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役立たずと言われて冒険者を辞めようとしていた僕を拾ったのは、街で最強のパーティーでした。 20

 次に歓迎会を抜けたのはフリッサで「今夜は用事があるので、一足先に戻りますね」と申し訳なさそうに話して、去りぎわにウルエの肩を軽く叩いた。

「――あの場所で、お待ちしています」

 空耳と勘違いしそうな小さな声で、フリッサは囁く。

 ウルエは思わず振り返るけれど、フリッサは普段通りの笑顔で「みなさんも、あまり遅くならないようにしてくださいね。……では、おやすみなさい」と一礼して背を向けた。月明かりに照らされてなびく銀髪は、一度も振り返らない。

 さらに一時間ほど親睦を深めて歓迎会は終わり、凱旋通りの入口に差し掛かったところで解散した。

 どうして入口で解散したかといえば、凱旋通りに入った途端に、どこからともなく妖艶な女性が二人現れたかと思うと、シャルクスの腕を左右から抱きしめて「今夜の相手が決まらないなら、わたしが務めますよ」「シャルクス様のために、今夜は空けております。相手をしてくださいな」と、なすがままのシャルクスを娼婦館へ連れ去り、ウルエが呆気に取られているあいだに、オーク樽のタペストリーに『幻の銘酒、ペトリュス入荷』と手書きの布が縫いつけられた酒場に、ルーデシアは吸い込まれるように消えていった。

 ほんの一〇秒ほどの出来事。

 ウルエはしばらく立ち尽くしていたものの、ここで解散したほうが都合がいいと考え直した。他のメンバーに知られたくないから、フリッサは耳打ちで約束したのだろう。知られてもいいなら、これからウルエと約束があると連れ出していたはずだから。

「でも、あの場所というのは……」

 心当りは出会いの場所、ハルシオン広場の噴水くらいしか思いつかない。

 凱旋通りからハルジオン広場へ入り、噴水を目指して歩いた。噴水のふちに目立たないローブを着た魔導士風の恰好をしたフリッサを見つけた。足早にウルエは近づいて、気配に気づいたフリッサも顔を上げてフードの奥の口が嬉しそうに三日月を描く。

 いつもの恰好をしていればフリッサは注目の的だけれど、フードをかぶり顔が見えないため、フリッサのほうを見ている人はいない。反対にウルエは注目を集めていた。もちろん、件の個人依頼のせいだ。

「こんばんは、ウルエ」

「こんばんは、フリッサ。……ごめんなさい、遅くなりました」

 肩を寄せ合うように座ると「ううん、ありがとう、来てくれて」とフリッサは口もとで微笑んで「あ、でも……」と思い出したように話した。

「ローブを着ているときは、名前を呼んでほしくないの。名前がなくて不便なら、そうだね、リサとでも呼んで。……わたしの正体は誰にも、アイギスメンバーにも知られたくないんだ。いい、内緒だからね」

 いつもの背筋が伸びるような凛とした声ではなく、あの日のように親しみやすい声。そこまでの秘密を、どうして出会いの日に打ち明けてくれたのだろう、とウルエは思う。

「ウルエは特別だから」

 ウルエの思考を読んだように、フリッサは静かな声で言う。

 特別、とウルエは口のなかで唱えながら、どういうことだろうと考え始めた。しばらくして赤面すると「もしかしてだけど、一目惚れとか」と尋ねた。フリッサのように有名なら、出会う前から特別でもおかしくない。ウルエが憧れていたように。

 でも、ウルエに知名度はない。

 フリッサは、ぽかんと口を開いたかと思えば「そんな惚れやすくないわよ、もう」とおかしそうにウルエの背を叩いた。

「あ、でも、好意がないわけじゃないよ。だけど、特別な理由は違うから」

「そうなんだ。……うーん、特別か」

 ふたたび考え始めたウルエの手をフリッサは握り「こんなところで長話もなんだから、とっておきの場所に案内するよ」と立ち上がらせて、手を繋いだまま凱旋通りをウルエが来た道を戻るように歩き始めた。

 ペトリュスの布看板に小さく、一人一杯まで、と書かれているのを見落としていたルーデシアは、こんなことならウルエとシャルクスを連れてくるんだった、と思いながら凱旋通りの出口あたりを徘徊していた。向こうから歩いてきたウルエを見つけて、声を掛けようとしたけれど手を繋いでいるのを見て止めた。逢引の邪魔をしてまで二杯目のペトリュスにありつこうとは思わない。背中を見送り、手を繋いでいた相手は誰だろう、と首を傾げる。

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