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役立たずと言われて冒険者を辞めようとしていた僕を拾ったのは、街で最強のパーティーでした。 02

 あてどなく歩いているうちに、大通りを抜けてハルジオン広場に出ていた。

 円形の広場は端から端まで一〇〇メートルほどあり、中央に噴水が設置されている。戯れあう妖精彫刻の水盤からしたたり落ちた水が、不揃いな音の粒になり絶え間なく水面を叩く。噴水から扇状にすきまなく板石が並べてあり、ハルジオンの街は広場を中心に蜘蛛の巣のように道が張り巡らされていた。広場側から道の入口には街路灯があり、腰にランタンを吊るさなくても不自由しないくらいに明るい。

 一番大きな通りといえば街の出口まで一直線に伸びた、今しがたウルエが歩いてきた通り――通称、凱旋通り――になるけれど、街の中心地といえばハルジオン広場だ。ここでは一〇日に一度露店市が開催されて、様々なイベントの会場にも使われていた。

 ウルエは噴水のふちに腰をおろす。

 祭り騒ぎの凱旋通りほどではないにしろ、広場も人通りは多い。

 ウルエの眼前を背中のハーネスにクレイモアをおさめた筋骨隆々の重戦士、ソードベルトに帯剣した戦士、肩から足までをローブで包んだ魔導士の三人組パーティーが通りすぎていく。クレイモアのブレードは木目のような独特の紋様をしていた。ダマスカス鋼だ。

 ダマスカス鋼は値段と性能のバランスがよく、魔獣討伐に慣れてきた中級者のおよそ半数がダマスカス鋼の武器を愛用するといわれるほどに広く普及している。

(鉄の短剣すら持っていない僕をパーティーに入れてくれるわけないよね)

 すぐに別のパーティーへ青色の目を向けた。真剣な声で話しながら歩いていく四人組パーティーは、ギルドで受けた依頼の打ち合わせをしているらしい。声をかけても邪魔になるだけで、まともに話を聞いてくれるとは思えない。

 ウルエは大きく息を吐いて、足もとに視線を落とした。

「もう、諦めたほうがいいのかな」

 半月前は手当たり次第に声をかけていた。

 無視されたときは、声が小さくて聞こえなかったに違いない。そう思うようにしていた。迷惑そうに眉を寄せて睨まれたときは、たまたま不機嫌なときに声をかけたんだ。話を聞いてくれても罵倒されることが大半だけれど、どこかに僕を必要としてくれるパーティーもいるはずだから、と自らを奮い立たせた。

 一〇〇回も断られ続けていると嫌でも気付く。

 誰からも必要とされていない。パーティーに入れてもらうのは、奇跡でも起きないかぎりありえない。今のウルエは、諦めているくせに諦めていない振りをしているだけの抜け殻だ。

 遠くを見るような目で足もとの板石を眺めながら、ぶかぶかズボンのポケットに丸めて押し込んでいた一〇ページほどのパンフレットを取りだす。冒険者登録したときに配布されたそのパンフレットを、ウルエは手で丁寧に伸ばした。表面には掠れた文字で『冒険者の手引き』と書かれており、一枚捲るとエストックを構えた凛々しい女性が描かれていた。


   モデル・アイギスメンバー フリッサ・エンゼ・ルミナージ


 アイギスは神話の楯を冠した名称で、街で最強のパーティー。

 ギルドから給金を貰う代わりに、冒険者とギルドのあいだに立ち衝突を避けたり、討伐困難な魔獣が出現したさいに討伐へ向かう。街の冒険者を導くリーダーであり、ギルドに雇われたパーティーでもあるアイギスは、多くの人から信頼されるだけの人格と実績がなければ選ばれない。

 人口の二割が冒険者、六割が冒険者に関係した仕事に就くハルジオンの街において、フリッサは冒険者の頂点に立つひとりだ。

 風にそよぐように描かれた髪は長く、勇ましさと美しさが同居したフリッサの顔立ちは、戦女神のようにも見えた。話し掛けることさえ恐れ多い、雲上人。おなじ街で暮らしていても、ウルエとは見えている景色が違うだろう。

 ウルエは目を細めて慈しむようにフリッサのイラストに指を這わせた。

「へえ、冒険者の手引きか、懐かしい」

 ふいに、すぐ近くから声がした。

 声の主は、パンフレットを眺めるように屈み込んでいた。声の感じから妙齢の女性だとは思うけれど、ローブを着て、フードを深くかぶり、顔は見えない。黒地のローブは、裏地に赤紫の布が使われており、フードのふちや袖口などは裏地が見えるように折り返して仕立てられていた。ありふれた魔導士の恰好で、ひとたび見失うと探すのも難しいほどなんの特徴もない。

「君、登録したばかりなんだね」

「はい、半月ほど前に」

「そうなんだ」

 気さくな声に、ウルエは苦笑まじりに返答した。

 彼女は緩慢に立ち上がるとウルエのすぐとなり、右側に腰掛けてさらりと肩を組んできた。清々しくも甘い香りがふわりと鼻先を掠めていく。ヘリオトロープの花を乾燥させてポプリにしたような、その香りは、雲のない清々しい朝の空気と似ていた。

「借りるね」

 断りを入れるのと同時に、肩を組んだのとは反対の手でパンフレットを奪う。膝に乗せて「大事にしてるんだね。もしかしてフリッサが好きだから、大事にしてるのかな」と揶揄うような口調で尋ねてから、ウルエが撫でていたのを真似るようにイラストへ細い指を這わす。

 見られていたんだ、とウルエは途端に顔を赤らめて「違います、違います」と慌てて否定して、パンフレットを奪い返した。ぶかぶかズボンに押し込んで、ようやく一息吐く。

 彼女は口もとで微笑んでから、まるで違う話を始めた。

 仲間の愚痴と自慢、ハルジオンに来たばかりの頃の話など。ほとんどは雑談とも呼べない、一晩経てばどんな会話をしたのかも忘れるような話題をぽんぽん投げるように話してきた。まるで昔からの知人のように気さくな彼女に、ウルエの心のささくれは消えて、時間を忘れるくらいに話し込んでいた。

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