人がいたんだ。
でも、いないと答えてくれた。
どうして、嘘を吐いたのだろう。もしかしたら、男女の関係でも恋人ではないのかもしれない。誠実なウルエが嘘を吐いたとは思いたくない。恋人ではないのに男女の仲になるような色魔とも思いたくない。言い知れない不安を抱えながら、フリッサは声を殺して泣いていた。




