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役立たずと言われて冒険者を辞めようとしていた僕を拾ったのは、街で最強のパーティーでした。 28

 肝心の魔導士について訊けないまま露店市は終わり、店主たちは今日の売上の話などをしながらのんびりと店仕舞いをしていた。空は青から濃紺へと移ろい、せっかちな一番星は夜を待ちわびるように煌めき始めていた。

 フリッサは店仕舞いのようすを横目に見ながら、ウルエと組んだ腕を引き寄せて「夕食も一緒に食べよう、きちんとした食事処で」と耳もとで提案した。朝昼は露店市をまわりながら小腹が空いたら食べ歩きで済ませて、きちんとした食事はしていない。

「うん、落ち着いたところで、一緒に食べよう」

 ウルエの答えひとつで、フリッサの心は勝手に喜んでいく。でも、喜んでばかりはいられない。食事を終えたら、そのまま解散になるだろう。ウルエと一緒にすごせるのは、長くても三時間ほどだ。

 三時間のあいだに一言、恋人はいるの、と訊けばいい。例えばそう、今日みたいに一緒に露店市をまわるの、恋人がいたら悪いから。そういう建前で訊いて、いないようなら、次の露店市も一緒にまわろう、と次の約束も取りつけて――。

 フリッサは計画を立てながら、足は自然と凱旋通りへ向いていた。

「食べたいものがあるなら教えて、一番いい店に案内するから」

「僕はどこでも」

「どこでもは、一番困るんだけど」

 声だけは不機嫌そうに作りかえてフリッサは唇を尖らせた。ウルエは純白のローブから手を出して口もとへ添えると「食べたいもの、食べたいもの」と呟きながら真剣に考えていた。

 どこでもいい、は困るけれど、ウルエを困らせたいわけでもない。どこでもいいなら凱旋通りで一番の高級店にしよう、とフリッサは提案しようとして、それよりも早くウルエは口をひらいた。

「あ、食べたいもの、ありました」

「なんでもいいよ、プレゼントのお礼と遅刻したお詫びに奢るからさ」

 ウルエはちらりとフリッサを見てから、照れたように頬を染めて正面へ向き直り、言うのを躊躇うように口を開いては閉じてを繰り返した。食べたいものを言うだけなのに、口に出すのも勇気がいるように見えて、フリッサは首を傾げた。

 ウルエの食べたいものは、フリッサを絶望へ叩き落とすとも知らずに「本当に、なんでもいいから。遠慮しないで」と催促した。

 意を決してウルエは言葉にしていく。

「食べたいのは、リサが駆け出しのときに一番食べていたもの。おなじ店で、おなじものを食べてみたいんだ」

「ふえ……?」

 フリッサの口から空気の抜けるような声が漏れた。

 駆け出しのときに食べていたもの。おなじ店で、おなじものを食べてみたい。ウルエは確かに、そう言った。……魔獣を討伐して、空腹大絶賛の胃袋を満たすために、味より量に重きを置いていた時代に頻繁に利用していたメンブチハラハで、肉、とにかく肉食べたい、と注文していたボアの串焼きを食べてみたい、と。

「……なんの拷問よ」

「ごめんなさい、他に思いつかなくて。嫌なら、どこでもいいから」

 フリッサは小さく溜息を吐いた。

 ボアの串焼きは、喜んで食べるような料理ではない。手足のないロープのような見た目でにょろにょろ動くボアを見つけると、王都の女性は悲鳴をあげて逃げるらしい。皮を剥いだボアを串に刺して、塩焼きにした料理。王都の女性なら悲鳴どころか腰を抜かして、拷問だ、と罵るだろう。

 拷問だ。ボアの串焼きを食べていたと知られることも、食べるほうも。

「中央の人達には、たぶん拷問のような料理なんだけど」

「拷問のような料理なんて、反対に気になるから。……で、でも、大丈夫かな。僕、田舎育ちだから」

 フリッサは諦めてメンブチハラハに案内することにした。道すがら「本当に無理して食べなくていいから、代わりに食べるから」と、繰り返すように言い含めながら。

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