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役立たずと言われて冒険者を辞めようとしていた僕を拾ったのは、街で最強のパーティーでした。 15

 次の日もフリッサはギルドマスターの部屋にいた。

 応接ソファーに仰向けに寝転んで両手を後頭部で組み、白い歯でウルエのシグナキュラムを噛んで退屈そうにしていた。ようやくウルエを見つけたのに、顔色は優れない。

「ウルエに、保留にされてしまいました」

 気怠そうにフリッサが報告すると、シグナキュラムは口からこぼれた。耳もとのソファーが受け止めて、チェーンが首をくすぐる。フリッサの個人依頼の受領書を書いていたサムルクは、一旦手を止めて同情の眼差しを向けた。

「おや、もう愛の告白でもしたのかね」

「違いますよ、なんの話ですか。わたしたちのパーティーに入るのを保留にされたんです」

 アイギスメンバー任命の流れは、候補者をギルドが指名して、アイギスメンバー全員の同意と本人の承諾で決められていた。大抵はアイギスの引退にともないパーティー単位で指名するのだが、実績のない者を任命すれば冒険者から反感を買う。

 ウルエをアイギスメンバーに任命しようとは、今の時点では誰も考えていない。

 パーティーならアイギスでも自由に組めるため、そういう形でウルエを入れるつもりだった。そうして実績を積み、徐々にでも周囲を変えていきながら、いずれはアイギスメンバーに任命するという腹積もりだ。第一歩から躓いた。

 サムルクは受領書の担当欄に名前を記入して、スプーンに乗せて溶かしていたシーリングワックスを名前の横へ落としていく。ギルド紋章の刻印されたスタンプを押しつけて、シーリングワックスが固まれば完成だ。完成したばかりの受領書をフリッサの腹のあたりへ投げるように置く。

「またのご利用、お待ちしています」

「無理、懐が寂しい」

 丁寧なサムルクに、フリッサは吐き捨てた。

 報酬と手数料、全発布依頼金、合わせて金貨八八二〇枚。ウルエ捜索の代金はすべてフリッサが出していた。おかげでフリッサの全財産は金貨一〇〇枚にも満たない。

「ま、保留も仕様がないだろうね」

 対面のソファーに腰掛けながら、サムルクは言う。

「働いていた店の店主に眠り薬を盛られて、身包み剥がされて、両手足を拘束、さらには簀巻きにされて。全裸で君と再会して、君は他人の振りをしたのだよね。……これらすべて、大本の責任は君にあるんだから」

 改めて聞かされると、あまりに酷いことをした、とフリッサも思う。もしも他人の話なら、そんな悪女とは絶縁すべきだ、最低女だ、と助言していたかもしれない。ここまでの仕打ちをしておきながら、謝りもせずに水に流して、パーティーを組もうなんて鉄面皮の千枚張り。まずは誠心誠意謝罪して、許しを請うのが先なのだ。

「話してくれないかも」

 昨日は気さくに話してくれたけれど、確認のために仲間に入れるという話題を出したとたん「しばらく、時間をください」と保留にされた。ウルエにした仕打ちを思い出したのは、ブランケットに入り眠ろうとしたとき。そのため、昨日は一睡もしていない。

 ウルエに話しかけるだけでも勇気がいるのに、無視されたら三〇日は立ち直れない。

「保留を口実に、話し掛けてみるというのは」

「……口実ですか」

 ぼんやり繰り返して、フリッサは大きく息を吐いた。

 例えば「パーティーを組むという話ですが」と話しかけても「あの話なら、お断りします。さようなら」と、けんもほろろに返されたら二度と話しかけれない。もう二度と話せないと思うだけで、フリッサの目尻にじわりと涙が溜まった。

(話したい、たくさん。あの日のように……)

 保留の口実は使えない。ウルエに話し掛けてもいい、心の拠りどころでもあるから。

 うだうだ考え込んで踏み出せないフリッサの背中を押すように、サムルクは人当りのよい笑顔で語りかけた。

「冒険者は自由業で過度なギルドの介入は望まれていないのだが、ウルエの有能さは、わたしも認めているところだよ。君たちアイギスメンバーがパーティーを組んでくれるなら、安心して任せられるだろう。わたしたちハルジオンギルドとしても理想的な展開だ。ウルエの件は、アイギスの手腕を発揮して、是非ともパーティーに引き入れてほしい」

 フリッサは起き上がり、半目でサムルクを見据えた。

 好々爺なだけでギルドマスターに抜擢されるはずがなく、口達者で、なかなかに腹黒い、とフリッサは胸中で思う。ギルドマスターにここまで言われたら、平凡な冒険者であれば有頂天にもなるだろう。

「ギルドはなにもしないけれど、頑張れということですよね、それ」

 フリッサは一言でまとめた。

 わざとらしく爽やかに歯を見せた好々爺のギルドマスターは、

「なにもしないなんて、心外だなあ。期待して、さらに応援しています」

 右手でこぶしを作り、親指を立ててみせた。爽やかなサムルクの笑顔に、どんどんとフリッサのやる気は削がれていく。

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