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役立たずと言われて冒険者を辞めようとしていた僕を拾ったのは、街で最強のパーティーでした。 26

 次の日、朝八時――。

 露店市の開催は一〇時からで、ひと気は少ない。とはいえ露店市は人気のイベントだ。凱旋通りの入口近くに古びれた布を敷いて場所を確保していたり、商品を並べ始めていたり、今から準備をしている人も少なからずいた。

「早すぎたかな」

 約束の時間よりも一時間早く着いたウルエは、念のために噴水をぐるりと一周しながらフリッサを探して、まだ居ないのを確認すると東南の通路が見えるところの噴水のふちへ腰掛けた。東南の通路は高名な人々の暮らす区画で、フリッサの舘も東南の区画にあるからだ。

 ぼんやりとすごすうちに、段々と準備の人も増えてきた。

 準備の人達を横目に見ていたウルエはうずうずと堪えきれなくなり、並べられた商品のまえに移動して屈み込んだ。美しい金銀細工、用途のわからない変な道具。細工も用途も様々で、一日中見ていても足りない。

 わあー、と感嘆の声をあげたウルエに、店主の女性は微笑んで目線を合わせるように屈み込んだ。店主はウルエの視線の先を追いかけて、ハルジオンの花のマジェステを取り、ウルエへ差し出す。外側の白い花びらは銀細工、中央の筒状花は金細工、葉のところに穴をあけてスティックを差し込むように作られた髪飾り。ウルエは両手で大事そうに受けとり、フリッサの銀髪によく似合いそう、と思いうかべていた。

「銀貨三枚になりまーす」

 店主の元気な声に「……え、でも」とウルエは言い淀んだ。

「好きな人へのプレゼントなんだよね。あーあ、こんなのプレゼントされたら、絶対に君のこと好きになると思うな、惚れ直すと思うな――」

 そこまで話した店主は急に小声になり、甘く耳打つように囁く。

「――今なら銀貨二枚でいいからさ、特別に。お姉さん、君の恰好いいところ見たいな」

 値段で悩んでいると勘違いしたらしい。

 ウルエが悩んでいるのは、一緒に露店市をまわろうと約束したのに、ひとり先に楽しんでいたと思われたくない。プレゼントしてフリッサが気に入るかもわからない。

「ほらほら、君も見たいでしょう。好きな人が君のプレゼントを喜んでくれて、身につけてくれるんだよ」

「うん、見たいけど」

「そうだよね。そのうえ、相思相愛になれるんだから。銀貨二枚くらい安いもんでしょう」

 あまりに商売熱心な店主に、ウルエは小さく笑う。

「プレゼントしても、相思相愛にはなれないんじゃないかな。僕と彼女だと、まだまだ釣り合わないから。手が届かないほど遠い人なんだ」

「あらら。相手は、お姫様かな」

 揶揄うような声で尋ねられて、ウルエは「似たようなものかな」と誤魔化した。

「難儀な恋をしてるんだね。……あ、お姫様のプレゼントなら、高価なほうがいいかな、いいよね、うん、そうしよう」

「ううん、これがいいです。彼女に似合いそうだから」

 ウルエは言いながら、値引きしてくれた銀貨一枚も含めて銀貨三枚を手渡した。プレゼントを値引きしてもらうなんて格好悪い気がしたからだ。

「でも、いいんですか。露店市は一〇時から開催なのに、ルール違反になりませんか」

 店主は笑いながら「真面目だねえ」とギルドの外壁に備えつけられた大時計を指差した。ウルエは振り返り、時計より先に噴水のふちに座り寂しそうに俯いている目立たないローブを着た人を見つけた。露店市開催の一〇時の鐘が鳴り響く。

 ふいに顔をあげたローブの人はウルエを見つけて、弾かれたように立ち上がり駆け出した。

 ウルエの眼前でぴたりと止まり、一足遅れて、ふわりとヘリオトロープをポプリにしたような香りがした。フリッサの香り。

 腰を直角に曲げて深く頭をさげて、

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

 ウルエとフリッサの声が重なった。

 顔をあげたフリッサはフードの奥で首を傾げて「どうしてウルエが謝るの、もしかしてウルエも遅刻したの」と尋ねた。

「ううん、一緒に露店市をまわろうと約束してたのに、ひとりで先に楽しんでたから。お詫びに、これ、フリッサ――」

 ウルエは言葉を止めて「リサに!」と大声で言い直した。

 ローブを着ているときはリサと呼んでほしい、正体を知られたくない。そう言われたことを思い出したからだ。

「リサに似合いそうだから」

 ハルジオンのマジェステを差しだす。

 フリッサは躊躇いがちに受けとり、両手で抱きしめるように胸に押しあてた。

「ありがとう、一生大事にするよ」

「一生は大袈裟だから」

 あまりの喜びように、ウルエは苦笑しながら返した。

 フリッサはフードを左右に振り「ううん、大袈裟なんかじゃない。一生でも足りないくらいだもん」と頬にえくぼを作り、ウルエの腕を抱きしめた。

 胸焼けしそうな惚気を見せつけられて、手が届かないらしい彼女と腕を組んで歩いていく背中を見送りながら、店主の女性は「お幸せに」とエールを送り「ウルエ、やるなあ」とすぐ近くから声がした。

 声のしたほうを向いて、店主は尻餅をつく。

 ラセットブラウンの髪、逞しい体の青年。なにも知らなければ眉目秀麗な好青年に見えるだろう彼は、ハルジオンのアイギス。密かに恋心を抱いている女性も多く、店主も人のことを言えないくらいにはシャルクスに好意を寄せていた。本当に手の届かない人というのは、アイギスみたいな人たちを指すのだろう。

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